275.アキラ、生きるを感じる。

 穴の奥から感じる威圧感が、まだ身体に残っている傷をうずかせる。奴が、洞窟の暗闇の中に潜んでいることを確信する。




村人たちに今から、行う狩りについて話す。そして、奴がいると思われる洞窟を包囲するような形で、取り囲むように指示する。




一方の自分は、弓矢が届く辺りに身を潜める。




胸の鼓動が早まるのを感じとる。緊張で、手足が冷たく感じ始める。そして、弓を握る手が震え始める。そんな自分を落ちつかせるために




「焦るな、焦るな、平常心、平常心。焦って射ても当たらない、当たらない・・・。」




そう呟く。そうしているうちに、スキル【平常心】と自己暗示が功を奏し段々と心が平常心を取り戻し始める。




そして、村人たちが全員配置につき、手を挙げて知らせる。




 「舞台は整った!! さぁ、勝負と行こうじゃないか!! 」




そう呟きながら、弓を構えて、ありったけの電流を込めた矢を解き放つ!!




その稲妻は闇の中に吸い込まれると、次には




「グォオオ!! 」




とクマが洞窟から飛び出してくる。その時に、右腕を大きく上げ、合図をする。




すると周りを取り囲む村人たちが、持っている槍を振りまわしながら、大声を叫び始める。




「オオオオオオオオオオオ!!! 」




「オオオオオオオオオオオオオオオ!!! 」




「ウォオオオオオオオオオオオオオ!! 」




猛獣は周囲に敵がいることを感知し、すぐに野性の感覚が逃げろと告げたのであろう。一方だけ音がしないこちらへと無我夢中で走ってくる。




「グヷァァァ!!  グワァァァァ!! 」




大地に轟く獣の叫び声!! その音が段々と迫ってくる。




当然、死への恐怖が逃げろと囁くが、抗う意志がそれを打ち破る。そうすべては計画通り。




神の化身は間近へと迫りつつあるが、それと同時に確実に仕留めれる間合いへと誘われる。次の一手でどちらかの生死が別れる。




そんな中でも、自然と笑みがこぼれる。そうかこの感情、この興奮、これが生きるということかとを悟り、全神経を研ぎ澄ます。




その時がやってくる。




心は静かな水の如く穏やかで、指は激しい雷の如く鮮やかに、目は閃く光の如く鋭く。次の一線を構えて、獲物をなぞる。




精神が囁く、今この瞬間にすべてをかけろと。爪が弾く、渾身の一撃を。矢が駆ける、流れ星のように。そして、貫く神の脳天を。




その一瞬に、明暗が分かれるのであった。

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