交通事故だった。

 青信号の横断歩道を渡っていた女性の元に、信号を無視した車が突っ込んで来るのを見て、咄嗟とっさに女性を助けて自分がかれたらしい。

 お陰でその女性は助かったが、【彼】は助からなかった。

【彼】は最後まで優しい奴だった。



「……そっかー、そんなことが……」

「これで記事は出来そう?」

「待って、〝鍵〟はどうなったの?」

「あぁ、これがその鍵だよ」

 そう言って僕は例の鍵を取り出した。

「まだ何の鍵なのか分からないけどね」

 あの日以来、僕はそれを肌身離さず持ち歩いている。【彼】は『いつか必要になる時が来る』と言った。だから、いつ必要になってもいいように、こうして持ち歩くようにしているのだ。

「小さいね……、なんか、南京錠の鍵みたい」

 彼女はその鍵を手にとって、まじまじと見つめながら言った。

「南京錠かー、どこかにあったかなー?」

「南京錠と言えば学校のロッカーに使ってたよね」

「うん。でも今の高校は流石に関係無いんじゃ……」

「違うよ。中学の時も使ってたでしょ?」

「あぁ、そっちか。確かにね」

「【彼】が亡くなった後、【彼】のロッカーはどうなったのかしら」

「さぁ、それは知らない」

「ねぇ、私たちで鍵の謎について調べてみない?」

「えっ?」

「その鍵が何の鍵なのか気にならないの?」

「そりゃあ気になるけど……、これも取材?」

「もちろん! 亡き友人が託したミステリー。面白そうでしょ?」

「はぁー」


 結局僕たちは、鍵の謎について一緒に探ることになった。連絡用に、彼女と連絡先を交換した。


 その日の夜、早速彼女からチャットが届いた。

『今日は取材受けてくれてありがとー! 今日の話を聴いて、水城みずきくんにとって【彼】が大切な友人だったんだなってことが凄く伝わってきたよ! これからもよろしくねー笑』

 読みながら、なんと返信すべきか考えあぐねていると、ふと思った。

 そう言えば、僕は今日ずっと一方的にしゃべっていた。普段あまり喋らず、聴く側にまわる僕にとって、今日は半年分の言葉を発したと言っても過言ではない。

 今日はとことんイレギュラーな日だったなと思った。でも、こういう日も満更悪くもないなと少しだけ思った。

 結局僕は、

『こちらこそよろしく』

 と送っておいた。

 あの時の彼女の〝よろしく〟が社交辞令ではなかったと、この頃ようやく気づいた。


 チャットアプリのホーム画面に戻ると、〝新しい友だち〟と書いてあるところに、彼女の名前があった。〝友だち〟という言葉にアレルギーのある僕は、少し

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