短くてくだらない話
湯上信也
自由気ままに
【不幸自慢】
「僕は世界一不幸な男だ」
「いやいや、私が世界一不幸な女だ」
「僕の方が」
「私の方が」
「……この勝負は僕の負けかな。君と出会えたから僕は幸せになってしまった」
「……そんな事を言ってもらえた私の方が幸せだ」
「いや僕の方が」
「私の方が」
【時間遡行】
「タイムスリップすることができるけど、何かを変えることはできなくて、ただ見ることだけできるとしたら、あなたはどうしますか?」
「そうだな。過去に行って、僕と出会う前の君がどれくらい不幸なのか見にいくかな」
「私も同じことを考えました。嫌な人ですね。お互いに」
【死を求めて】
歳をとらない体を持つ男がいました。彼は生きることにうんざりしいて、何百年も「死」を探しています。ある時、男は少女に恋をしました。その少女と過ごす日々は、生きることも悪くないと思えるようなものでした。しかし、少女は病気にかかり、死んでしまいます。男は「死」が肉体だけでなく、心にも訪れるのだと知りました。形は違えど、ずっと探していた「死」を見つけて男は喜び、涙を流しました。でもその涙の理由が、本当に嬉しいからなのか、彼には分かりませんでした。
【嘘つき生者】
交通事故で死んだ男の霊がいた。男は生前の記憶の一部を失っており、成仏できない理由が分からない。霊感のある女の子が、彼がこの世に残した未練を一緒に探すが、まったく見つからない。
「めんどくさいからもう成仏しなくていいんじゃないですか?」
「そんなこと言わずに頼むよ。人助けだと思って」
「人じゃなくて幽霊ですけどね」
「そういえばそうだ」
女の子には分かっている。生前の男の恋人だった自分が、彼の成仏を阻む未練になっているのだと。しかし、それを教えるつもりはない。
(成仏なんかさせません。私が死ぬまで、あなたをこの世に縛り付けてあげます)
【イイトコメガネ】
「人の良いところしか見えなくなる『イイトコメガネ』というのを昔、何かで見たんだ。それを実際に作ってみたい。みんながそれをつければ、俺は透明人間になれる」
「じゃあ私は人の悪いところしか見えない『ワルイトコメガネ』を作りましょう。さぞくっきりと、あなたのこと見えるでしょうね」
「それはいい。とびきり悪いところしか見えないようにしよう。きっと君のことしか見えなくなるな」
【思い込み】
あと数時間で世界の終末が訪れる。その事をひとりだけ知っている男の子が幼馴染の女の子に言った。
「もし世界が終わるとしたら、僕は君と一緒に最後を迎えたいんだけど、いいかな?」
女の子は笑いながら答える。
「相変わらず暗い事考えるね。まあ、可哀想な君のために、最後まで一緒にいてあげてもいいけど」
「ありがとう。これ以上ないくらい嬉しいよ」
「大袈裟だな」
女の子はずっと笑っていた。
実は彼女も世界の終末を知っている。そして、それを知っているのは自分だけだと思っている。
2人はお互いが冗談を言っていると思い込んだまま、手を繋いで最後の時を待った。
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