実験
「おいおい…… 」
「平気です! 」
「いやお嬢ちゃん、あまり調子にのるといけんよ? 」
シャーンティは頗(すこぶ)る能動的な少女だった。
冒険者登録しているのには驚いたがゴブリンを狩ろうとしていたのを思い出すと、それもそうかと思い至る。
俺たちは今、王都グラディウスの南門から出て少し歩いた岩場にいる
ここでは鬼(オーガ)が最近出没して街道封鎖となり商人ではなく冒険者が商売をする場所になっているのだ。
シャーンティの話では今年の夏の暑さは酷く作物や飼い葉が育たない状況にあるらしい。
環境の悪化で森や山で鹿や熊などの食事が摂(と)れないのか街道にまで降りてきて人を待ち伏せをしているというのが冒険者ギルドの見解だ。
…… 鬼(オーガ)は知識、知性がある魔物で見た目も獣人に近いが好戦的で人を喰らうのを楽しみとしているので討伐対象にもなっている。
それに人種族には無い魔石もある。
魔物のカテゴリーなんだろう。
〜今回の実験は俺がオーガのluckを奪い、シャーンティに幸運を付与するとどうなるか〜 だ。
オーガの前でシャーンティはストレッチと体操をした後にゆっくりとミドルソードを抜き出す。
luckをマイナス50にされたオーガは…… 100ポイント幸運を付与したシャーンティを殴り殺そうとするが当たらない
ストレッチの途中のポーズが丁度、攻撃を避ける動作になるのだ。
そしてシャーンティがゆっくり抜いたミドルソードを下に向けると岩に足を取られたオーガがまるで自殺するように刃先に進む。
「わわ! 怖い! 」
シャーンティはオーガの巨体にさすがに驚き身を引くと、その引いた方へ体がズレる。
オーガの足元に窪みがあったのだ。
オーガは当然のようにミドルソードの切っ先に倒れ込みシャーンティに血飛沫(ちしぶき)がかからないように、彼女のか細い腕の力を必要としないように優しく深く刃を差し込んで死んでしまった。
「おいおい…… これはヤベーな…… お嬢ちゃん大丈夫かい? 」
シャーンティは、はあはあと息を上げ興奮するようにこちらを見て笑いながら頷く。
「ダンデスさん、私の事はシャティって呼んで下さい」
「ん? 」
「お願いします! 」
どうやら幸運付与モード中の躁(そう)状態なんだろう柔和に笑い俺に擦り寄る。
「わかったよシャティ」
「はい! 」
あれ? これはシャティの幸運が俺を了承させたのか?
「ダンデスさん! あそこにもオーガがいますよ! 」
「…… あぁ」
シャティか…… 危ういなここで殺すか、利用するか…… なかなか悩ましいな。
幸運を知ったからな…… とりあえず今は保留だな
この保留という考えもシャティの幸運…… ?
俺の思考は迷宮に入りそうになり…… 諦めた。
さっさと次のオーガを倒しに行こうとするシャティに苦笑し俺は倒れたオーガから魔石を取り出した。
「あ、シャティもう王都に帰るからね」
「え〜〜っ 」
「もっと試したい事があるんだ」
「そう…… 残念、ダンデスさんがキスしてくれたらそれでいいわ❤︎ 」
やれやれ…… 俺はシャティにキスをした
—————————————————————————— あれ?
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シャティの幸運が切れる前に偶然に王都の入門に並ばず済んで、偶然に人が少なく冒険者ギルドまですぐにたどり着いた。
オーガの討伐を辞めてまでギルドに来た理由はそう、お金だ。
売買が一番、幸運をはかりやすい。さてどれぐらいの金額になるかな?
俺とシャンティが冒険者ギルドに入る前に道を塞ぐ男がいる
「ちょっと待って! それはブルーオーガの魔石ではありませんか? 」
男は王国の紋章が入った前掛けをして驚いた顔で近づいてきた。
あれだ、パチンコ屋の宣伝を駅前でするサンドイッチマンのような格好だ。
男は続ける
「角が青く他のオーガより大きかったはずです! 」
鼻息を荒くして男は俺が手に持っているオーガの魔石を睨みつける。
「ん? さぁ…… シャティどうだった? 」
「そぅ…… いえばあの鬼、 青かったような…… 」
そんなに鬼の種類を見た事がないので答えようがない。
男は魔法を唱えてさらに魔石を睨む
「…… やはり、ブルーオーガの魔石です。 魔石鑑定の魔法でも確認をしました。街道を封鎖に追いやったオーガのボスでありレア種です! 」
「…… ほぉー…… 」
なるほど、luck keyで幸運を操作すると強い魔物でもあれな様に倒せるわけか……
「いやー幸運(ラッキー)ですねー! 今、丁度ギルドの会議で街道の封鎖の影響が大きいのでオーガのボス討伐の報奨金が倍になりましたよ! 」
俺とシャティは笑顔で顔を見合わせた。
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