6月5日 20:00 推理小説部
12時間後のニュースでは、被害者が発見されているかもしれない。得も言われぬ気分になる。
「弥生、カレー冷めるぞ?」
昴は、夕飯をご機嫌に頬張っている。私には、明日見つけられるのかと緊張で頭が一杯だというのに。
「なんだよ……その目は? 俺のカレーの方が旨そうって? まあ渉が作るカレーは俺の為のものだからな」
何故自慢げなのか。緊張感のかけらのない発言に私としては不満だけど、今はこの呑気さも必要かもしれない。
「確かにね、渉のカレーは何か美味しいよね。親が出張中だからって作ってもらって。ごめんね」
父は単身赴任中で、母は出張中。危ないからということで渉達の親に預けられているような状況だが、都合がいい。3人で居ても不自然ではない。
「いいよ。いつものことだし。でも、弥生もそろそろ料理の1つや2つ作れたほうが良いと思うけどね」
痛いところを突いてくる。
「はいはい、相変わらず渉はお母さんみたい。早く食べて情報確認しよう」
急いで話を逸らす私に、渉は少し溜息をついて、食事を再開する。
食事を終えて、渉達の部屋に行く。相変わらず、渉のスペースはモデルルームみたいに片づけられており、昴のスペースは漫画やスポーツアイテムで床を埋め尽くしている。
「いつみても対照的な部屋だね……」
「ごめんね、片づけるようには毎回言ってるんだけどね」
なぜか渉が謝る。このくだりも何回したことか。
「おいおい、俺の部屋のセンスが分からないってかー? これだから弥生は……。これはな? いいかんじに全部ベットから取れるようにしてあるんだ。いいだろ?」
実際に昴は、ベットに転がり、床の漫画に手を伸ばす。偉そうなんだから。
「それは良いから、早くハッシュタグ確認しよ。通知はどう?」
昴は無視して、渉の部屋の座椅子に腰かける。
「ああ、もう1万回は拡散されてる。だが、予想してた通りに炎上もしているよ」
「やっぱりね。で? 協力してくれそうな人も多い?」
真面目な話が始まったからか、相手にしてくれないと踏み、昴も近くへ四足歩行で滲み寄ってくる。
「どうだろうな。僕らの考察に追加推理してくれている人も多い。既に、写真を撮ってくれている人もいる。ただ……同じくらい批判の投稿も多い。どうなるかは明日になってみないと分からないな」
みんな無意識に唸ってしまう。このまま進めて大丈夫なものか。最悪、拡散されすぎて、どこかから湧いたデマが広がれば、名誉棄損なんてこともあり得る。
「明日になってみないと分からないなら、考えても仕方ないじゃん? 俺も見たけど、既にY県に入る交通ルートあたりで写真を撮ろうとしている人も多かったよ。明日は犯行時間が確定した時点で、そこから投稿を全て3人で確認するんだ。早く寝るに限るだろ?」
確かに、昴の言う通りだ。このまま上手くいくとも限らないが、今できることは何もない。
すぐに寝る準備を始める。
昴は真面目な顔で、客間の部屋に私の布団を敷きはじめる。私は、何も言えないまま布団に入ると、昴は電気を消してこう言った。
「明日は、絶対3人で居ること。離れないこと。被害者を出さないことは無理かもしれないけど、この中から被害者を出さないことは出来るはずだからな。おやすみ」
私は心の中で返事をして、目を瞑る。悪魔を警察より先に見つけられたら、何を聞こうか。恐怖心と期待の中で、意識を遠のかせることに集中していった。
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