入試と体形変化⑤
「ええ、大豆を食生活に取り入れてみようかと思ったの」
「大豆……ですか。確かに体にいいとは聞きますけど」
マルゴットは腑に落ちないような表情で首を傾げた。
身体に良い事を知っていてもダイエットには結びつかないのかもしれない。
「大豆とは言っても、豆乳を絞り出した後の残りを食べる事にしたのよ。大豆をそのまま食べるよりもカロリーが低く済むでしょう?」
ジルはダイエットを決意した時、離宮の料理長と話し合い、日常のメニューを見直していた。具体的に言うと、毎日の様に出されるソーセージの中身を、豚ひき肉100%だったのを、大豆から豆乳を絞り出して残った物を半分程加えてカロリー量を大幅に減少させた料理等、様々な減量メニューを取り入れている。
「ふむ……。私はあまりピンときてませんが、そういうものなのですね」
「運動しながら植物性のたんぱく質を取り入れたら、筋肉量が増えるし、代謝がアップしないかなって思ったの。だから肉やパンの代わりに食べているのよ。料理長さんには手間をかけさせてしまっているから申し訳ないのだけどね」
「さすがジル様です。ダイエットする人って、無理に食事を抜いたりしますけど、そんな事したら病気になったりします。だからジル様みたいに食べながらのダイエットはとてもいいと思いますよ」
「本当に効果があるか不安でもあったけれど、痩せてきたんならよかったわ。トマトが実ったら、トマトも多く食べようかな。トマトの栄養素にも基礎代謝を上げる効果があるものも含まれているらしいから」
「私達で植えたトマトにそんな効果があったなんて驚きです。私は人を呪うくらいの効果しか思いつきませんでした」
「呪いに使うなんて勿体ないわよ。美味しく食べましょ!」
「そうですね。食べるのも楽しみです……。この国で出来たトマトはどんな味がするのかな」
「私達が植えたんだから、絶対美味しいはずよ。楽しみね!」
「はい!」
――ギィ……
使った道具を片付けながら、和気あいあいと会話する2人は、外から声を掛けられる事なく突然開いた温室のドアにギョッとした。
「こんにちわ。あ、警戒しないでください……ハハ……」
温室に現れたのは、バシリーの部下オイゲンだった。
彼は、ジルの前に出て不気味な人形を握りしめるマルゴットに引きつった笑みを浮かべる。
「オイゲンさん、編入試験の際はお世話になったわね」
「いえいえ、あの日受験生の間に謎の食中毒が蔓延していたみたいで……、警護しきれなくて申し訳ありません」
ジルは試験の時のマルゴットの所業を思い出し、オイゲンから視線を反らした。
(巻き込んだ人が多すぎたみたいね……)
「流石に食中毒は警護しようがないと思うわ……。気にしないでちょうだい」
「お優しいお言葉有難うございます」
「オイゲンさん、今日はどの様なご用件ですか?」
呪いをかけた張本人であるマルゴットは、まるで当事者ではないかのようにシレっとした顔でオイゲンに接する。
「ああ、そうそう。ジル様合格通知が届いたんです! 流石です!」
「え!? 合格したの……?」
「はい、これが合格通知です」
ジルはオイゲンが差し出したシンプルな封筒を受け取り、開けて見ると、出て来た用紙に『合格』の文字が確認できた。
「信じられない……」
「ジル様、おめでとうございます! 実は私も合格してました。答案用紙に『・』と『-』を直感で大量に書いていっただけなのですけどね」
マルゴットはまたもよく分からない事を言う。『・』と『-』を使って何か意味を成す文章が作れるのだろうか?
まぁその事はスルーするとしても、ジルとしてはこの合格通知を受け取り、複雑な気持ちだ。
合格発表までの10日間の間に、マルゴットの不正が見つかり、2人揃って不合格になるとばかり思っていたのだ。
「そ、そう……」
「はい……。他の受験生を引き摺り降ろしてジル様を支援したかっただけなのに、思いもよらず一緒に学生やれる事になれて幸せです」
マルゴットは青白い頬を薔薇色に染めて微笑む。
そんな顔を見てしまったらジルは強く咎める事など出来なくなってしまう。
「今度から企み事は事前に教えてちょうだい……。心臓がいくら有っても足りなくなるのよ」
「はい!」
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