第二部 後半

第77話 レオンの特訓


 人工娯楽都市オリガス 第五迷宮の入り口付近


 闘技者しか近づけないため、鍛錬場としても利用されている。 


 そこに男が1人――――否。



 レオンの前に3人が並んでいる。


 闘技者……と言っても1対1を専門とするタイプではない。


 調教ティムした魔物と戦う多数戦闘パーティプレイの専門家。


 前衛の男は両手を広げ、大きく前傾姿勢を取る。


 構えからして、レスラータイプ……純粋なパワーで魔物の動きを封じたり、タックルによる攻撃で転倒させるタイプだ。



 男が前に出る。



 『にょ~ろ~ん』



 奇妙な擬音が聞こえたような気がする。


 まるでとぐろを巻いた蛇が獲物を捕らえるか如き動き。


 しかし、レオンは闘牛士マタドールのように華麗に回避した。



※注釈 (闘牛士とは西の国でミノタウロスを専門に狩る者たちの総称である)



 真紅のケープによるかく乱や、華麗な回避が特徴的なことから、比喩に使われる。


 再び体勢を取り戻したレスラーが再びタックル。


 だが、レオンの肉体にたどり着くよりも速く、レオンの腕がレスラーの頭部を掴み、地面に押し潰した。


 それでもレスラーは諦めず、レオンの足首を掴もうと手を伸ばすも、やはり回避された。



 しかし――――



 2人目が攻撃を開始していた。



 「ここだ!」



 必ず当たる。そう思って振るわれた拳はあっけなく宙を切った。


 2人目はボクサータイプ。

 


「シュッ、シュッ、シュッ」と口から漏れるのは独自の呼吸法だろうか?


 だが、当たらない……やはり、当たらない。



 それでも!? 当たらないのか……



 レオンは、パンチを避けるとカウンターのローキック……と言うよりも足払いを放った。


 完璧に決まった足払いは、フワリとボクサーに浮遊感を与え、地面に倒れた。


 そして3人目……


 まるで暗殺者のようにレオンの背後に立っていた。


 抱きつくような距離で拳をレオンに密着させた。


 そして、その拳には魔力が込められている。


 それを見た『不破壊』が叫んだ。



 「ゼロ距離魔法か!」



 ゼロ距離魔法……本来ならば前衛に守られながら、超強烈な魔法攻撃を行う魔法使い。そのコンセプトを真逆に、接近して切り札である魔法は放つ。


 それがゼロ距離魔法。その殺傷力の高さから、闘技者48の禁じ手の1つでもある。



 「それすら、避けるのかよ……」



 呆れすら混じっている『不破壊』の声は虚無へ消えた。


 密着した状態での打撃は避けられない。


 そのはずだった……


 後処理のように3人目を倒したレオンは悠々と『不破壊』たちに近づいた。



 「……回避に特化した訓練か?」


 「そうだ。君はどう思う? あのベルトに有効かい?」



 『不破壊』は言葉を選ぶように答える。



 「答えはNOだ。ベルトの攻撃を全て回避する事は不可能だ」



 「練習ならまだ可能性はあるが……本番ではな」と付け加えた。



 彼の言うとおり、練習と本番では大きな違いがある。


 一撃でも受けたら敗北。その緊張感は尋常ではない。


 極度の緊張感から体力の疲労も激しい。


 そんな中、打たれず打つの展開を終始、実行して勝利する。



 それほど、ベルトは甘い男ではない。



 だが――――



 「だが、他に勝機はあるかい?」



 その問いに『不破壊』は沈黙するしかなかった。


 やがて……



 「付き合おう」と『不破壊』は上半身裸になる。


 「良いのか?」とレオンは驚いた。



 頂上争いのライバル同士。 親交はあれど、協力関係を結ぶ事などなかった。



 「構わんよ。もう、お前だけだからな」


 「……」



 レオンは『不破壊』の言葉の意味が痛いほどにわかる。


 闘技場では他者に負けぬという闘技者の誇り。


 それがベルトという外敵によって穢されに穢された。


 そして、闘技者の象徴であるレオン・キングという男まで負けるいう事は闘技者全体の敗北と同じである。



 そして、その可能性は高い……



 「さぁ、来いよ……チャンピオン!」



 ナンバー1とナンバー2の戦い。


 闘技場に残る名勝負となる。


 しかし、それは目撃した極少数の口から語られる事になった。



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