168.アキラ、一人で食べる。

 犬が満腹になり、一息つく。




「おいしいか?」




と僕は狼に問いかける。狼は、無反応なのだが、内臓を食べ進めているから、まずくはないことは見てわかる。




それを見終わる頃には、ちょうどいい時間が過ぎていた。もうそろそろいいかと思い、立ち上がる。




狼は、一瞬警戒するが、すぐに敵意がないことを感じとり、また食べ始める。




沢に沈めていたシカ肉を持ち上げる。そのまま、担いで、拠点の洞窟まで歩く。狼は、それに対して、無反応であった。




少し、淋しい気もするが、彼は野性で生きているのだと理解し、僕は食料を担ぎ、歩いていくのであった。




 拠点に帰還すると、早速、近くの木を使って、シカ肉を吊るすための設備を作る。木々をうまいこと、蔓で固定して、ハードルのようなものを作る。




そして、風当たりの良い場所に設置して、シカの死体の両足を縛り、吊るす。




次に、皮と肉をナイフを使って、ペリペリと剥がしていく。この剥がれていく感じが、たまらない。




最後に、首の腱を切って、一気に剥がす。これほど、大きなシカの毛皮は初めてである。感想としては、大きな敷物のようである。




それを、一旦広げて乾かす。剥ぎ取っておいて、なんだが、用途は未定である。




次に、皮を剥いだシカ肉を、部位ごとに解体していく。それが、終わったら、荷物で持ってきていた塩を、丁寧に塗り込む。




イリスが居ないので、肉を冷凍する術がないので、昔ながらの知恵を使う。この時ほど、イリスのありがたさを実感する時はない。




みんなは元気であろうかと、離れ離れになった皆を思う。




「宿主は、独りではありませんよ。」




と精霊さんが、すかさずフォローを入れてくれる。そうだ、僕は独りじゃない。そう実感するのであった。




一通り、やることはやったので、今日の作業はここまでにして、食事を作る。




献立はワイルドで、焼いたハツとレバーだけだ。それだけだ。わー、すぐに、食べれそう。ナイフを片手に、内臓肉を食べやすいサイズに小分けにしていく。




そして、焚火をセットして、中まで火を通さないと、危ないので、しっかり焼いていく。生食?僕にはそんな度胸はない。




じっくりと、火が通り、ハンターセンスも反応しないし、電流も一応流して、やっと出来上がり。ハツを一口食べる。




「うん、うまい! 」




このなんとも言えないモチモチとした触感、たまらない・・・。次に、レバーに口に放り込む。濃厚でクリーミーは味が口いっぱいに広がる。




「うまいよ! おいしいよぉおおおおお! 」




と独りその味に、舌鼓する。いつも、テラに譲ってばかりいた部位だから、この世界に来て、初めて食べた内臓肉。テラが好きになる理由もわかる。




そうして、僕は貴重なタンパク源を、味わいながら摂取していくのであった。

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