23.完全燃焼

それからしばらく待っているのだが、中々ドワーフの爺さんが戻ってこない。


「いつまで待たせんだよ!」

『ウガァァ』


さすがに許せん。もう待てない。俺は立ち上がってビータイガーに叫ぶ。


「もう様子見に行くぞ!遅い!」

『ウ、ウガチュゥ』


俺とビータイガーは奥の通路を進んで、工房の方へと向かっていく。


「ちょっとぉ!遅いんですけどお!」


そう叫びながら工房の扉を開けたその刹那、


『大型魔法陣発動』


そう誰かの声が静か聞こえたかと思うと、吹き飛ばされるようなゴォォオォォという爆音が響き一瞬で視界の全てが炎の嵐に包まれる。


「なんだ!?」


俺は爆風で吹き飛ばされながらも、咄嗟にビータイガーを守るように体で庇って壁になる。


『「ウワァァァァァ」』


工房の入り口から鍛冶屋の入り口まで吹き飛び押し飛ばされた。すぐに周囲の温度が急上昇し、サウナみたいになった。とても熱い。


「ん?待てお前今、うわぁぁぁって言ってなかったか?」

『ウガ (言ってないよ)』


気がつくと、鍛冶屋の屋根も壁も焼け焦げてなくなっていた。


これ程の破壊力、普通の職業なら死んでいただろう。盾術万歳。


なくなった天井から炎に包まれた空を見上げると、辺り一面から、プレイヤー死亡時に発生する白い光のパーティクルが空へと昇っていくのが見えた。


「!?」


俺はビータイガーと顔を見合わせる。


「今ので…プレイヤーが、大量にやられたのか…?」

『ウガァ (そうらしい)』


本当に、ふざけないでほしい。いくら強い大盾を作ってくれているとしても、周りのプレイヤーたちを大量に巻き込んでいい訳がない。殺していい理由なんて、俺は認めない。


「あのドワーフ、いくらなんでもやりすぎだろ!注意してくる!」

『ウガァ』


俺は再び通路を走って工房へ向かう。


「おいドワーフの爺さん!これはやりすぎだ!」

『ア?』


よく見ると、工房の壁も天井もなくなっていた。


『この炎を…耐えきったのか!?』


声のした方を見上げると、魔族らしき男が浮遊してこちらを見ていた。


「なっ…」


ドワーフの爺さんの姿もない。何だ?どこへ行った?俺は魔族の方へと歩を進めていく。


ドゴッ


ん?何だこの地面に転がってる真っ黒な塊。邪魔だな退かそう。ん、よく見るとドワーフの爺さんだこれ。いきなりのホラーきた。


魔族が俺の真横で囁いた。


『化け物みたいな耐久性だな』


速すぎる。動きが一切見えなかった。背後ではビータイガーも狼狽えているようだ。


「スキル〈戦力測定〉!」


イノシシはD、ミノタウルスはC、ビータイガーはBだった。こいつの強さは…。



[S]





◆ ◆ ◆





『戦力測定は基本中の基本、どうして力量も図らず闇雲に挑むのか。愚の骨頂である』


魔族に我先にと挑んでいき、次々と瞬殺されていく大量の冒険者たちを、気配を消して隠れて見ていたトッププレイヤー、チビスケがそう呟いた。


3匹のイノシシを連れて戦闘地帯から一目散に逃げていく一人のお婆さんを見て言う。


『ふむ、あのお婆さんは懸命だ。それにしても、いきなり町中でレイドバトルが始まるとは…。要は、あの炎の魔族を仕留めれば良いのだろう?』


チヒスケは一考し、魔法を唱える。


『〈短距離テレポート〉』


近くにあった二階建ての建物の屋根の上にテレポートし、その場で伏せると、機動性を犠牲にしたような大きな高威力のスナイパーライフルを取り出し、魔族の方向に構えてから、気配隠蔽にて姿を消す。


『弾丸セット、エンチャント済みのスモールドラゴンの牙の弾、〈固定式一方通行シールド 五重〉〈攻撃力強化〉〈弾丸強化〉…』


チビスケは次々と魔法を唱えていく。


『あのレベルの敵に通用するかは分からないが全力の一撃をお見舞いする。それが、一流の暗殺者である』


スコープから魔族を除く。魔族は、冒険者たちの無数の攻撃を避けるために、かなり動いており、照準が定めにくい。


さらには防御のための炎も両手に纏わせて壁のように操っている。弾の威力を落とさず当てるためには、同時に炎の隙間を狙わなければならない。


『・・・・・』


今だ。引き金を引こうとしたその時、魔族の背後に突然巨大な魔法陣が出現し、光り出した。


『あれは、やばいな』


直感、そしてスキル〈警報〉がチビスケに警報を鳴らす。


戦闘中のログアウトにも、そこそこのペナルティが存在する。それでもチビスケは、咄嗟に判断した。


あの攻撃には、耐えられないと。


『〈ログアウト〉』


チビスケは、瞬間的にワールドゲームから離脱する。


それからすぐに、魔族を中心に、サイトータン地区の大部分が、地獄の業火に包まれた。


何もかもを焼き尽くす地獄の炎は、範囲内の建物をも焼き尽くしていった。




それから数時間後、魔法使いの冒険者たちと町の中心からやってきたドローンたちの水魔法のおかげで、ようやく炎は消えた。


焼け焦げた跡地には、プレイヤーは勿論、既に魔族の姿は、どこにもなかった…。




{戦果…炎の魔族の撃退、被害………、1}




ちなみに、流石にこのレイドボスは強すぎた上、この地区も燃えちゃったので、後日ワールドゲームはわりと炎上した。




[新着スレ ワルゲー最悪レイドバトル その影響を知った私の涙が止まらないww]


[私さ、ワールドゲームのギルドでバイトしてたんだけどね]

[ん、受付嬢?]

[そうそう。なのにね、なんかいきなりギルドが全焼したのよ]

[ああサイトータン地区のギルドか]

[そうそう。本当に最悪だわ。また私バイトクビにされちゃうのかしら。運営に起訴するわ]

[乙。まあ頑張れよww]

[(´;︵;`)d]

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