第2話 貴族の義務
-・*・- リアム視点
カキン、キィン!
「ッ......オリッ! また強くなってないか?」
剣を打ち合うたびに腕に鈍く響く痺れを言葉で誤魔化そうと話しかける。
「リアムが弱くなったんでしょ!ほら、喋って誤魔化さないで」
「げ」
(バレてた)
そう思ったのもつかの間、その隙を突かれて俺の剣は高く舞い上がり、カラン、と小さく音を立てて地面に落ちた。
「はッ......本当、容赦ないな、オリは」
地面にどさっと座り込んで苦笑まじりにそう言うと、オリが隣まで歩いてきてタオルと飲み物を渡してくれる。
「容赦したら怒るのはリアムだからね」
「ははっ、それはその通りだがな」
強くなりたいと望んだのは自分だ。とは言っても、まさか未だに1度も勝てないなんて数年前の自分が知ったら流石に辟易するかもしれない。
なんて、冗談まじりに考えながら冷たい水を飲みこんで立ち上がった。
「じゃあ行くか」
「うん、もう来てるだろうね」
王宮の方を見上げながらオリが少し声のトーンを落として言う。
「ああ、そうだな」
俺も気を引き締め直し、歩き始める。
青い空に白い雲が綺麗に映えた良い天気だが、これから話し合うことがこの空と同じくらい晴れやかで誇らしいものとなるかと言われれば......、そうとは言えないだろう。
「殿下、ご無沙汰しております」
「殿下、本日は気持ちの良い天気ですな」
廊下を歩くと、すれ違う人それぞれの反応が伺えて面白い。大体の人は頭を軽く下げながらにこやかに笑い、挨拶を交わして通り過ぎる。その穏やかな言葉からは父、つまりはこの国の王への尊敬を感じ、自分の責務を実感する良い機会にもなるのだ。
更にはーー、
「おや殿下、先日わたくしめが挙げた案は良いものでしたでしょう?」
横から話しかけられ、声の元を振り向くために笑顔を貼り付けた。
「バイロンどの、お久しぶりです。いつも沢山の改革案を出してくださり感謝しています」
「ははは、まあそれが貴族たるわたくしめどもの義務というものでしょう! 良いものを作って売って金を稼ぎ、それを民たちに還元するというのが、ね」
「......その通りですね」
笑みを崩さず、必要最低限の言葉だけで答えると、その反応が物足りなかったのかちらっと俺の後ろを見やる。
「殿下も、そんな女騎士ひとりでは舐められますぞ。わたくしの息子なんてあの年で何人も騎士を従えておりましてな、いや我が息子ながら、あの好かれようといったら将来が怖いものです!」
「ああ、ご子息の噂は私も耳にしております。商会の方でかなりご活躍されているみたいですね...私など、剣も政治もまだまだ教わることが多いですし、騎士1人というのもそれに見合ったものと思っております」
息子を褒めると満足したのか、バイロンがふふんと鼻を鳴らして胸を張る。
「はは、いや、秀才と名高い殿下のお褒めに預かるとは、こりゃ息子も喜びますぞ。ではこれにてわたくしは失礼致しましょう。また、お話させて下さい」
「ええ、ぜひ」
その後ろ姿が見えなくなるまで、笑顔で見送る。
「ーー何が義務だ、バイロンどのはその金を自分の腹にしか還元していないだろうに」
ふとそんな言葉が聞こえてきて、慌てて自分の口を塞ぐ。
(ん? いや、今の俺の声じゃ......)
とすれば、今の男の声はあいつしかいない。
「おい、失礼だぞ、デュー」
嘆息しながらそう声をかけつつ後ろを振り返ると、柱の後ろからひょこっと黒髪の少年が顔を覗かせた。
「ありゃあ、バレてましたか、これは失礼。ですが殿下、今口塞いでいましたよね」
全く悪びれずに謝罪をした彼は、その若さで名碗と囁かれる商会の長だ。バイロンとは、言ってしまえばライバル関係にあたる。
「んぐっ、それは気のせいだろ、なあオ」
「誤魔化せてないです殿下」
食い気味にオリに指摘され、うっと言葉を詰まらせたが、ごほん、とひとつ咳をしてから話題を変えた。
「あ! そういやデューは何の用事があったんだ?」
「おお無理やり話題を変えてきましたね」
「だから誤魔化すのは向いてないって」
変えたつもりが見事に2人同時に突っ込まれた。が、俺で遊ぶのはもう満足したのかデューが一呼吸おいて答えた。
「何ってあれですよ、部屋で待ってたのに紅茶を飲み終わってもお二人が来ないから探しに来たんです」
「あ、そうか」
剣の稽古の後はデューに会いに行く約束が入っていた。
「そうかってなんですか、忘れてたんですか?」
デューがぶーぶーと口を尖らせる。
「ーーなんてな、ちょっとした意趣返しだ。大体、内容が内容なんだから忘れるはずがない」
とても忘れられるような話題ではないと言った方が正しいかもしれない。
「まぁ、そりゃそうですよね。じゃあ、早速行きますか」
俺の言葉を聞いたデューも真面目な顔になってそう答えた。
「ああ、聞かせてくれ」
第二王子のーー俺の弟の、話を。
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