第204話 引けない戦い


 着いた場所は大型ショップ、スタンプはこの建物の中にある。

ははーん、ここでお土産を買わせようって事なんだな?

そんな手に乗る私ではない!


「つ、司君! これ可愛い!」


 見事につかまった杏里。まったく、何が可愛いって?


「……確かに可愛いな」


 目の前に生のヒヨコがいる。

おもちゃではない本物のヒヨコだ。


「司君……」


 うるうるした目で俺を見てくる。

欲しいのですか? ひよこ、欲しいのですね?


「ダメ。うちはペット禁止」


「でも、ニワトリになったら毎朝卵ですよ?」


「生き物を飼うのはダメだ」


「それに、毎朝起こしてくれますよ?」


「俺は杏里に起こしてもらうから」


 少し頬を赤くする杏里。

鶏の声よりも杏里の声で目を覚ましたいのは本音だ。

なにより、下宿ではペットは禁止!


「そうですか……。残念ですが、諦めます」


 肩をがっくし落している杏里。ちょっとかわいそうかな?


「ほら、こっちのぬいぐるみだったら買ってやるよ」


 ひよこに似たぬいぐるみ。

手のひらサイズで邪魔にならないし、ひよこに似たモフモフ感がある。


「買ってくれるの?」


「一個くらいいいよ。生きてるヒヨコよりはぬいぐるみ。これで良いか?」


「うん、いいよ。ありがとう、大切にするねっ」


 会計を済ませ、ぬいぐるみをポケットに入れる。

もしかして、これがお店の人の作戦か?

買うつもりはなかったのに、自然とぬいぐるみを買ってしまったぞ!

でも、杏里の笑顔が見られたから、良しとするか。


「あ、あった!」


 杏里がスタンプを見つけて走っていく。

店の中で走ってはいけませんよ?


「司君、早く早く!」


「そんなに急ぐなって」


 冊子にハンコを押し、次のポイントに。

しかし、なかなか高山達と会わないな。

アイツらどこを回っているんだ?


 次のポイントは……。

あのかき氷屋か! ここは知っているぞ!

もう馴染みの店と言っても過言じゃない!


「杏里、行くぞ」


「うん、次は?」


「着いてからのお楽しみ」


 先に話したら一人で消えてしまうかもしれない。

それは危険だ。一緒にいかなければ。


――ガララララ


「いらっしゃーい。ん? また来たのかい? いつもありがとね」


 すっかり常連になった。


「司君? ここにあるの?」


「あぁ、あそこにスタンプがあるだろ?」


「ほんとだ! ねぇ、ちょっとだけ……」


 やっぱりこうなりますよね?


「お二人さん、いつものでいいかい?」


「はいっ! いつもので」


 すっかり常連になった。ばーちゃんも俺達に良くしてくれる。

杏里なんか、なぜか普通よりもイチゴの盛りが良くなっている。

俺もあんこがモリッとしているしな。


「あれ? 天童! 何してるんだ!」


「た、高山! って、俺だってスタンプラリーしてるんだよ!」


「ふふん。俺達はそろそろ終わるぜ! な、彩音」


「半分終わってるよ。後はお土産屋さんと東屋、あと岬とかかな」


 ぐぬぬ、なかなか早いじゃないですか。


「なんだい、みんなスタンプラリーしていたのかい?」


 ばーちゃんが話しかけてきた。


「はい、明日帰るんで、最後にみんなでやろうかって」


「そうかいそうかい、楽しんでおくれ。はい、かき氷四つ」


 高山夫妻アンド俺達のかき氷。

ここは、勝負の別れ目!


「天童……」


「高山……」


 自然と高山と視線が交差し、中央に見えもしないはずの火花が見える。

俺の力を見せる時が来たな……。行くぜ!


 俺と高山は、でっかいスプーンで氷を口に運び込む。

その速さはまさに光速。手を止めることなく、互いに視線を交わしながら、俺達は戦った。


「あ、頭がぁぁぁ!」


「ま、負けない! 俺は、天童に、勝つぅぅ!」


 さらにスピードを上げる高山。


「ま、負けられるかぁぁぁ!」


 俺もガッツを出す。見ていてくれ、俺の勇姿を!

そして、その目に焼きつけるんだ!

杏里、俺は君の為に、食す!


 と、杏里に目を向けると杉本と普通に話しながら食べている。

うん、普通に食べた方がいいよね。


「て、てんどぅー。あ、あたまがぁぁ」


「ふっ、高山の勢いもここまでだな……。俺の勝ちだ」


 そんなかき氷バトルをこなし、女性陣二人が食べ終わるのを待ち、店を後にする。

急いで食べなくても良かったじゃないか。


 高山は杉本の肩を借りながら俺達と逆の方向に歩いて行く。

多分ここが折り返し地点。


「杏里、行こう。高山のダメージは大きい」


「普通に食べればよかったのに……」


 おっしゃる通りです。

正論ですね。


「お、男には引けない時があるんだよ」


「でも、無理しないでね。お腹壊しちゃったら大変だよ?」


「あい、気を付けます」


 再び杏里の手を取り、歩き出す。

少しだけ頭は痛いけど、きっと高山ほどではない。


 というか、杏里はお腹壊さないのか?

俺よりも食べてるよね?

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