第19話 これから

「レレさん、元気を出して下さい」

苦しそうなレレさんを見ていると、気休めにしかならなくても声をかけずにはいられなかった。

「すまない、取り乱した」

レレさんは短く言うと、顔をあげた。その顔は微笑んでいた。

「君からすれば、僕は全く知らない男なのに、こんなに僕の話を聞いてくれるなんて親切だね。僕の周りの人は、家族以外、こんなに親切にしてくれなかった。それどころか、怒鳴ったり冷たく接する人が多かったのに……。僕は異世界に来て、君に会えて良かった」

「私はそんなに大層な人ではないです。それに周りからはクズだとか、バカだとか言われてましたから……。

それと、一人称は『僕』というんですね。初めて会ったときに『私』と言っていたので驚きました」

レレさんは照れくさそうに頭をかいた。

「この世界に来て、僕は自分を捨てようとしたんだ。心機一転してもっと立派な人間になりたいと。だから一人称を変えてみた。でもダメだね。感情が高まるとやっぱり慣れ親しんだ方が出てくる。どうあがいても自分は捨てきれないんだね」

そっか。レレさんも自分を変えようとしたんだ。でもできなかった。そうしたら私も変われないのかな。いじめられやすい性格はどうにもならないのかな。

「それにしても君は変わったね」

「え?」

思わず顔を上げる。全然自覚がない。

「最初に見かけたときは正直に言うと、頼りなさげで周りの様子を常にうかがっているようだってけれども、今では前より堂々としている。君は変われているよ。すごいね」

私は素直に喜んだ。長い間、ずっとこの性格に悩んでいたから。レレさんの気のせいという可能性は捨てきれないけど、少しずつ変われているんだ。


「君は……元の世界に帰りたいのかい?」

「帰りたいなって思います」

想定していたよりも早く答えが出た。

「でも、日本での君は、ここよりも酷い扱いを受けていたと聞いたが……」

「それでも戻りたいんです。ここは確かに素敵なところだけど、色々と謎が多いし……。いつまでもトトの家のお世話になっているわけにもいけませんしね。それにやっぱり故郷は恋しいです。地元が一番落ち着きます」

レレさんは頷いた。納得してくれたようだった。

「その気持ち、分かるな。僕もどこがいいかと聞かれたら、故郷を思い出すだろう。僕も色々と酷い目にはあったけれど、本能的に生まれ育った場所を求めるんだろうね。まあ、酷い目といっても、僕の場合は自業自得な訳だが」

レレさんは自虐的に笑った。


「君が帰るためにも、この国の状況をしっかり知っておかなくてはいけないね。

まずはこの国ならではのもの、例えば王様の独裁政治や体に色を纏う文化について調べる。あとは、僕以外の発作が出ている人にも話が聞けたらいいな。僕たちが元いた世界から来た可能性が極めて高い」

「それと、できれば王様に話が聞けるといいですね。この国の中心は王様ですから」

「そうだね。あと……」

レレさんは少しためらった。言いたいけど遠慮をしている、そんな感じだった。

「あと、もし君が良ければなんだが、何日かに1回、本当にたまにでいいんだけど、分かったことを教えにきてくれないか。僕の方でも調べてみるから。1人よりも2人の方が頭が回るかなと思って……」

「助かります。分かりました!」

私の答えを聞くとレレさんは嬉しそうに顔を輝かせた。私と話せる口実ができたことを喜んでくれたのかな。いや、思い上がり過ぎかな……。

でも、私としても誰かと情報が共有できた方がありがたいし、レレさんと話すのは楽だから嬉しいな。

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