ジジイ対ジジイ
「ふん、んなわけあるかいな! 」
ワシはギルドの受付から届いた報告書を部屋付きの職員ルルルに投げる。
図体が大きなルルルに当たった報告書はバサバサと音を立てて床に散らばる。
「ギルドマスター、イライラとされてますね」
「そらそうだろうよ! 詐欺働かれて金を渡したとなればイライラもするわな 」
報告書にはブルーオーガの討伐の完了と街道の再開への段取り、それにブルーオーガを討伐した冒険者の情報があった。
「…… 」
最近まで農民だった娘と碌な武器も携帯していない少年の二人組がブルーオーガを討伐しただと?
ありえんだろ?
2人の聴取通り、少し魔物に食われたブルーオーガの確認を職員が検分したが外傷はなく首に刺し傷だけがあったと報告書に記載されていた。
魔法を使う能力があるなら分かる。まだ子供の稀代の天才はまれに現れる。
だが、剣で殺したとしたら剣のスキルがあったとしてもボスクラスのオーガを殺すには相応のフィジカルが必要だ。
娘と少年の外見はこう記載されている、、
少年は少女のように美しい顔をしており筋肉はあるが細身、身長はまだ低く見た目は10歳を過ぎたところだろうか。
少女は農民が好む麻のドレスにエプロン、食事が満足に摂れていないのか華奢、身長から見て歳は6〜8歳頃に見える。
———————— 馬鹿野郎が。 この2人がブルーオーガを殺したってか?
誰かが殺したブルーオーガの死体を漁っただけだろうが?
ガキ2人にもう報酬の一部を払っただと?
冒険者ギルドを潰す気かよ!?
手癖の悪いガキには小遣いじゃなく、お仕置きだろ?
そうと決めたら用意をしてやろう。クソガキを在籍させていたら、いずれ汚名を被る事になるわ。
大人を騙した罰に最高にビビらせてガキ2人には自主的に冒険者ギルドを辞めてもらおうか。
ワシは壁の窓を閉めて光魔法をうっすらと灯す。
「おっと、天窓の光も遮らんとな」
壁にある紐を引くと天窓の少し建て付けが悪くなった雨戸がガタガタと閉じる。
「さて、もうくる頃じゃろうか? 」
ワシの魔法を邪魔せん程度の灯りの中でルルルはため息をついた。
——————————————————————————……
「…… なにをした? 」
小僧の体から僅かに魔法が揺れ、ワシを見透かす目をしよった。
何かされたのは確かだわこりゃ。
…… 実に世間様に対して善(ヨ)く無ぇな? 中途半端に力がある悪童は市民には害になる幸い部屋にはルルルしかおらん。
殺してしまい、ギルドマスター権限で事故として葬ってやろう。
ワシの魔法〈影縫い〉を発動すると小僧は驚きの顔を見せる。色男の真剣な顔に娘は見惚れとる。虜にしとるなら小僧を殺すだけで娘は悪さに飽きるやもしれんな。
「なぜ? 」
小僧はコクコクと必死に唾を飲もうとしとる。
腰を抜かさんという事は…… ワシとやるつもりか?
「だから、ブルーオーガを倒したと信じらんからじゃよ! ほっほ! 」
小僧に答え、このワシと対峙しようとする小僧を殺すとしよう。
………… うむぅ!!?
何故じゃ? 小僧が睨んだ途端にワシの昔やらかした膝(ヒザ)が痛みよる。腰など冷えた鉄板の上で一晩明かしたようにガチガチに痛む
年寄りになってもこんな日はなかったわ…… もしや…… 小僧はホッとした顔をしとる。
安心ができるような事をされたか?
「また…… 何かしよったか? 」
これは拾いもんかもしれんな!
ちょいたのしんでやろう!
〈影縫い〉を駆使してワシは小僧を捕まえようとする。
ワシはどうも痛む足を庇い座りを胡座(あぐら)に変えて小僧を睨み両手を動かし影縫いを本格作動させた———————!———————————————————………………
…………————————…………
日が傾きだした頃にワシの部屋に飛び込んだロック鳥の子供の処分が終わった。
せっかく壁が無くなり見晴らしの良い部屋になったので瓦礫を積み上げ腰を下ろし酒を飲む。
ルルルが何か言うとるが終(しま)いじゃ。今日の仕事は終い終い。
しかし影縫いを避けられたのも、影縫いを解除されたのも…… いつ振りじゃろうか?
小僧はとぼけておったが嘘じゃわ…… ワシの影縫いの精度は自慢になる程に凄いんじゃワシと小僧の
「ホンマに良い拾いもんなのかもしれんな」
小僧とは詫びた後の話も合(お)うたしの…… 見た目は小僧じゃが話すリズムや落ち着きが人生の年輪を感じさせた
「オマエはエルフ族か? その見た目の歳じゃないじゃろ? 」
「え? 人間ですが? 」
「ええ! ダンデスさん人間だったんですか? 見た目は若いのに私を子供扱いするし…… 」
娘も驚いとったわ。いや、実はワシが一番 心から驚いておったかもしれんな。
「私と同じ歳ぐらい? 」
「え? シャティって6歳ぐらいだろうに? 」
「失礼! 私はこれでも13歳よ! 」
「「えぇ!!? 」」
ワシと小僧の驚きは同時じゃった。
そうか、農民の格好にギルド登録者、痩せ型の体型という事は捨てられたばかりの貧農の出かのう? 栄養が足りず幼く見えよるのか?
「難儀な世界よなぁ…… シャティ、よう頑張って生き残った」
「おうよ、小僧の言う通りじゃ」
小僧は優しく孫にするように娘の頭を撫でよる。
「おう、小僧…… オマエは本当に子供かえ? 」
「さあーてね? 知る必要も無いだろうに? 」
ワシと小僧はクックックと笑い合うた
——————————————————————————……
「ダンデスか…… おもろいガキが王都に来たな」
ダンデスに十分な能力(アビリティ)があるとワシは判断し、ワシは奴にやる正しい報酬を考えながら酒を飲み楽しんだ。
そうそう、一つの報酬はスグに渡せるわ。
明日、住んどる宿屋に遊びに行って届けてやろう。
「タ…… タバコはこの世界にあるのか? ならばくれないか? 吸いたくてならん。」
何か入り用はあるか? の言葉の後のダンデスのソワソワした動きを思い出し笑む。
…… そうかそうか、
タバコのぅ…… ほっほっほ!
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ギルドでの騒動の翌日、早速ギルドマスターのゲルハルが杖をつき、土産に甘いのを持って宿を訪ねて来た。
能ある鷹は〜という諺(ことわざ)の通り人々に紛れた時の見た目は好々爺といった風で数秒は脳が誰かを理解出来なかった。
このゲルハルの来訪は身長伸ばすゲームと言いながらドンドンとジャンプをするシャンティから逃れるには丁度よくシャンティを宿に残して外に出れた。
シャンティもゲルハルが仕出した甘味に目が行っていたしね。
ゲルハルも意図したように身体を部屋のドアから離さなかったから外で話すのが良かったんだろう。よしよし。
———————— 「ここが良いんだよ」
王都の広場にある階段を登り建築を辞めたかしらデッドスペースになった青天井の人がいない王都の中にある石橋の上に連れ出された。
風が気持ちいい。
建物と建物の間から丁度、風が吹き抜ける場所なんだろう。
階下の石畳の道を子供が笑いながら駆けていく。
「ほれ」
ゲルハルはニヤリと笑い懐から朱色の袱紗(ふくさ)を取り出し俺に差し出す。
「お…… おい! こりゃあ…… 」
ハラリと片方の袱紗を開くとタバコが木箱に詰まっていた。
しかも見慣れたような紙タバコかよ…… どうなってんだ異世界
「火は? 」
「いい、自分でやるのが好きだ」
おぉ…… 日本では金がなくてしばらく吸えなかったタバコが……
日本での生活の通り慣れた手つきでタバコを口にして火をつけようとした所でニマリとゲルハルは笑いひょいと一本タバコを取り上げて咥えて我先に火魔法でタバコに火を付ける。
ぐ?
ぐへぇ!?
「ゴッヘゴへ!! 」
俺はゲルハルから漂うタバコの煙でたまらなくなり咳き込む。
—————— 毒…… か?
いやゲルハルからの煙だぞ?
「ほっほっほ、その若い身体ではタバコの煙はキツイのかもしれんのう」
「なんだと…… ? 」
そういえば、この喉のいがらっぽさは子供の頃にウチの親父の部屋のタバコの副流煙で
俺はそういえばタバコが苦手な子供だった。
それが歳を取り仕事の疲れやら恨みやらから逃れる為に友人から進められて[吸えるようになった]んだった。
「…… いつか吸える時までアンタの命は
「ほっほっほ、異世界人とは面白いのう。わざわざ返してくれるのかえ? あと勝手にワシの寿命を決めるな」
サーーッと風が流れる。
「なんと? 」
「コレな、過去にいたワシの友人の異世界人が持ち込んだもんなんよ。
「ほ、、 ほぅ…… 何かから空想で結びつけたか? 俺は異世界人ではないぞ? 」
なにを間違えた?
なにをされる?
思考を定める時間稼ぎにトボけてみせる。
「いやいや、オマエが言ったんじゃろうが
「ん? タバコは吸うものだろう? 」
……ゲルハルはニヤニヤとタバコの火を薄く笑った目で眺める
美味そうに吸いやがるぜ。
「イマイチ伝わらんようじゃのぅ、噛み砕くとするか…… えーっ…… この世界にはタバコは無い。この巻いている薄い紙も無い。中の葉っぱも生産されておらん。タバコを知っていて[吸う]という言葉を使うのはワシの友人の異世界人のみだった…… で分かるかい? 」
「…… 了解はしたく無いが分かった…… どうしたい? 」
俺は、欄干(らんかん)に手を添えて逃げる準備をしながらゲルハルの答えを待つ。
「フーーーッ。奴が遺したタバコを久しぶりに吸ったわ…… なぁ、」
「あん? 」
「異世界の話とかしてくれよ」
「…… イヤだね」
「やっぱり異世界人じゃねえの。ほっほっほ、」
ゲルハルは昼のふとした静寂を楽しむように煙を燻(くゆ)らせてそれを目で追い遠くを見る。
…… 本当に美味そうにタバコを吸いやがる
「今は何もせんよ。立場上、確認をしたまでじゃ」
「…… ふぅーん 」
今は…… だな。まぁ嫌な顔をしちゃってからにこのジジイ。
「本当は何歳じゃ? 」
「50歳は過ぎとる」
「…… カッ! 」
「笑うなや」
嫌なジジイだわほんとに。
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