大陸、異能者、旅人

八重垣みのる

プロローグ

 いつの時代のことだろう。今、この時代の人々の親の親、あるいは曾祖父母の代くらいのことであろうか?もしかすると、それよりもっと昔のことかもしれなかった。かつて、このスラブ大陸は神々とそのしもべである’神々の使い’と呼ばれる民によって、大陸全体が一つの国家として統治されていた。その時代のことを“神に仕えていた時代”あるいは“神々の時代”とも呼んでいた。いまでこそ、神話でしかその世界の様子を知るすべがないが、とても素晴らしい文明があったといわれていた。ただ、ある事件によって、一夜にして世界は崩壊したのだった。


 ‘神々の使い’と呼ばれる民がいったい幾人いたのかというのは、今となってはわからない。少なくとも、複数形で呼ばれるのだから二人以上いたのは確かだった。もっとも、そこはあまり重要な点ではないのかもしれない。結局は自明のことなのだ。

 全ては神話として伝えられた話であるが、あるとき、‘神々の使い’の中の一人が、神に逆らったというのだ。これは当時重大な事件だったに違いない。しかし、どのようなことに、どうして逆らったのか?ということは今日では忘れられてしまった。そのときの神々は大いに戸惑ったという。なぜ逆らったのか、その考えが分らなかったからである。ただ、もっと大変な事態が、神々が判断を下す前に起きたのだ。‘神々の使い’の中の誰かが、その反逆者の首をはねたのだ。神々はそれに対して大いにお怒りになったという。反逆者の処遇は、神々が下すものだったからだ。そして、拙速な判断や争いごとも良しとしなかったからである。

 神々は考えた末に、世界に罰を与えることにした。そして、人々と大陸は神に見放された。一夜にして、世界に、大陸中に混乱と災いがもたらされた。鉄の鳥が大地を焼き、人々の社会は分断された。生き延びた人々は後に、この日のことを『炎と暗黒の日』と呼ぶようになった。だが、生き延びた人々も飢えと病に苦しみ、資源や食料を求めて互いに争ったのだった。

 さらに月日が過ぎたとき、さすがの人々も多少の落ち着きを取り戻した。争いが協調に変わり、都市を築き始めた。そこからまた月日が流れると生き延びた人々の数は増え、大陸に都市が増えていった。そして今日の、都市ポリス中心主義の世界が大陸に出来上がったのだ。


 さらにもう一つ、この大陸で外せない話題がある。

 ‘異能者の石’あるいは‘異能の石’とも呼ばれるものの存在だ。単に‘石’とだけ言われることも多かった。

 それは、加工された、人工的に手を加えられた鉱石であるということは確かだった。しかしながら、誰が何の目的で作ったのかは誰も知らなかった。分かっているのは、それが人に特殊な能力、超能力と呼べる力を与えるということだけだった。しかも、人によってはまったく能力を得ることもなければ、まるで自分の一部であるかのように上手く使いこなすことができる者もいるという気まぐれな代物でもあった。そして能力を使いこなすことのできる人たちは石に選ばれた人、能力者、異能使いなど様々な名称で呼ばれた。ただ、欠点がないわけではなかった。異能を手にした者は何かしらの代償を払わなければならなかった。

 この‘石’もまた、神に仕えた時代に作られたとか、炎と暗黒の日には既に存在していたというような話もあるが、詳しい出所や由緒を知る人はいなかった。

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