021話 おかいもの

「ポータルで帰ってくるって言ってたのに、歩きだったからビックリしたッスよ。」


エリカが後ろ向きに歩きながらそう言っている。

全く振り向きもしないのに、障害物や階段を全て回避したり、登り降りしたりしている。

まるで後ろに目でもついてるかのようだ。


「あたしはそのつもりだったんだけどね。」


グロウが自分だけ言い逃れようとしたので、俺も同調する。


「俺もそのつもりだったよ!」


「じゃあ、なんでッスか?」


納得できない顔のエリカ。

まぁ、普通に考えればそうなるだろう。


「ディアに貰った装備があっただろ?

それをさ、装備したら試してみたくなってさ。」


「ほら、やっぱりあたしだけだったじゃない!」


綻びをついてグロウが論破を仕掛けてくる。


「だけどその装備自体、ディアに言われたわけだし、別に良いだろ?」


「うーん、無視したら良かったんじゃないッスか?」


エリカが笑顔で二人の意見をぶったぎる。


「確かに…」

「…そうよね。」


俺とグロウはそれ以上の反論を諦めざるを得なかった。


それよりも………。


「ウエノさん、大丈夫か?」


さっきからずっと無言だったウララに声をかけた。


「何か悪いものでも食べたッスか?」


「あんたじゃあるまいし、そんなわけないじゃない。」


「グロウ、お前も俺に同じような事言ってたからな!」


「失礼ね!あたしは拾い食い位じゃ……」


「はい、はい、はい。もうその話は良いよ。」


「なによ!せっかくあたしが…」


その時だった。

ウララがようやく口を開いた。


「…あの…。」


俺達三人は、


「なんだ?」

「なによ?」

「なんスか?」


と、一斉に反応する。

少しだけウララはたじろいだが、意を決したように、


「私、悪いものなんて食べてないですよ?」


と、言うのだった。

…うん、そうだろうね。


―――


「あはははははははははははは。

あなた、面白いこと言うわね。」


グロウが爆笑している。


ウララは顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。

俺達が本気で悪いものを食べたのか心配していると思ったのだそうだ。


「ウララちゃん、私が変なこと言ってしまったせいで、なんか申し訳ないッス。」


エリカもついでにちょっとうなだれる。

エリカの場合は、寧ろそれくらいがちょうど良い。

普段が元気よすぎるからだ。


「冗談だったんですね……。ボーッとしてたから。……恥ずかしいです。」


「ウエノさんが拾い食いするなんて、誰も思ってないから安心して良いよ。」


「アイザワさん……。」


さらに恥ずかしそうにうつむくウララ。

あれ?俺、なんか悪いこと言ったっけ?


「とりあえず、あなたも会話に参加しなさい。

そうしないと、本当に拾い食いさせるわよ。」


おい、やめろ。

俺は心の中で突っ込む。


「わかりました。それで、あの……。

お願いがあるんですけど……。」


「何?言ってみなさい?」


「あの、グロウさんじゃなくて……。」


「あのねぇ、あなた、いつまでも『さん』なんてよそよそしいこと言わないで、あたしの事はグロウ『ちゃん』って呼びなさい?」


「おい、グロウ。

今、ニックネーム禁止な学校も増えてんだぜ?

無理強いさせんなよ!」


「わかりました、グロウちゃん。」


…分かっちゃうのかよ!


「それであの、私も名前で呼んで欲しいんです。」


そう言うと、ウララが俺の方を向く。

……へ?

お願いって、俺に……?


「…ダメですか?」


「ダメじゃねーけど、俺だけそう呼ぶのは恥ずかしいから、お互いにな!

俺も、ウララ・・・も!」


「はい!アツシ!」


その瞬間、ウララの顔がぱぁっと明るくなるのだった。


―――


「ねぇ、アツシ、あのお店はどうでしょうか?」


エメラルド地下街に着いてからのウララはずっとこんな調子だった。

今の店を見終わったと思ったら、直ぐに次の店に走り出す。

買い物って、そんなに女子を夢中にさせるものなのだろうか。


「なんか……あの子、急に明るくなってない?」


右肩の辺りからグロウが声をかけてきた。


「グロウもそう思うか?」


俺は少し見上げながら返事をする。


「うん。誰かさんみたいな子が、もう一人増えた気分ね。」


少し離れた位置にいる、ショートカット&パーカー娘の方を見ながら言うグロウ。


「誰かって、誰の事ッスか!?」


あ、振り向いた。

…聞こえていたのか。

多分、俺とグロウは同時に心の中で突っ込んだはずだ。

お前だよ!……と。

そんな二人の視線に、少しだけ傷ついた様子のエリカ。

そうとは知らず、少し離れた店の前から俺達を呼ぶウララ。

本当に、どうしちゃったんだろう……。

エリカは何か違うことを考えているのか、少しだけニヤついている。

何なんだよ、お前ら!


「アツシー、エリカちゃーん、グロウちゃーん!はーやーくー!」


ウララに呼ばれて、俺達も少しだけ早足になるのだった。


―――


改めて服を見て思ったが、この時間の止まった世界の服は俺達がよく知っている服とは何処かセンスが違っていた。

…え?この肩の装飾必要?…とか、何でこんな暑そうなのにマントなの?…とか、意見を言わずにはいられないようなものが多かった。

店員によると、イマジネーションを高めることが、重要だからと、良く分からない説明をされた。

イマジネーションを高めるとどう良いことがあるのか聞いてみたが、納得できる回答は貰えなかった。

その代わりに、イマジネーションは世界の理を変える力があるとか何とか言われて、さらにちんぷんかんぷんになった。

そんなとき、たまたま目に入ったアクセサリが、やたらと俺の琴線を刺激してきた。


「これ……。」


「あら、お兄さん、珍しいものに目を付けるわね。

それは『狂喜の蝶ネクタイ』と言って、幸運を招くそうよ。

かなりお高いけど、どうする?。」


「金ならあります。」


「あら、そう?

買ってくれるなら、おまけに飴ちゃん二個プレゼントしちゃうけど?」


「じゃあ、いただきます。」


ちなみに飴ちゃんの効果は舐めきった時にSP50回復なのだそうだ。

しかも、噛み砕くと無効らしい。

正直、うわー、いらねー、と思った。

せめて舐めきったら最大SP50上昇なら良いのに……と思ったが、それでも噛みそうな気がした。


話がそれたが、結局250Keteしたが、それを買った。

理由は、既に一つ『狂喜』シリーズを持っていたからだ。

以前にも言ったと思うが、EOを含めた一般的なオンラインゲームは装備できる部位が、オフラインゲームよりも多い傾向にある。

が、その部位を全て同じシリーズの装備で揃えると、大抵の場合ボーナスが貰えた。

そして案外、そのボーナスはバカにならない。

本当は職業限定装備のシリーズが一番良いのだが、まだまだ序盤のここではそんな装備が揃うはずかない。

取り敢えずでも、シリーズ装備を揃えたいなと思ったのだ。

俺は他にもないか、探してみると、あっさり一式揃ってしまうのだった。


頭   :『狂喜のだて眼鏡』

インナー:『狂喜のタンクトップ』(獲得済)

上半身 :『狂喜の白シャツ』

下半身 :『狂喜の黒パンツ』

右手  :『狂喜の手袋』

左手  :(『狂喜の手袋』)

靴   :『狂喜の革靴』

ベルト :『狂喜のベルト』

首輪  :『狂喜の蝶ネクタイ』

腕輪  :( 対象なし )

指輪  :( 対象なし )


残念ながら、まだステータスが見られないので効果がどの程度になるのかは分からなかったが、着替えてみるとちょっと雰囲気が出た気がした。

タンクトップみたいに、もしかしたら俺に合うスキルが付いたものがあればチュートリアルで有利に事が進められると思うのだった。


「で、結局いくらかかったの?」


「2.4Meteくらいかな。」


「ふーん、意外と安いわね。」


風魔手裏剣のせいで金銭感覚が崩壊している俺とグロウの会話を横で聞いていた通行人が青ざめて聞いていたと、後からエリカが教えてくれた。

……な、風魔手裏剣って高いだろ?


さすがに俺だけと言うわけにもいかず、エリカには『風の』シリーズを、


頭   :『風のヘアクリップ』

インナー:『風のタンクトップ』

上半身 :『風のパーカー』

下半身 :『風のショートパンツ』

右手  :『風のナックルカバー』

左手  :(『風のナックルカバー』)

靴   :『風のスニーカー』

ベルト :( 対象なし )

首輪  :( 対象なし )

腕輪  :『風のリストバンド』

指輪  :『風のリング』


ウララには『白い』シリーズを、


頭   :『白いリボン』

インナー:( 対象なし )

上半身 :『白いワンピース』

下半身 :(『白いワンピース』)

右手  :『白いアームカバー』

左手  :(『白いアームカバー』)

靴   :『白いのサンダル』

ベルト :『白いベルト』

首輪  :『白いチョーカー』

腕輪  :『白いブレスレット』

指輪  :『白い指輪』


それぞれプレゼントすることにした。

さすがにオーソドックスなだけあって一式揃えるのも簡単だった。

しかも、二人分全部合わせても1Meteちょっと位だった。

……な?


だが、残念ながらグロウの装備は見つからなかった。

代わりに謎の赤い石を350Keteで購入してやったら、とても喜んでいた。


「お前、それなんに使うつもりだよ。」


「良くわかんないけど、きっと何かの役に立つわ!

そんな予感がしたの!」


グロウが自信満々にそう言うので、取り敢えず信じたフリをしてやることにした。


あ、それと、ソラに言われた巻物スクロールについてだが、装備を探す途中で見掛けた魔法屋と顔馴染みになり、空の巻物スクロールと金さえあれば中級魔法までは作成可能になった。

上級以上は、魔法屋のレベルを上げる必要があるのだそうだ。

要は……いっぱい買えと言うことらしい。


それと、錬金所と言うところの主人とも顔見知りになった。

だが、今のところなにも作れるものが無いようだった。

ただ、活性化した長机や鉛筆、ノートやパイプ椅子などの日用品が大量に売っていて、ホームセンターみたいだった。

ルミやソラが使ったいた机もここから調達したのかもしれないと何となく思った。

もしかしたらそのうち必要になるかもと思い、いくつか買い込んで、倉庫に送っておくのだった。

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