第122話 幕間③ 記憶の個差


 メイルたちは村人たちへ聞き込みを開始した。


 しかし、彼らは皆、非協力的だった。



「お、おれは何も知らねぇ。何も覚えてない」



 それでも話を聞こうとするも勢い良く扉が閉められる。



「これは困りました……」


「うむ、困ったな」



 メイルの言葉に少年は相槌を打つも、どこか興味なさげで適当な印象を感じさせる。


「あの……」とメイルは意を決して抗議しようと決めた。



「なんだ?」


「どうも、さっきから私だけが聞き込みをしているような気がするのですが?」


「それはそうだろ。俺は徒労に終わるような無駄な行為をするつもりはない」



これには「――――ッッッ!?」とメイルも怒った。


温厚な彼女の珍しいブチ切れと言っても良い怒りだった。


しかし――――



「しかし、俺の予想とは違い徒労にならなったようだな」


「え?」


「話を聞いてわかったことがある。メイルは、この村に来た前後の記憶のみ失っているだけだが、ここの村人たちの記憶にも個人差があるようだ」


「個人差……ですか?」


「あぁ、完全に記憶を失っている者も入れば、自分の田畑や職業を覚えていて働いている者もいる。あの教会の修道女のようにな」


「……」


「それがどうした? と言いたそうな顔だな。だが、これが何者かによる攻撃で記憶を奪われたと過程するならば、それを防ぐヒントになるだろう」



少年の言葉にメイルはハッとする。


確かの何者かが意図的に村人の記憶を……いや、それどころか異変に気づいたギルドの依頼できた冒険者から記憶を奪って無効化しようとしているなら……



「さて、ここまでの聞き込みで、やはりメイルが極端に記憶の消失が少ない。さて、どうしてかな?」


「どうして……やっぱり、私が他の場所から調査に来た……よそ者だからではないでしょうか?」



「なるほど。他の場所から来たから影響が少ない」と少年は考え込むような仕草を見せた。



 「それが正しいのならば…… ここに留まると他の村人のように記憶が失われていく事になる。メイルも時間と経過と共に記憶の消失が進んでいるはずではないか?」



「どうだ?」と聞かれ、メイルは考える。


 今の自分は現在進行形で記憶を失って行っているのだろうか?



「……いいえ。 自分の名前、家族や知人の名前、身につけている物の名前、先ほど教会でした食事のメニューも覚えています」


「だろうな。他所から来たから記憶消失の影響が薄いとしたなら俺もメイルと同じような症状でなければならない。しかし、俺の記憶は螻蛄


になるってやつだ。名前ですら思い出せない」



それから少年は「村人たちの記憶の個差がある説明にもならないからな」と付け加えた。



「では、現時点でわかっている事は記憶喪失に個差があるという事だけでしょうか?」


「いいや、もう1つだけある。その記憶の個差が何に由来しているか……だ」


「わかったのですか!」


「あぁ……だが、それはあまりのも俺にとって致命的な事だ」


「え? それは一体……」


「現時点でメイルに教えるわけにはいかないという事だ」



 それだけ言うと少年はクルリと背を向けて歩き始めた。

 

 メイルは慌ててそれを追う事しかできなかった。



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