第24羽

 


 週が明け、いつも通り私は保健室で仕事をしている。 週末は色々あったけれど、寧ろ今はすっきりとした、清々しい気分で新しい週の始まりを迎えられていると思う。


 自分から “告白” する、そんな事は生涯ないタイプだと思っていた。 でもしてみると、これが意外と悪くない。


 気持ちを抑えていたり相手がどう思っているかとか、そんな気持ちの摩耗まもうから解放されるし、自分から選んで告白している訳だから誰のせいにも出来ない。



  “後悔” は、にしか出来ないのだから。



 とはいえ、もう何も考えなくていい、という訳ではない。


 恋人になれた訳じゃないんだからね。

 会いたいし、話したいし、また―――抱きしめて欲しい………。


 でも、流石に警戒しているだろうな……。


 最後はなんだか、 “逃げないと食べちゃう” みたいな、肉食系のお姉様みたいに言ってしまったから。



 食べたことも、食べられたことも無い癖に………。



 ……いや、実はそんなに気にしてないんじゃ……? 空くんは結構トボけた所あるし、物怖じしないタイプだから。 ふふ、そういう所も好きよ。



 今にもそのドアを開けて、「朋世さん、また風邪引いちゃった」とか言って入ってくるんじゃないかしら? そうしたら今度は遠慮しないで空くんの “過剰看護” してあげるからねっ!




「………何してるんですか?



「―――は?」



 気付けば私は立ち上がり、自分の身体を抱きしめて身をくねらせていた。―――のをっ……!



「心配して見に来たら、大分元気そうですね」




 ――――空くんに…… “見られた”………。




「空……くん……?」

「学校では灰垣くんですよ?」



「そ、そうだったわね」



 そんな呆れた顔をしないで……あ、でもなんかそれもゾクゾクする……わ、私変態なのかしら?



「それで……どうしたの?」


「どうしたって、さっき言いましたけどね」



 そうか、心配して来てくれたって言ってたわね。 落ち着きなさい朋世、あなたは大人なのよ、一応……。



「保健室にまさか先生の様子を見に来るとは思いませんでした」



 そう言って喋りながら、空くんは私に近付いて来てくれて、



「でも、元気そうで良かった」



 元気が無くても元気にさせてくれる、そんな素敵な笑顔を私に向けてくれた。……から、



「――っ?! せ、せんせ……」



 もう、堪らなくなって、空くんの顔を思い切り引き寄せて、私の胸にしまい込んだ。


 もう、本当に……



 ―――食べちゃいたい……!



「私の気持ちは伝えたから、もう怖いものはないの……」


「く、苦しいんですが……」


「恋って、そういうものでしょ? ――あっ……」



 私の腕を掴んで、深い谷間から息継ぎをするように顔を上げる空くん。 息を整えると、今度は少し怒った顔をして、



「ここは学校ですよっ!」


「はい、ごめんなさい」



 空くん、顔が赤い……私に照れてくれるの? あ、怒ってるからか。



「……だって、返事キスしに来てくれたのかと………」


来ましたっ」



「そう……してくれたら、ここでも良かったのに……」





 だって、その時はもう――― “恋人” なんだから。





「あはっ……あははは……――教室に戻りますっ!」


「あっ…… 空くんっ!」




 ……行ってしまった。


 でも、




 ―――た、楽しかった……!



 ちゃんと好きな人だとこんなに楽しいのね。 こっちは告白済みだからか、自分でも信じられないくらい大胆になれるし……。


 でも空くん、本当にたら、びっくりするだろうな、だって私、今は……




 ――――空くんの為に “守ってる” から……。




 また来てくれるかしら?



 ……暫くは、来ないかもね………。





 ◆




「ふぅ……」


「はっいがっきくんっ!」

「わぁっ!?……か、加藤さん?」


「どーしたの? そんなにびっくりして」


「いや、まぁ色々と……」


「ふーん、保健室に入っていったから具合悪いのかと思ったけど、元気そうね?」


「うん、ちょっと風邪気味かと思ったんだけど、気のせいだったから」



 気のせい……ねぇ。 なんか出て来た時顔赤かったけど………。



「そっか。 元気ならさ、今日終わったら一緒に帰らない? この前は勉強だけだったし、たまには愛里とも遊ぼうよっ」


「ごめん、今日は予定があるんだ」


「え〜、そうなんだ………それって、別府さんの妹さん?」


「え? なんで知ってるの?」



 ……この私の誘いを断って子供と遊ぶっていうの? キミはさぁ……



「灰垣くんって……ロリコン?」


「は?」


「それとも別府さん狙ってるの?」


「ええっ!?―――ッ……ったぁ……」



 ………これはまた、タイムリーな邪魔者が来たわね。



「大分舐めたリアクションしてくれんね、空」


「み、海弥?」



 こんな都合良く出てくるトコみると……。



 別府さん、彼を追って来たんじゃないかなぁ? それで保健室に入って行ったから心配して、でも私が居たから離れて見てた……そんなトコか。



「別府さん、いきなり人を蹴っ飛ばすのは良くないよ? 女の子なんだし」


「そりゃどうも、生憎あたしはアンタみたいに可愛い女の子やってないんでね」



 ウケる、“女の子やってない” ?


 言ってて恥ずかしくないのかなぁ? 私から見ればね、アンタは私よりよっぽど “女の子” だよ。


 私はちょっとだけ、あの大っきいコとかアンタみたいにね、可愛くなんてないんだよ。



 灰垣くんコレだって、本当はどうでもいいんだから。



 の、ちょっとしたお遊び。



 それにちょっと前、気に食わない事も言われたしねぇ………。



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