第154話 お揃いにする? お揃いにしない? お揃いにしたいの?
「ついにメグもレザジャケ買う時が来たのね!」
茶番劇が終わったので店内に戻った。ずらりと並んだレザージャケットを眺めていたのだが、その後ろでキャッキャしてるヤツがいる。何がそんなに楽しいのか。自分がジャケットを買うわけでもないだろうに。
「ねぇどれ買うの? 私とお揃いにする? お揃いにしない? お揃いにしたいの? えー、メグったらかわいいー♪」
そんなコトひと言も言ってないが……??
「……フィリーのは使い込んでるね」
「お下がりなの、お母さんの。ステキでしょ?」
フィリーは自慢げに両腕を広げてみせる。ブラックのレザーが
「へぇ」
意外、というのが正直な感想。財力にモノを言わせて新品のハイエンド製品で身を固めているものかと思っていた。
「お父さんもバイクに乗ってたから、後ろに乗るときに着てたんだって」
フィリーがバイクを買う時に説得が大変だったというお母さんか。きっとフィリーよりはるかに常識人なのだろう。
「今すごく失礼なこと考えてない?」
「まさか。そんなハートウォーミングなエピソードがあるとは思わなかったから。再生数稼げるといいね」
「むー! カメラなんて回してないやい!」
大きな体をジタバタさせて頬を膨らませるフィリー。見方によっては可愛くみえなくもない。
「やっぱりレザジャケだけだと冬は厳しい?」
「あー、物によるけど、私のは真冬は厳しいかなぁ。春夏秋用って感じ。冬に着たい場合は内側にダウンベスト着てみたり、気温が高い時間に走ってみたりする。早朝に出発して県外に行くとかだと冬用の出番かしら」
「上に着るのは?」
「メグだったらアリかもね。細身だし、タイトめなジャケットにして、寒かったらその上に大き目なダウンコート着たりで対応できる……かも。革は風防性能あるから、ダウンとは相性良いのよね」
「んー……」
ジャケットの運用をシミュレーションしていると、私を盾にするようにしてミソラがフィリーに話しかけた。
「確かにツヤツヤだねぇ。さ、触ってもいい?」
「ええ、OKよ」
「ありがとう。ではお言葉に甘えて……おぉ~」
フィリーのジャケットを撫でて未天は感嘆の声を上げる。
「思ったよりぜんぜん柔らかいんだね。しっとりしてて、手に馴染む感じ」
「着た後は必ず手入れしてるからね。大切なものだし」
革の手入れも手間がかかる。というよりメニューが無限にあるので、こだわりたいだけこだわれてしまう。磨けるなら磨けるほど良い。メッキの手入れと同じ沼だった。
「埃を落とした後にオイル入りのクリーナーでキレイにしてる。月に一度はクリームを塗り込んでるわ」
熱量を感じた。彼女の動画撮影に対する、得られる利益を最大限にしようとするが故の、計算高く狙いすました行動とは違うものだ。
やりたいからやる。動画を撮るとか撮らないとかは関係がない。
彼女にとってレザジャケはそういうものらしい。彼女のレザジャケ推しの源流は思いの
「メグ、予算はどのくらいなの?」
「これくらい」
指を使って予算を示す。それならけっこう選べるじゃない! とフィリーは嬉しそうだ。だからなんでお前が嬉しそうなんだ。
「清水で値段に尻込みしていた子とは思えないわね」
「多少はお金溜まったし、あとはその……ボーナスもらったから」
店長とフィリーの策略により実施された、バイト先の週末限定ライダー向けテラス席。あの企画は期待を大きく越えた利益をお店にもたらし、今は市内にある郊外の系列店を中心にじわじわ広がりつつある。
企画書に名前が載っていた(無許可)らしい私は、そのおこぼれにあずかっていた。不本意な出来事ではあったが、怪我の功名ということもある。
「なるほど! じゃあ半分くらいは私のおかげね!」
うぜぇ。
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