もう嫌だ! 異世界無限転生!! 何回転生させる気だオラァン!!!

どっこちゃん

第1話 全体の流れ 転生する⇒異世界での人生を終える⇒再び女神のところに戻り、再び転生する。ここまではOK?


 神域――


 今、その静寂が破られる。


「異世界転生の」


 聖なるドアと共に。

 

「時間だオラァ!!!」


「……お疲れ様です」


 その広間、その空間と言うべきか、その中央には一人の女が鎮座していた。


 彼女こそこの空間を統べる主であり、この男を次なる世界へと転生させる女神である。


「誰だテメェ―! ――あ、いや、分かるぞ!!」


 勢い突入してきた男は吠えるように問う。


「このやりとり。デジャ・ビュだ。俺はこれを知っている!! ――そう、俺は『転生者』。これから新たな『異世界』へ『転生』する。そして目の前にいるお前は『女神』――その名は『ガーター』!」


「誰がガーターですか誰が」


 男は半裸であった。そしてその身体には、無数の、それも明らかに異なる言語でメモのような文言が書き記してある。


 ほとんどは知らない文字のはずだが、なぜか自然と読むことができた。


 そのメモ書きの通りに行動したのだが、どうも、この女神の名は「ガーター」ではないようだ。


「でも書いてあるし――いや、わかるぞ。これもわかる! えー、つまりここに名前が書いてあったとしてもさ、実際に目の前にいるのがその名前の女神さまかはわかんないじゃん? だから名前じゃなくてわかりやすい特徴を書くことで、いちいち名前を確認するっていうプロセスをはぶいてるんだ」


「それは分かりますが――毎回『ガーター』呼ばわりされる身にもなってください」


「知らんがな。毎回俺の記憶消すからじゃん! つーか、なんで女神さまなのに、そんなガーターベルトつけてるのぉ? はしたない! スカート短いし。ガーター丸見えだし。なんなのさ、この美脚!」


「必要があって消しているのです。――まぁいいでしょう。名乗ったところで次の時にはまた忘れているんですし――座ってください」


 椅子が出現する。


「遠くない? もっとこう、心理的に歩み寄りたいんですけど?」


「いいから座りなさい」


 男は威嚇した。


「牙を剥かない! いいから座りなさい。記憶が無くても流れぐらいは分かるでしょう」


「オレがぁ、怒ってんのはぁ、それなんスよぉ女神さまぁ」


「……と、言いますと?」


「既視感てヤツだょお……、どこに転生して何をやっても、これやったことある! っていう感覚に襲われるんだ。新鮮味がねぇんだよ。生きてる気がしないんだょお!」


「……それも仕方ないかもしれませんね。かれこれ転生も3000回以上やってますし」


 男は椅子からずり落ちた。


「バッッッカじゃねーの!? ――なに? オレそんなに転生してんの!? 人の魂なんだと思ってんの!?」


「でも契約ですし」


「覚えてないじゃない!!」


「記憶を消してますからねぇ」


「か、確信犯……。そうか、そう言うつもりで、――最初から、そのつもりで、オレをだましたんだな!?」


 何をバカな、と言わんばかりに女神は切れ長の目を細める。


 凛とした美貌はとたんに猫のように柔和に変じる。――好きや!


「好きです! ――じゃねぇや! そんなんでダマされんぞ!!」


「何も言っていませんが、――そもそもアナタの決断と要望を聞いたうえで転生させているのに、その言いぐさはないのでは? ――前回もずいぶんたのしんだようですし」


「んなこと言われても覚えてねぇしなぁ……。てか、オレ何やったのぉ? あ、なんかやっちゃった感じぃ? さっすがはオレェ!」


「前回は……、主に技術革新系ですね。中世暗黒時代レベルから銀河連邦への加入まで20年かからず達成したのはさすがだと思いますよ」


 男は再び盛大に椅子から滑り落ちた。ひいき目に見て四半世紀は遅れたリアクションである。


「やりすぎぃぃぃぃ!?? 俺やっちゃいすぎぃぃぃぃッ!!! ハァァァァ!! そら既視感も出ますわ! もうやることねぇジャンもう!!」


「その点こちらでも評価はしていますよ。――人とは思えません」


 女神も若干引き気味である。――いやなに引いてんだよ、この当事者!


 ――って「評価」ってなんやねん。つーか、コイツ等がなんでオレのことをそんなに何度も転生させてんのかも、知らねーんだよなオレ。


「……これは記憶削除のせいじゃねぇよな多分。最初から聞かされねーんだ」


 男は横になったまま物想う。


「なんです?」


「なーんでもないょお!」


 男は飛び起きて笑顔を浮かべた。


「それは良かった」


 女神もまた三日月のように微笑んだ。互いに笑顔であはあったが、妙な緊張感があった。


 な、何かある……! 裏があるんだ。作者も考え付いていないような、何かが!!


「さて、――それでは次の転生について、何か要望は有りますか?」


 これにはツッコまねぇ方がいいよな。今のところはだけど……。


「んー。そんなん聞いたらどっと疲れたわぁ。……次の転生はもっと楽したい。楽がしたい。あ、あれだよスローライフやりたい。スローライフ」


 脱力を極めたがごとく床にとろけだしながら言う。まるで瞬時に時速270キロメートルでダッシュする構えにも見える。


「構いませんよ。――あと、こっちに来ようとしても見えない壁有りますからね」


 読んでやがる! 前にもやったんかなオレ?


「――す、すっごく楽なやつにして欲しいなぁ! もう、何もしなくても……。あ、そうだ! ちんポジの直し方教えるだけで英雄にしてもらえるような文化レベルの異世界がいい!」


 ちんポジとは読んで字のごとく、おちんちんのポジションのことである。


 おちんちんというのはたまに変な方を向いてしまったりするので、これを元に戻すわけだ。勉強になるね!


「……異性には尊敬のされようが無いと思いますが」


「いや真面目か! そのぐらいイージーモードの異世界って意味でぇ」


「………………いえ、ちょっと待ってください」


「なんぞ?」


「――逆に考えてみたらどうでしょう?」


 すると、ガーターの女神は声の調子を上げた。なんのこっちゃい?


「あ゛あん!? ――どゆこと?」


「その世界の住人がなら、問題ないのでは、と」


 ほぉ~。ふぅ~ん。なるほどぉ――――


「――って、バッカじゃねーのッッツ!?」


 何を言い出すんだお前は。


「いや、どんな世界だ! 成立せんわ!」


「いえ、こう……男同士でも子供を作れる世界なら問題ないでしょう。さらに文明レベルは下の下と……わかりました。すぐに検索を」


「待てやぁぁぁぁッ! ――ふざけんな! そんな世界に行きたがるヤツなんぞ……いや、待て! いやちょっと待てよ!?」


 ふと、思い出す。


「なんです? アナタが言いだしたことですよ?」


「――ちょっと待て、前にもあっただろこんなこと! ――テメェ、前も俺をおちんちんランドに送り込もうとしやがったな!?」


「……そんな事は、ありませんよ」


 目をそらしやがった!!! 


「まぁ、どんな世界に転生するかは運によるところも大きいわけですし……」


「おいぃぃッ! 言いながら今何やった!? なんか決定的な操作をしただろ!? ッターン! ってしただろ! 恐ろしく素早いコンソール操作。俺でなければ見逃しちゃうね!  ――って言わすなや!」


「知りませんし――そんな事もしていませんよ」


 女神はきらめくような笑顔を浮かべる。三千世界を網羅してなお無二と思えるほどの。


 しかし、男は牙を剥くことをやめない。


「はい笑顔キター! 人は誰かをおとしめようとするとき、最も美しい顔で笑うんだよぉ。オレ知ってるんだょおぉぉぉぉぉ!!!」


「人ではありません。神です」


「ウソだ! ウソつき!! とにかくそれはウソをついている奴の顔だょお!! なめたらウソをついている奴の味がするハズだょおぉぅぅぅッ! ――――なめていい?」


「ダメです」


「あ゛あ゛あ゛ああああぁぁぁぁぁッ!!!」


 無力なのか? 神の前では、無双転生を繰り返してきた転生強者(なんだこの言葉)でも、無力だというのか?


「さて。そろそろ時間ですね。ではそろそろ次の転生と行きましょうか。今度もハーレムで良い子をたくさん育ててください」


「出来るかぁ!! つーか時間てなんだよ! ハナシは終ってねぇぞ! 手とかでいいから舐めさせろ!」


「趣旨が変わっているので極大的にダメです。というかさっさと行きなさい」


「ひどぃぃぃ! オレ頑張ってるはずなのにぃぃぃぃ。何の恨みがあってぇ」


「恨みなどありませんよ。無償の愛があるだけです」


「……その心は?」


「アガペーはプライスレス!!」 


「ざけんなぁぁぁぁぁあああああああ!!!」


 残念ながら、送還は既に始まっていた。


「では、ご武運を」


「ちくしょぉぉぉぉおおお覚えてやがれェェェェ。次こそは必ずどっか舐め回して――――」


 再び、神域に静寂が満ちる。


 女神はそれ自体が煌めきを宿すような溜息をひとつ、こぼした。


「毎度騒がしいですね。――ですが、今度こそ神の愛を知らしめて欲しいものです。肉欲ばかりが愛ではないのですから」








 ※アガペーとは



 アガペーっていうのは、キリスト教において、みんなが大好きな「エロス」と区別される大雑把な愛のことだよ! 別に同性愛のことを指すわけじゃないから気を付けてね! 女神さまは無償の愛とかが好きな人だよ! 危険だね!

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