Data.19 探検!ハグルマの遺跡
「ふんふっふっふっふ~ん! いやぁサクサク進むんで気分がいいねぇ」
上機嫌のドロシィは鼻歌を歌いながら進む。
その背中を追う俺たちの気持ちは複雑だ。
『メダルが基礎スペック以上の効果を発揮した時には、絶対に他のメダルの効果を受けてるにょん』
「つまり、ドロシィはスキルメダルの基礎攻撃力を上げるメダルを持っている可能性が高いんだな?」
『そういうことだにょん』
ブロンズがプラチナに見えるほどの攻撃力になった。
つまり、強化を実現しているメダルもそれなりに高レアリティで間違いない。
もしかしたら、クロガネの……。
真実をこの目で確かめたいところだが、メダルを明かすということは手の内を明かすということ。
今のところドロシィの方も俺のメダルについて詳しくは聞いてこない。
よほど親しくならない限り、「メダルを見せて」と言い出すのはマナー違反なのかもしれないな。
とりあえず、今はダンジョンの攻略に集中しよう。
ドロシィが強いというのはもはや疑う必要がないのだから、味方でいてくれるうちに甘えさせてもらう。
「あ、隠れて!」
ドロシィがスッと物陰に隠れる。
俺も慌てて引っ込む。
「他のパーティーだねぇ……。なかなか弱そうじゃん」
視線の先にいるプレイヤーは四人。
みんな特に周囲を警戒することもなくのんびり進んでいる。
装備も大して強くなさそうだし、数的不利があるとはいえ勝てる気はするな。
「でも、敵意のないプレイヤーを無意味にキルするのは俺の主義に反する。ここは軽く挨拶でもして先に行かせてもらおう。別にダンジョンって早く攻略した人が得するわけじゃないんだろ?」
「ま、それはそうだけど、お兄さんはなかなか甘いね~。背中を見せた時に攻撃されたらどうするの?」
「攻撃されてから考えればいいさ」
「受け身だねぇ」
ドロシィにも受け身って言われた!
でも、見た感じエンジョイ勢のプレイヤーたちをキルするのはやっぱりもやもやする。
俺自身それでゲームが嫌になって辞めそうになったんだ。
同じことを他人にしていいわけがない。
「俺があっちのパーティーに話しかけるし、俺がドロシィの後ろを歩く。だから、もし攻撃されても食らうのは俺さ」
「ふぅん、そういう気遣いは嬉しいけどね」
目の前を歩くパーティーに話しかける。
「すいません。お先行かせてもらっていいですか?」
「ええ、どうぞどうぞ」
「どうもです」
頭を下げて彼らの前に出る。
「ほら、やっぱり敵意がないプレイヤーもいるんだよ」
「…………」
「…………マジかよ」
念のために背中に背負っておいたコレクトソードにスキルがヒットする。
あんなにニコニコして先に行かせてくれたのに攻撃してくるのか!?
「コレクトバースト!」
「なっ!? カウンターだと!? うわあああああああああ!!」
パーティ四人をすべて倒し、俺は剣を収める。
頑丈だし、スキルに対して盾として使えるコレクトソードはやはり強い。
しかし……なんだかなぁ。
「すごいすご~い! まさか生き残るだけじゃなくてみんな倒しちゃうなんて! かなり見直したよ! ちゃんと対策もしてあったんだねぇ!」
「まあね。それなりに対人戦もやってるさ。でも、今のシーンであちらさんが攻撃する必要があるか? メダルの強奪でもするつもりだったのか……」
「僕たちみたいにレアメダルを持つプレイヤーは常に強奪の可能性を疑い、警戒するべきさ。でも、今回の場合はダンジョン内で前を進んでいるパーティーを抜かすという煽り行為をしたから攻撃されたっぽいけどね」
「はぁ!? 抜かすのが煽り行為!? こんな狭い通路を四人でダラダラ歩かれたら先に進みようがないじゃないか!」
「だから、運営的には道を譲るのを推奨してるんだけどね。オンラインゲームってのは、どうしても独自のルールと言うか暗黙の了解で出来ちゃうのさ」
「バカらしいな……」
「僕もそう思うから、前を進んでるプレイヤーは平等にキルするんだ」
「それもおかしいと思うけど……」
ただ、抜かすと攻撃される確率が高いなら、先に攻撃してしまうのは理にかなっている。
やっぱり、ドロシィはダンジョンに慣れているな。
「ま、変なルールとプライドばかり守ろうとするバカのことは忘れてさ。冒険を楽しもうよ。そろそろ最終階層も見えてきたんだしさ」
「それもそうだな」
攻撃されたらやり返す。
当然のことだと割り切って俺の冒険を続けるか。
「いいねぇ、お兄さん……」
「え、何が?」
「そういうめんどくさいルールにこだわらないところだよ。パーティーを組んで良かったと今なら思えるね」
「そ、そう? ありがとう」
急にデレてきたな……。
悪い気はまったくしないけど。
『あー! 鼻の下伸ばしてるにょん!』
「伸ばしてない! あ、もしかしてやきもち焼いてる?」
『焼いてないにょん!』
「はぁ……。今ので上がったばかりのお兄さんの評価がちょっと下がったかな」
「え!? なんで!?」
● ● ● ● ● ● ●
最終階層である30階にたどり着くまでに、いくつかのパーティーに遭遇した。
俺は毎回断りを入れて先に行かせてもらうという行動を実行した。
その結果、七割のパーティーは攻撃を仕掛けてきた。
中には話しかけた途端、攻撃で返事をしてきたプレイヤーもいた。
でも、三割は何もせずに通らせてくれた。
内心イラついている人もいるかもしれないけど、中には特に気にしてない人もいるはずだ。
そういう人たちに迷惑をかけないためなら、俺はこの行動を続けたいと思う。
「甘いねぇ。でも、嫌いじゃないよ」
「…………」
俺の行動は……甘いのか?
受け身になるのは弱いことなのか?
むしろ、強いからこそ受け止めてから対応できるのではないか?
強者はドンと構えているものではないのか?
ドロシィやグリフレットは強いプレイヤーなんだろうけど、彼らに従うことが俺のプレイングなのか?
「お兄さん、ボーっとしてんじゃないよ! ダンジョンボス戦だよ? ここのボスはダンジョンのぬるさと打って変わって強敵って話なんだから」
「ああ、少し考えごとしてた」
「後にしてほしいね。うじうじしてる男はカッコ悪いよ」
うじうじしてるのは……カッコ悪いのか?
うん、カッコ悪いな!
「よし、ボスでもなんでもかかってこい!」
「そうこなくっちゃ!」
メニュー画面が勝手に開き『WARNING!』の文字が表示される。
同時に敵の名前も表示された。
<蒸気鉄鋼人 スチルムタイタン>
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