第6話 飛空艇に乗ろう ~野砲の威力がすごい件~
「師匠。この壁の向こうには何があるんですか?」
「そうさね。百聞は一見にしかず。明日は飛空艇で空の旅といくわさ」
「飛空艇ですか! ひゃっほう!」
いつかは飛空艇に乗りたいと思っていたんだ。
こんなに早く乗る機会が来るなんて。
---
船が港につくと明日に備えて休むことになった。
「アルス。あなた家も無くて野宿してるんでしょ。アタシの家に来なさい」
「え!? いいんですか?」
「弟子が野宿してるなんて師匠の名折れだわさ」
「あ、ありがとうございます!」
イズン師匠の道具やの地下室へと戻ってきた。
正面の白いドアは特訓場で、たしか左の赤いドアがイズン師匠の部屋だ。
いきなり部屋に呼ぶなんてイズン師匠大胆。
見た目はロリっ子でも大人なんだ。
大人の男女二人が同じ部屋で……。
もしかするともしかするかもしれない。
「何やってんのさ。早く来なさい」
「ま、待ってください」
師匠の後に続いて赤ドアの中へ入った。
赤いドアを越えるとそこは……。
「なんじゃこりゃあああ!」
広大な庭にヨーロッパ風の巨大な城がそびえ立っていた。
あのドアは空間を繋ぐ魔法の道具か何かなんだろうか?
「あれがアタシの自宅だわさ。ほれっ!」
イズン師匠が銀色の鍵を投げてわたしてきた。
「ほら、アタシの自宅のお城の隣の小屋。
あそこの鍵よ。
ちょうどアタシの飼い犬が居なくなっちゃったから空いてるの」
「い、犬ですか……」
元犬小屋。
今日から俺の部屋は現実世界で俺が住んでいた六畳ワンルームよりも広い。
それにベッドに家具、その他生活用品が全てそろっている。
お風呂もあるがお湯はもちろん水も出ない。
その他、ランプや冷蔵庫のような箱など、現実世界の生活用品と同じようなものがある。
だが、全て機能しない。
「なんだ。どれも役にたたないじゃないか」
部屋の隅にある電話のようなモノが「チリリンッ」と鳴ったので受話器を取った。
「どお? アナタにはもったいないぐらいの部屋でしょ」
「し、師匠。たしかに部屋は立派ですが、どれもこれも使えないモノばかりです」
「全部使えるわさ。
その部屋にあるものぜーんぶRPを消費するのよ。
RPの制御の修行にはぴったり。
まずは部屋のランプを使えるようになりなさい。
その後はお風呂でRPから水やお湯を生んだり。
この電話もそうね。アタシの部屋に電話出来るようになりなさいな」
イズン師匠は明日、俺の所まで迎えに来ることを伝えると電話を切ってしまった。
この部屋のモノは全てRPで制御できるらしい。
「まずは部屋の隅に置いてあるランプを使えるようにしてみよう」
そーっと、そーっと、ランプにRPを流すイメージをしてみたが豆粒ほどの光もつかない。
かと言って大胆にRPを流すイメージなんてしたらランプが爆裂しそうで怖い。
2,3時間ほどだろうか。
あれこれ試行錯誤してようやく少しだけ光らせることが出来た。
自分の体からRPの小さなエネルギー球みたいなものをランプに飛ばすイメージでうまくいった。
飛ばすエネルギー球の大きさと室によってランプの明るさと灯す時間が異なっていた。
ピンポン玉の大きさぐらいで明るさ最大で、パチンコ玉ぐらいの大きさで明るさ最小だった。
玉の硬さがスポンジぐらいだと1時間ほど、鉄ぐらいだと2、3時間経っても未だに消えない。
---
結局、昨日は疲れて寝てしまい、鉄ぐらいの硬さのエネルギー球を送りこんだランプは朝になっても光光と明かりを灯していた。
多少寝不足だが、そんなことは言っていられない。
今日はいよいよ飛空艇に乗る日だ。
イズン師匠につれられて飛空艇の停泊所に来た。
街の中に広場があり、しばらくすると音も無く上空から飛空艇が降りてきた。
「でけぇええええええ!」
巨大な豪華客船のような飛空艇が目の前に着陸した。
長さは300メートルはある。
高さも10階建てほどのビルは、あるだろうか。
「ちょっと騒ぎすぎだわさ」
「だってこんなにデカイんですよ。男の夢ですよ」
「これだから男は。アンタにしてもこの船の艦長にしてもね」
着陸した飛空艇からヒゲを生やした海賊のような巨漢が降りてきた。
ヒゲや髪の毛は赤毛で存在感と迫力がすごい。
「久しぶりだな。大魔道士イズン。
魔法絶対主義のお前が我が飛空艇に乗りたいとは、ついに科学の力を認めたくなったか。」
「違うわよ。アタシの弟子アルスにこの世界について教えたいだけだわさ」
「フム、この少年が弟子とな」
右目の眼帯に大きな切り傷の跡、左目でギロリと俺のことを見下ろしてきた。
さすが飛空艇の艦長、迫力が違う。
「よ、よろしくお願いします!アルスと申します」
「フム、吾輩はバルバロッサである。
飛空艇では吾輩の命令が絶対だ。
だが、安全は保証しよう。
我が飛空艇ノーチラス号の75ミリ野砲の前には何者も立ちはだかることはできん」
---
艦長バルバロッサの出発の号令の後、ゆっくりと飛空艇は上昇した。
数分で雲の中へと入っていった。
甲板に出ているが地上とまったく変わらない。
元の世界と同じなら、このぐらいの高度だと氷点下で空気も薄いはずだ。
飛空艇のまわりをつつむ青い光のおかげかもしれない。
「カーン! カーン! カーン!」
突然、耳をつんざくような警告音が鳴り響いたと思ったら船員達が慌ただしく動きだした。
「飛翔音、聴知! フタヒャクジュウド! 高速接近!」
「左70度! 時速88キロ! 距離3700!」
「接触まで2分50秒!」
船員があわただしく動いている。
時速88キロで近づいてくる? 魔物か?
「対飛翔体戦闘用意!」
船長バルバロッサの怒号のような号令が甲板全体に響いた。
「ワイバーン視認!」
緑色の巨大な竜が目の前まで迫ってきている。
ワイバーン、一見ドラゴンのように見えるが、よく見ると前足が翼となっている。
「う、うわわあああ! ぶつかる!」
自分は最強だと自覚したはずだったのにワイバーンの勢いにおされて情けなく叫んで思わず目をつぶった。
「60度! 200メートル! 75ミリ野砲攻撃用意!」
バルバロッサの声が突然響いた。
「ほうげえきいいいいいいい!」
空気がひりひりと振動する。
咆哮が鳴り響く。
一気に5連続で大砲が火を吹いた!
「ギエエエエエエエエエエエエ!」
ワイバーンは雄叫びをあげたかと思うと
ひらひらと舞い落ちる木の葉のように
まっさかさまに雲の下へと消えていった。
「見よ!
75ミリ野砲の威力。1分間に15発。
1発83333RPの威力!
見よ!
文明の力を!」
バルバロッサは、まるで勝利の雄叫びをあげるように発した。
「つえええええええ!」
剣や魔法なんて不要じゃないのか?
武器を手にすれば余裕じゃないか。
「新たな飛翔音!」
「右60度! 時速300キロ! 距離1200!」
「船長! ファイアードレイクです!」
「まさか、こんな所でファイアードレイクとは
よかろう、75ミリ野砲の威力を試す絶好の機会だ。
20年前とは違うぞ。
見せてやろう文明の力を」
ファイアードレイクって何だ?
と思っている間に、そいつは現れた。
燃えるような赤色をしたドラゴンで先程のそれより二回りは大きい。
何より周囲に炎をまとっている。
目つきは鋭く、2本のツノがあり、ひときわ真っ赤に熱せられた鉄のように光輝いている。
「ほうげえきいいいいいいい!」
大気を揺るがす雷鳴があたりに響く!
船の左右から同時に一気に5連続で大砲が火を吹いた!
左右合わせて10連続の攻撃!
爆炎があがり視界が遮られたが辺りは静まり返った。
「やったぞおおおお!」
甲板では船員達が喜んでいる。
「これでようやく兄への弔いができる」
船長バルバロッサが静かにつぶやいた。
一体ファイアードレイクとの間で何があったんだろう?
「上だああああああああ!」
船員の誰かが叫んだ。
上を見てみると…
「う、嘘だろ?」
ファイアードレイクが静かにこちらを見下ろしていた。
静かに口をひらくと、喉の奥に赤い光が見えた。
次の瞬間、強烈な炎の渦がファイアードレイクの口から放たれ
甲板へ向けて降り注いできた。
「RPフィールド!」
イズン師匠だ。
船全体を覆っていた青い光の内側に、更に青い光の層が出来た。
2層になった青い光の層に炎が直撃した。
光の層の中にある飛空艇は無傷だが、辺りが徐々に熱くなっていく。
フィールドで守られている中、船長バルバロッサの指揮で数十発をこえる野砲が打ち込まれたが
ファイアードレイクはまったく動じていない。
ん? 炎がやんだ?
ファイアードレイクは、翼をゆっくりと大きく広げると大きく息を吸い込んでいる。
あたりの空気がファイアードレイクへの方へ渦を巻きながら急激に吸い込まれていく。
「全力即時退避!」
船長バルバロッサが叫んだ!
ま、まずい。
何か強力な攻撃が来そうだ。
ファイアードレイクが一瞬止まった。
次の瞬間。
まるで太陽のような炎の球体がこちらへ向かって高速で吐き出された。
叫び甲板の上で逃げ惑う者。
膝を落とし頭をかかえる者。
艦長バルバロッサは悔しそうに上空のファイアードレイクを睨みつけている。
「アルス! あなたの出番よ」
イズン師匠が叫んだ。
そうだ。オ、オレがやらなきゃ。
「いけえええええええええ!」
ランプに明かりを灯した時よりもっと大きいバスケットボール大。
硬さは限りなく固いイメージ。
球体をファイアードレイクに向けて放った。
球体がファイアードレイクの放った火球にぶつかると火球は消え去った。
そのまま球体はファイアードレイクにぶつかった。
辺りが一瞬爆発音と光で見えなくなった。
消し炭となったファイアードレイクがボロボロに崩れながら空の下へと落ちていった。
バルバロッサはじめ船員達がオレのことを見ている。
みんなあっけにとられているようだ。
「なんか、ちょっと気まずいな」
まわりの視線から逃げるように船の眼下に目をそらし雲を見つめた。
まだ、みんな俺の事を見ているだろうか?
視線をあげると、おかしな風景が目に入った。
「あれ?」
空が途切れ天井に巨大な壁が立ちはだかっている。
海で見たアースガルズの城壁が天まで覆っていた。
「もしかして……」
この世界の全てはアースガルズの城壁に閉じ込められているんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます