第12話 その六
一夜明けたが、ユウタはまだ頭がボーっとしている。まだ寝ていたい気持ちだが、かなり日も高くなってきたので、さすがに起きることにした。
既に、ダイニングのテーブルにはラミィとフィンがいる。
「おは……」
すぐに自分の部屋に戻る。
(そうだった~~ラミィにどうやって声を掛ければいいんだぁ?)
頭を抱えて座り込む。
いろいろありすぎて、どうやって話すか全く考えていなかった……
(どうする? このまま外に出るか? いや、いっその事、もう消えたい!)
「ユウタ? 何してるの? 早く食べよ」
いつものラミィの声だ。
「……えっ?」
「おはよ」
「お、おはよう……」
拍子抜けしてしまうくらいラミィは普通にに挨拶をする。そんな展開だから、ユウタも普通にテーブルに付くことができた。
フィンも普通に座っている。いつもの朝だ。
……少し違った。
「ねえ、なんか市庁舎が大変らしいよ。塔の上にあった銅像が落ちて、市長室が崩れたって――歩いていた人が言ってたよ。なんか夜中にすごい音だったって。気付いた?」
ラミィがフィンに訪ねる。「それ、私達がやりました」とは、口が裂けても言えない……
「さ、さあ、気が付きませんでした。ねえ?」
フィンがユウタを見る――頼むから振らないで欲しい――ユウタの目がそう訴える……
「そ、そうだね。僕も気付かなかったなぁ――ハハハ……さあ、食べよ」
「そだね。おなか空いたぁ。いただきまーす」
昨日の事は夢だったのか? というくらいラミィは普段と変わりない。正直、助けられたなとユウタは感じた。
「ねえ、食べ終わったら、市庁舎を見に行こう?」
「そ、そだね……」
「そ、そうですね……」
ユウタもフィンも歯切れの悪い話し方なので、ラミィでもちょっと違和感を感じたが、食べているうちに忘れてしまう……
どの世界でも、事故や火災といったものは皆好きなようで、朝だというのに、市庁舎の前は野次馬でごった返している。
深夜だったので気付かなかったが、市庁舎の五階は壁まで崩れ、市長室は野ざらし状態。無惨な姿だ……四階も穴が開き、使えそうにない。三階より下は外から見た限りでは無事のようだが、恐らくしばらくは閉鎖だろう……
(これは不味いな……)
まあ確かにあれだけの質量があの高さから落ちたのだから、相当の被害が出ていると思ってはいたのだが、予想以上だ……
(もし、犯人が自分たちだとバレたら。留置所送りだけではすまなそうだ。一生タダ働きになってもおかしくない……)
それにしてもすごい野次馬だ。パッとみた限りでも千人は居そうだ。これだけの人数でも、トラブルが起きないのは、市庁舎全体に、人払いのような魔法が掛けられて、一般市民は一定範囲内に侵入できなくなっているからだ。魔法によって見事な秩序が形成されている。
ユウタは、二人より先にやってきていた。別に被害を見物する趣味はない。昨日回収できなかったワイヤーを探すためだ。
わずかな望みを持っていたのだが、塔のテッペンから垂れ下がっているはずのワイヤーは存在していなかった。何者かに持ち出されたのだろうか?
風に吹かれて近くに落ちてないか? と、辺りを探したりもしたのだが見つけることはできなかった……正直、ショックで、一週間くらい引きこもりたい心境だ……
放心状態で立っているところを、ラミィ達に見つけられた。
「レグルは無事だったのかなあ……」
ラミィは心配しているが、そんなことで倒れるタマじゃない……いや、いっそのこと、怪我してしばらくおとなしくしていて欲しい……
「市長なら今、冒険者ギルドにいるわよ」
そう声を掛けたのは、ギルドハウスのメイド兼警備員の牛頭人、アイシャだ。今日もメイド姿が板に付いている……いろいろな意味で……
「それにしても困っちゃったわ。ギルド側の被害はなかったけど、市庁舎側の修理のために一部閉鎖しなければならないらしいわ。市長が執務のため、部屋を貸して欲しいと言うし……どうしましょ?」
人差し指をアゴに当て、少し首をかしげる仕草が、実にかわいらしい。その指先まで見事に鍛え上げられた筋肉も素晴らしい……
ユウタは苦笑いしながら、心の中で何度も謝った。恐らくフィンも同じ心境だろう……
「大変だねえ……」
ラミィは共感の意を示すが、あまり心底思っていないようなしゃべり方だ。
すると、ギルド受付嬢のウィディーが小走りでやってきて、アイシャを見つけると声を掛ける。
「ギルドマスター。市長が呼んでます」
「はーい、いま行きまーす――呼ばれちゃった」
アイシャは軽くウィンクすると人混みに消え行く。
ユウタは「それでは、また」と声を掛けた後、しばらく考える……
(あれ? なんか、すごい事を聞いたような……)
「……えーっ⁉ アイシャさんがギルドマスター⁉」
驚くユウタにラミィもフィンも、何を今さら……という顔をする。
「いやいや、メイド服のギルドマスターは、普通、いないでしょ⁉」
「そんなこと言っても、アイシャ以外のギルドマスター知らないし……」
「そうですよ。人を外見で判断するのは良くないと思います。ユウタさん?」
確かにそうだが……いや、やっぱりギルドマスターがメイド服なのはおかしいでしょ⁉
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