48.亡命と命名

 それから3時間後、博士は修理を終わらせ小さな庭でお披露目をした。

皆が注目する中、博士は部屋の中から呼びかける。


「よし、出てきていいぞ。その完璧な身体を見せてやれ」


 テラスに繋がる窓の奥から現れたアンドロイドは、競泳水着の様なピチピチな肌着と、厚く頑丈そうなニーソックスを着て出てきた。



「おー、あの時とは見違えたな!すっかり綺麗になっちまって!」

「いやいや! てか何その服、博士の趣味?」

「バカもん! これは機能性に特化した服――もとい装備だ! 見た目で判断するでない!」

「えー? これにどんな機能があるってのよ」

「ふっ、ならば1から説明してくれよう。先ずは――」

「いや、確かにこれだけだと露出がエグいですって。街中歩けませんよこれ。せめて何か上から被せましょうよ」

「いやだから、この形には意味があるんじゃて、無意味に重ね着すると効率が半減するじゃろがい」

「じゃあ半減しない程度の奴でいいので着せましょう。お土産用にシエロが多く買ってきたからなんかあるでしょ」


 怜央はテーブルの上に、服の入った袋を取り出した。

シエロがそれを漁り、ホットパンツと呼ばれるとても短いズボンを出した。

それを履かせたシエロは一言。


「いいですね!」

「確かに似合うかもしれんけど……腰周りが強調されて帰って目立つ気が……」

「それがいいんですよ!」

「んー……とりあえず上にはパーカーを来てもらおう。少しデカいかもだけど」

「おい、それじゃ機能が――」

「あーいいですいいです。その機能が必要になったら脱いでもらえばいいだけですし」


 怜央は博士の遮りを無視して、アンドロイドに薄いパーカーを羽織らせた。

アンドロイドは空気を読んで袖を通すと昨夜のお礼を述べ始めた。


「昨日はありがとうございました。あのままでしたら私はきっと壊れていたことでしょう。今こうしていられるのも皆さんのお陰です」

「――良いってことよ! 誰かが困ってたら助けるのは当たり前だ! な、怜央」

「その通り」

「せいぜいその恩を忘れない事ね。少しずつの返済も受け付けるわ」


 アリータは髪を靡かせながら決めるものの、言ってることは厚かましかったのでコバートが髪をわしゃわしゃした。


「何言ってんだ、お前もお前でなかなか楽しんでただろ」

「はあ? それを言ったら1番はテミスでしょ?」

「……一理あるな。どうだテミス、選り好みしてたら今回のドライブは無かったんだぜ? 俺の言ってたこともあながち間違いじゃなかったろ?」

「……」


 テミスは肩を竦めたものの、内心では少し認めていた。

その裏で、アンドロイドに着せたパーカーを博士は脱がそうとしていた。

それに気づいたアリータは咎めた。


「ちょっとエロ親父! アンタなにしてんのよ!」

「ばっ、失礼なこれはちょっと脱がそうとしただけで」

「それが問題って言ってるのよ! 大体なんで脱がす必要があるのよ、さっき着せたばっかりでしょ!?」

「むう、空を飛ぶにはどうしても……。夏目君……」


事の解説を求める視線を浴びせられた怜央は仕方なく代弁した。

最後の方は流れでアンドロイドに、博士との約束を果たしてもらえるよう交渉もしていた。


「――と、いうわけだ。お願いできない?」

「はい、お任せ下さい」


 アンドロイドは自らパーカーを脱いで博士を送る準備に入った。

頭の上に光り輝く輪っかが、それもグルグルと高速回転しているものが出現した。

 そして背中からは格納されてた黒い鋼製の翼が、無数に出てきて左右一対の翼を築く。

それは肌着を破らない絶妙な場所から出てきた。


「それでどうやって運ぶのかしら? まさか抱き抱えていく訳でもないんでしょ?」

「いや、そのまさかじゃ。体に負担はかかるものの、ワシの体力ならまだいけるはず。それに飛行時間はさほど長くはない。彼女の性能なら1時間で行ける計算だ」


 博士はゴーグルを着けて防寒装備に着替えると、アンドロイドに不格好にも抱き抱えられた。


「さてと、それじゃあこれでお別れだ。短い間だったが世話になったな」

「いえ、こちらも色々と助かりました」

「オッサンも元気でな」

「飛んでる最中彼女に変なことすんじゃないわよ」

「……」


 椅子に座ったままのテミスは何も言わず、手をヒラヒラさせているだけだった。


「それでは出発します。体勢に気をつけてください」

「うむ、レーダーに引っかからないよう暫くは低空気味に頼むぞ」


 アンドロイドは了解の意を示すと音もなく浮遊し、徐々に徐々にと加速を始め、次第には目にも止まらぬ速さで消えていった。


「しかし彼女の名前がないって不便よね」

「それな」


アリータとコバートは呼び名が無いことに苦労していた。


「いや大丈夫、今決まったよ」

「ふーん? どんな?」


テミスは脚を組み替えながら尋ねた。


「『ミカエル』。俺の世界で、すごい天使の名前をそのままね」

「ほー。じゃあちゃんミカって呼ぼ」


コバートは何故か渾名を付けたがる節があった。

怜央はそれも個性と、咎めることもなかった。

ミカエルが飛んで1時間後、博士は無事に亡命先の政府庁舎に届けられた。

それからさらに20分後、怜央達と合流したミカエルは共に学園へと帰った。



◇◆◇



 一行が学園へ帰還すると、持込み物検査場に移された。

その要因はミカエルだった。


「おお、こっちは初めてだ。でもなんで――あっ、ちゃんミカか」

「そうだ。前のシエロと同じパターン」

「ふーん? そういえば細かく聞いてなかったけど、前回はどうやって通したの?」

「いやまあ、色々あってな。とても褒められるようなもんじゃないんだけど……」

「コネよコネ」

「コネ言うなテミス。なんかいやらしいだろ!」

「でも今回も頼むんでしょ? ならさっさと連絡なさい」

「……へいへい」


 怜央はスマホを取り出してある人物に電話をかけた。


「お疲れ様です、夏目です。――いや、実はですねちょっとお願いしたいことが……ええ、ええ。そうです。すみませんお願いします」


 怜央が架けたのは勿論、水谷である。

その後到着した水谷は職員に声をかけ、一行をノーチェックで通させた。

 そして前回以上に手際よく手続きを進め、無事ミカエルをの入国が叶った。

今回の依頼はギルドとそのメンバーを獲得出来た、一挙両得の依頼であった。


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