第97話 三本目は、どんな戦法で戦うか/花崎高校編

 花崎の魔女たちは、三本目をどうやって戦うか、考えていた。


 すでに、ラッシュに敗北したことによるメンタルの乱れは克服した。


 メンタルが整ったなら、次に必要なものは、具体的な作戦だ。


 魔女のリーダーである吉奈は、いくつかプランを持っていた。


 魔女の行動阻害スキルを中心に組み立てるのも悪くないだろう。少なくとも予選では、この作戦で東源高校に勝利している。


 だが、尾長という知将が、弱点を克服していないはずがないのだ。


 東京大会の本選が始まってからも、東源高校は、目覚ましい成長を遂げていた。


 成長には、成長で対抗するのみ。


 吉奈は、ホワイトボードに、一文だけ書いた。


『弱点の克服』


 ばしんっと一文を手のひらで叩く。


「きっと東源高校は、私たちがFPSというジャンルを苦手だと思ってる。だからあえて逆をついて、ポーク構成でいく」


 ポーク構成をやるためには、FPSの技術が必要だ。


 一般的なMOBAで、ポーク構成をやるなら、そこまでFPSの技術は必要ない。


 だが【MRAF】は、主観視点のゲームなので、遠くの敵に弾を当てるためには、エイム能力が必要だ。


 以前の花崎高校は、本当にFPSが苦手だった。エイム能力なんて皆無であり、だから敵の懐に飛び込んで、行動阻害で決着をつけるやり方を多用した。


 だが、amamiこと天坂美桜に、ゲーミングPCを提供されたことにより、成長のきっかけを手に入れた。


 ちょっとした休憩時間や、お昼休みでも、部室に入れば練習できるため、ついに弱点を克服したのだ。


 心配性の真希が、ぐっと小さくガッツポーズした。


「わたしたち、たくさん練習したからね。自分たちの弱点を知ってるからこそ」


 おっとりした七海も、指先で銃を作って、ばーんっとやった。


「敵が~、わたしたちを~、FPS苦手だと思ってるから~、その逆をつく」


 残りのメンバーである、御園と優香も、うんうんと大きくうなずいた。 


 魔女のリーダーである吉奈は、東源高校の作戦を、こう読んでいた。


「東源高校は、わたしたちの意表を突こうとするでしょうね。ラッシュの次も、博打をやることで」


 心配性の真希は、目を細めた。


「そんなことありえる? せっかくkirishunがいるんだし、バトルアーティストを使わない手はないと思うんだけど」


 普通の頭なら、そう考えるだろう。kirishunの強みを最大限に活かすと。


 しかもBO3の二本目でラッシュまで使っているから、三本目でバトルアーティストを使うのが、より安全になる。


 だが、そういう普通の考え方で対抗しようとすると、いまの東源高校には逆効果だ。


 吉奈は、握りこぶしを、東源高校のロッカールームがある方角に向けた。


「バトルアーティストはないわ。それだけは確かよ」


 おっとりした七海は、ゆっくりと首をかしげた。


「どうして~、バトルアーティストは~、ないの~?」


 なぜ、バトルアーティストだけはないのか?


 吉奈は、観客席に、汐留高校の権蔵がいたことを思い返した。


「東源高校は、たくさんの仲間ができたからこそ、バトルアーティストが手札の一枚でしかなくなったの。もしかしたら、汐留高校以外とも交流を深めて、さらに手札を増やした可能性だってあるわ」


 いつもは、ほぼ発言しない、御園と優香が挙手した。


「もしかして、東源高校は、新しい作戦を隠してるのかな?」


 吉奈は、うなずいた。


「そうよ。だからわたしたちは、東源高校の新しい作戦に動揺することなく、ポーク構成を貫き通す。東源高校は、私たちがポーク構成をやれるなんて思ってないんだから、絶対に刺さるわ」


 花崎高校も、三本目で使う作戦が決まった。


 あとは両校の手札が激突するだけだ。全国大会の切符をかけて。

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