26話 魚釣島の清明 16/16
「で、話はどこまで言ったさぁ?」
「えーっと……、
「おお、ヤサヤー。」
メイシアはもう一度、ナギィが説明するために作ってくれた黒砂糖のジオラマを見た。
「……この結界、ものすごい大きさですよね……」
「そうなんじゃ。それも、昼夜問わずじゃ。
「メイシアは、ここに来るときに、大きな岩を見ていたでしょ。あれが祈りの場所。
ナギィに言われて思い出した。
船から見えた山中腹、緑の中にある二枚の巨石。
「その御嶽で、今も
「え!夜に一人で?」
メイシアには、元気とはいえ年老いたこのカマディが、深夜に一人で島を守っている事に驚きを隠せなかった。
「ずっと続けていることさぁ。」
「でも、おばあちゃん一人なんて……」
「メイシアは、ずいぶん優しい
「……おばあちゃん、私に何かできることはあるかな?」
「嬉しいさぁ。……でもメイシアは、まず、
「……誰にですか?」
「それは、大きな力さぁ。」
「……大きな力、」
カマディが優しい目を細めて、うんうんと頷いた。
「その大きな力に、十三夜にメイシアが現れると……なーんとなく、感じたんじゃ。」
「え?オバア、何となくだったの?」
「そうじゃよ。でも、ちゃーんとメイシアは現れたじゃろ?」
「……それは、そうだけどさぁ、」
「さ、というわけでワシの話はおしまい。……メイシアはワシに何を聞きにやって来たんじゃ?友達の事か?」
「そうです……!やっぱり、おばあちゃんは何でもわかるんですね。すごい……」
「老いぼれをあんまり買い被っちゃいけないさぁ。ワシがわかるのは、人々が分かる事より、すこーし多いだけ。それだけさぁ。さっきもいったじゃろ。あと数日、ここで待つと良い。
そう言って、カマディが合わせた手を額に当て目を瞑り、しばし黙り込んだ。
風がまた居間を吹き抜けた。
少し胸騒ぎがする熱波だった。
カマディが目を開き、胸に吊るした勾玉を少し震えた手でぎゅっと握った。
「オバア、どうしたの?」
「……何でもないさぁ。」
「でも、オバア、なんか顔色が悪いさぁ?」
ナギィがカマディの様子が明らかに変わったので、いつもより食い下がる。
「なぁに、デージなことじゃないよ。もうすぐ、次の扉が開くみたいさぁ。」
「次の扉……?」
カマディが二人の手を、両の手で握った。
今までとは全く違う、決意の手だ。その手は、しわくちゃだが、強い人だけが持っている温かさがあった。
「……いいかい。ナギィ、メイシア。何があっても、
「おばあちゃん……一体何が起こるの?」
「そうさぁ。ワーがオバアの事を信じないわけがないさぁ。」
二人は不安で、押しつぶされそうな感覚に襲われた。
ぎゅっと、カマディの手を握り返す。
「なんくるないさぁ。ははは。オバアの話なんてテーゲーに
今日のユーバンは何にするかねぇ、などと言いながら、立ち上がり土間に向かったカマディを二人は、不安な気持ちのまま見つめた。
「オバア……! 夕食の準備もだけど、
「え? ナギィ、朝ごはんは、ナギィがおにぎり作ってくれて、食べたよ? 」
「あー、紛らわしいよね、アサバンって、お昼ご飯の事なんだ……」
「へぇ~。」
「おぉ、そうじゃったな。ワシもまだ食べておらん。アサバンは何がいいかのぉ。そろそろ、森榮もお腹を空かせてかえってくるさぁ。」
明らかに何かに動揺しているように見えるカマディだったが、二人はそれ以上は聞けなかった。
カマディが信じろと言ったから、そうするより選択肢は無いように思えたからだった。
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ナンクルナイサ / なんとかなるよ
デージ / すごい
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