第42話 輝く絨毯
「すんごい人が増えて来たわね」
注文を済ませて料理が運ばれてくるのを待つ。
その間にお客さんの数はみるみるうちに増えていった。ウェイティング席は瞬殺され、今はもう店の外に行列ができている。
フィリーはそんな様子を振り返ってからこちらに顔を向けた。私が手持ちしているカメラに目線が注がれている。ズイッと身を乗り出す仕草は無意識なのかワザとなのか。
「やっぱり浜松民の餃子好きは伊達じゃないようね!」
浜松民だがそんな自覚はこれっぽっちも無い。
「浜松民はあまり自覚無いみたいだけど、浜松市の餃子の購入額って、年によっては宇都宮を越えて日本一になったりしてるらしいわ。正確な数値はわかんないから後で調べてこのへんにテロップ出しておくわね」
フィリーがなにも無い中空に指先で□を描いている。編集で何とかするようだ。
「よくよく考えれば有名な餃子のお店多いからなー。この近所だけでも何件か思い浮かぶし、浜名湖とか浜北の方でも心当たりあるし……浜松民、ギョーザ好き過ぎない?」
餃子50個頼んだヤツがいうな。
あ、フィリーは磐田民だった。
「メグはこのお店来たことあった?」
おい、私に話を振るな。
仕方がないので無言で首を振る。
「えーっ、もったいない! じゃあまた来たいからその時は誘うわね。ほら、バイク1台で自動車用の駐車場を1つ占領するのって気が引けるじゃない? だから今日も一緒に来てほしかったの」
気が引けるなどという概念も持ち合わせていたことが驚きだった。
それはそれとして、フィリーの気持ちは理解できる。
多くのお店に駐車場と駐輪場はある。しかし大抵、自動車用の駐車場であり、駐輪場は自転車用だ。バイクにとって自動車用の駐車場は広く、自転車用の駐輪場は狭い。つまり置き場所に困ることになる。
法律上、125cc以上のバイクは自動車だ。エストレヤに関して言えば軽自動車と同じ扱いとなっている。
だから自動車用の駐車場に駐車しても問題ないはずだが、皆が皆、バイクを自動車と認識してくれるわけではない。だから時として、バイクは駐輪場に置けよ、と反感を買うことになる。そしてバイクが自動車であることを知っているライダーは、駐輪場にバイクを置くべきではないと行き場を無くし、途方に暮れるのだ。駐輪場にバイクを置いて倒れかかってきた自転車に車体を傷つけられるのを危惧しているということもある。
「……まぁそういうことなら」
「あっ! 喋った! 喋ってくれましたよ皆さん!」
コイツ……。
「あーもったいない。もったいないパート2。映像で見ても生で見ても綺麗な子なんですよ今日のカメラ回してる子……あ、そうだ! 私が餃子50個食べれたら顔出しとかダメ? 名案!」
「ダメ」
ていうかそれとは関係なく餃子は全部食べろ。
「ちぇー……えーと、じゃあ彼女の顔が見たい人は高評価ボタンお願いしまーす。あとチャンネル登録もー」
カメラを投げ捨てたくなってきた。
おまたせしました~、と声がかかったのはその時だ。どうやら私たちの注文が運ばれてきたらしい。ドン、とテーブルに料理が置かれる。
皿にぎっしり並んで香ばしい匂いと湯気を上げる餃子たちは、まさしく黄金色に輝く絨毯だった。
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