すみません竜は強かった


〈luck Key〉モードで幸運を付与すると光のエフェクトが体を覆い、謎の躁の精神状態になる。


1時間のタイムリミットで幸運の付与は解ける。


はじめはスマホスキルの時間を目安にしていたが、何度も使う内に付与が切れたという状態の切り替わりが体の怠さや心の冷めようで分かるようになった。



今、俺は3度目の自己幸運マイラッキーを自分に付与している。


それは前二回の幸運付与が1時間という猶予を無視して剥がされたからだ。



「おい! 何故にワシらは助かっとるんじゃ! 」

俺の背中に退避しているギルドマスターのジジイゲルハルが叫ぶ。


岩山の足場は黒く焦げ、一部はガラスのようにツルツルになっているが俺とジジイゲルハルの足回りは焦げや熱が幸運luck付与で無い。



「いいから! 下がってろやジジイ! 」

「むぅ! 」

眼前…… 斜め上の中空(ちゅうくう)には次の豪炎の息(ブレス)を用意している赤竜が睨む。


1度目、2度目は幸運で凌(しの)げたので、今回も大丈夫であろうか…… ?




そうなのだ、親の赤竜の攻撃である豪炎の息を幸運で空振り・・・させた時に今までのように1時間の幸運時間ラッキータイムが維持できずに幸運付与が強制的に剥がされたのだ。



俺は心の中で歓喜しながら直様(すぐさま)に2度目の幸運を付与し、剥がされ…… そして3度目の幸運を付与して現在に至る。


そう、俺は歓喜したのだ。

キッカリ1時間の幸運時間ラッキータイムしか付与出来ないと思っていたのに打ち消キャンセルされたのだから、何かの要因を果たせばいつか幸運時間ラッキータイムが伸ばせる可能性もあるという事だ。



縮むなら、伸びる事もある…… だろ?



「kyyy…………!! 」

親の赤竜の豪炎の息が来る寸前に、死んだと思っていた息絶え絶えの赤子竜が不意に半身を起こし、偶然・・俺とジジイゲルハルの盾になり、そこに真っ赤な光線のような炎が物理法則など無視するように真横から飛んでくる!


ゴーーーーーーーーッ!

まるで新幹線がマックススピードで横を過ぎるような迫力で赤竜の豪炎の息が俺とジジイを避けて過ぎていく。


「チッ! 」

体の怠さがあるな。やはり幸運付与が剥がされている……それに……


◆この場における起こり得る幸運は逃走のみとなります→ 逃走に幸運付与しますか?


〈luck Key〉もこの場での幸運の打ち止めを告げている。




ドワルド鍛冶屋で文字を覚える為に読んだ絵本には竜の息ドラゴンブレスは軍をも滅ぼすとあったのを思い出す。

この三回の赤竜の放つ豪炎の息を偶然に避けれた事だけでも奇跡なのだろう。


もしかして幸運付与を上回る不運が来る場合は

相殺され幸運付与が剥がされるのかもしれない。



「おいダンデス、どうなっとる」

何故、ワシは生きている? という顔をしているな……

幸いな事に親の赤竜は、子を自ら殺してしまった事に嘆いているようでギャーギャーとじゃかしく騒いで此方(こちら)を見ていない。



作戦を立てるなら今しかないな。

男子たれば死中に生を求むべし…… 逃げても下山の中に空中から捕捉されて豪炎に殺(や)られるだろうし、ここは立ち向かい赤竜を殺すしかないだろう。


〈luck Key〉俺の自己幸運は幾ら残っている?


◆術者の幸運は残り2500です


そう、なかなか貯めたと思う。

時間がある時や寝る前に少しずつ貯めた幸運だ。

もちろん反動の不幸もあった。人前でズボンが破けたり、あらぬ変態の疑惑をかけられたり、シャティの胸を街頭で押し倒し揉んでしまったり……


ちなみに、赤竜の豪炎を避けるのに使った幸運は一度に300ポイントだ。


このまま避けに使い続けるのも悪手であろう—————


———— 「ジジイ」

「何じゃ色男」

「…… ジジイに言われると全く褒め言葉に聞こえんな」

「褒めると思っちょったのか? 浮かれるのは顔だけにせい」


んふふふふふ…… と2人で急場なのに笑い合う。

「阿呆(アホウ)かワシらは」

「然(しか)り然り」

「竜を前にして遊ぶは阿呆じゃ。ジジイ、赤子の竜を包(くる)んだ影の掛(か)け物で親赤竜は包めないんか? 」

「…… 無理じゃ。力やら魔力やら大きさが赤子の竜と段違い…… 泣き言で恥を言うが、ワシの魔力では…… 赤子の竜を包んだワシの魔法〈影縫い〉は力不足じゃわ…… すまん 」



俺は回答を得た喜びから腕を組んで笑い頷く



「ならば、魔力を上げればいいんだな? 」



俺は〈luck Key〉にジジイの幸運を500付与させ、そのままエルフの指輪を使い500ポイントの魔力アップをさせた……


ポンとジジイの背中を叩く

「あ…… あ…… これは…… なんじゃ? 」

ブルブルと自分の魔力量が急激に上がったのを感じて震えるジジイの顔がやたらと笑える。



「魔力を上げればいいんだな? 」

笑うのを我慢しながらジジイにもう一度、問う。


「…… っ! オマエは何をしたんじゃ…… この歳でこのような高みを味わってしまうとワシは…… 」

「さぁ…… やってくれよジジイ! 」



ジジイゲルハルは唖然とした顔を獰猛な化け物のような笑顔に変え、赤竜に両の手を向け〈影縫い〉の魔法を発動させた———— ‼︎‼︎

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