5
交通事故だった。
青信号の横断歩道を渡っていた女性の元に、信号を無視した車が突っ込んで来るのを見て、
お陰でその女性は助かったが、【彼】は助からなかった。
【彼】は最後まで優しい奴だった。
「……そっかー、そんなことが……」
「これで記事は出来そう?」
「待って、〝鍵〟はどうなったの?」
「あぁ、これがその鍵だよ」
そう言って僕は例の鍵を取り出した。
「まだ何の鍵なのか分からないけどね」
あの日以来、僕はそれを肌身離さず持ち歩いている。【彼】は『いつか必要になる時が来る』と言った。だから、いつ必要になってもいいように、こうして持ち歩くようにしているのだ。
「小さいね……、なんか、南京錠の鍵みたい」
彼女はその鍵を手にとって、まじまじと見つめながら言った。
「南京錠かー、どこかにあったかなー?」
「南京錠と言えば学校のロッカーに使ってたよね」
「うん。でも今の高校は流石に関係無いんじゃ……」
「違うよ。中学の時も使ってたでしょ?」
「あぁ、そっちか。確かにね」
「【彼】が亡くなった後、【彼】のロッカーはどうなったのかしら」
「さぁ、それは知らない」
「ねぇ、私たちで鍵の謎について調べてみない?」
「えっ?」
「その鍵が何の鍵なのか気にならないの?」
「そりゃあ気になるけど……、これも取材?」
「もちろん! 亡き友人が託したミステリー。面白そうでしょ?」
「はぁー」
結局僕たちは、鍵の謎について一緒に探ることになった。連絡用に、彼女と連絡先を交換した。
その日の夜、早速彼女からチャットが届いた。
『今日は取材受けてくれてありがとー! 今日の話を聴いて、
読みながら、なんと返信すべきか考えあぐねていると、ふと思った。
そう言えば、僕は今日ずっと一方的に
今日はとことんイレギュラーな日だったなと思った。でも、こういう日も満更悪くもないなと少しだけ思った。
結局僕は、
『こちらこそよろしく』
と送っておいた。
あの時の彼女の〝よろしく〟が社交辞令ではなかったと、この頃ようやく気づいた。
チャットアプリのホーム画面に戻ると、〝新しい友だち〟と書いてあるところに、彼女の名前があった。〝友だち〟という言葉にアレルギーのある僕は、少し怖くなった。
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