第68話 幕間①少しだけ奇妙な甘味処
『甘味処』
黒い墨で書かれた看板の文字は達筆だった。
東洋的( オリエンタル)な看板とは裏腹に外観はログハウス。
ある種、無骨で大胆に積み上げられた丸太の建築物。
その周辺に広がる庭は簡素であれ、自然を連想させる。
メイルはなんとなく――――
「なにやらエルフが好みそうなお店ですね」
そう口にした。
しかし、 そんな風情とは無関心なのか? 「良いから入りましょう!」と既にマリアとノエルはドアの前に立っていた。
「ま、待ってください」とパタパタと足音を立て、メイルに入店した2人を 追いかけた。
店内には、焼いたばかりのパンのような香り。若干、異なるのは、香りに甘味のようなものが混じっているからだろうか?
「ちょっと、 これ…… ほ、 本物 かしら?」
珍しく、動揺を含むマリアの声。何事 だろうか?と2人は視線を移 してみれば――――
『バジリスクの卵(生みたて!)』
『コカトリスの卵( 新鮮おススメ!)』
『蛇神ナーガラージャの卵(ちょっと贅沢に!)』
『レットドラゴンの卵(普段とは違う刺激を!)』
レジの前に様々な卵が陳列されている。 しかし、どれも モンスターの卵…… それも、普段は中々、出会う事すら困難な種類。
それが店員の手書きPOPで簡単なメッセージが付け加えられ、希少価値に対して、妙に軽薄な印象を与えている。
普通に考えたら店主の悪ふざけ。 しかし、この店に慣れた感じでベルトが足を踏み入れたの見ると……
「普通の店…… じゃないみたいね」
マリアの呟きにメイルとノエルは「ウンウン」と首を縦に振って同意した。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
店内を見渡せば……いた。
ベルトとシルフィドは窓際の席。
メイルたちは2人の死角になるよう離れた席を選択する。
ベルトたちは既に注文を済ませたらしく、なにやら談笑をしている。
流石にその内容まで3人の耳まで届かない。
「席の選択を間違えたかもしれませんね」とノエル。
「どうします? もう少し近づきますか?」とメイルが提案している最中に店員が注文を取りに来 た。そのため席替えのタイミングを逃してしまう事になる。
「いらっしゃいませ。 こちらが メニュー になります」
チョコレートパフェにストロベリーパフェ。 カスタードプディングにシュークリーム。
東洋的な看板からは連想できないメニューが並ぶ。
しかし、レジ前に置かれたモンスターの卵が使 われているかと思うと、 どれも選ぶのに躊躇がある。
それを、どう感じたのか、店員は――――
「本日のおススメはパンケーキになります」と弾けるような笑顔をみせた。
「―――― そうね。それじゃ、そのパンケーキをお願いするわ」
マリアの一言にメイルもノエルも続いた。
「私もそれを……」
「私も……」
「はい、パンケーキが3つですね。それでは少々お待ちください」
それから、暫くするとテーブルに3つのパンケーキが運ばれてきた。
想像よりも少しだけ大きめのパンケーキ。他には……見た目には、おかしな所はない。
「それでは、食べる前にコチラのシロップをお使いください」
コトッとシロップが入った容器がテーブルに置かれ、店員は店の奥へ戻っていった。
3人は互いに目を配らせ――――
「そ、それはいただきましょうか?」
「はい、いただきます」
少しだけ簡易化された食事の祈りをメイルが済ませるのを待ち、3人はパンケーキを口に運んだ。
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