33.学園三大ギルド

「しかしなんでかしら。あんたの血が美味しいのは」


 アリータと怜央はギルド設立の手続きのため、学生課へと向かっている途中だった。


「んー。そもそも美味い血と不味い血の差ってなんなんだ? それによるだろ」


 未だ全ての傷が癒えない怜央は所々包帯とテープでぐるぐる巻にされていた。


「そうね……生活習慣は勿論だけど、魔力の質や量にも左右されるわね」

「ほう? ならそれかもな」

「はあ? ばかを言わないで頂戴。あんたのステータスは前に見たけど最低のEだったじゃない。実際私は他人の魔力が少しわかるけれどアンタからはあんまり感じないわ」

「んー、そんなことないと思うがな。こっち来た時の身体検査では魔力について褒められたくらいだし」


 怜央は再びスマホを操作して自分のステータスを見た。


「……ん? これよく見たらEじゃなくて小文字のeだな」

「え? どれ……あっホントだ」

「これはもしかしたらエラーの『e』で、このスマホでの検知機能に限界があるのかもな」

「信じたくないけど……あれじゃ信じるしか……いや! やっぱ信じたくない!!」

「いやそこは信じろよ素直に」


 怜央の血についてちょっとだけ考察を進めていると、受付まで着いてしまった。

職員に軽い挨拶をして再びギルド設立について尋ねた。


「あの、この書類の規約の部分に『300万ペグのお支払いができない場合、指定する依頼の達成で代替可』ってあるんですけどこれは……?」


 ――そう、怜央はボコボコにされたあの日、持ち帰った書類を隅々まで見ていた。

それは、受付の職員が言った『払う払わない払えないは別として』という言葉が引っ掛かったからだ。


「ええ、新入生には大変厳しい依頼になりますけどそれでも良いのなら受けてみますか?」


 怜央はアリータを一瞥して助けを乞う。


「手伝ってくれる?」

「なんで私が――」


 アリータが嫌そうな顔をするものだから、怜央は間髪いれず怪我を利用した。


「あたたたたたた!!! 痛い痛い! アリータみたいな頼れる人が居ないとマジ厳しいなぁー(チラッチラッ)」

「私みたいな頼れる人ー? ――まっ、いいわ。その代わり今度の血は多めに頂くけどね」


 アリータは怜央のお世辞にまんまと乗せられた。


(こいつチョロいわ〜)


 とほくそ笑んでいたのは内緒である。



◇◆◇



 ギルド立ち上げの依頼発注は翌日になって知らされるとのことで、その日は引き上げることにした2人。

建物を出ると、目の前の広場では各ギルドによる勧誘が行われていた。

その数は多く、プラカードを持って歩き回る者もいれば、ブースを設けて説明している者もいる。


「商業ギルド『金の子豚』では商売に興味のあるメンバーを募集してまーす!」

「『理工研』は冒険に役立つアイテムの開発をしています! 科学学部を目指す生徒は一攫千金狙いでどうですかー!?」

「宝探しに興味のある方! 是非とも『ジーニア探検隊』と一緒に冒険しましょう!」


 といった活気溢れる光景が毎年この時期には恒例となっているのである。

それらを眺めてふと思い立った怜央はアリータに尋ねた。


「そういえば、俺のギルド以外だったらどこに入るつもりだったんだ? なんか色々あるようだけど」


 アリータは歩きながらよその勧誘活動を後目しりめに答えた。


「そうね。やはりメジャーな所を考えたわ。例えば――ほら、あそこ。あそこに陣取ってるのは『天真爛漫』ってとこよ。七宝学園三大ギルドの一角なの」

「ほー。受付の子皆美人だな」

「そうね。でも容姿だけじゃないのが天真爛漫なのよ。人数は決して多くないけど皆実力者なのよ」

「三大ギルドって呼ばれるほどだから余っ程なんだろうなー。他にもその三大ギルドってのはここで勧誘やってるのかな」


 そう尋ねると、アリータは軍人らしき人がいるブースを指さした。

それは鎧などではなく、どちらかといえば近代的な迷彩服の兵士だった。


「あの『国防軍』もそうよ。通称DF」

「どんなギルドとこ?」

「あそこはとにかく人が多いのよ。魔法が使えなくても入れるから。だから学園ギルドの最大勢力と言われてるわ。でも私はあんなとこごめんね」


 アリータは肩を竦めて拒絶感をあらわにした。


「どうして? 男ばっかでむさ苦しいからか?」

「それも無いわけじゃないけど、あそこは束縛が激しいのよ。新入りには装備をくれるっていうメリットもあるらしいけれど、休みの日は訓練したり、任務と称して無償労働があったりね。私にとってはデメリットの方が大きいわ」

「ふーん。マジもんの軍隊みたいだな」

「そうね。クレイユ王国とは癒着も強いみたいだし、実際この国の警備をしてるのは彼らよ」

「ああ、そう言われると確かに色んなとこで見るよな。単に人が多いってのもあるんだろうけど」

「そして最後の1つが――うぇふっ!」


 アリータは解説の余所見をしていたからか、前にいた男にぶつかってしまった。

比較的優しい衝突だったのだが、男は振り向くとすごい形相で睨み付けてきた。


「おいおい嬢ちゃん。いてぇじゃねえかよ。こりゃ背骨の何本かはいっちまったかもなぁ?」


 それはみるからにチンピラであった。

無駄にデカい金のネックレスをして威圧感を出し、ありとあらゆる手段でたかろうとしているのが目に見えている。


「はあ? そんなに強くぶつかってないでしょ失礼ね。私はそんなに重くないわよ!?」

「いや体重の問題じゃないだろ」


この場にあっても怜央はついツッコミをしてしまった。

男は舐められてると感じたのか、より一層睨みを効かす。


「おいオメーら……。あんま舐めてっと痛い目見んぞ? うちら『水星会』に楯突いてここら歩けると思わねえ方がいい。謝んなら今のうちだ」


 チンピラは唾を吐いて威嚇するも、アリータはその男の実力を見抜いていた。

魔法なんか使わずとも余裕でねじ伏せられるような雑魚であると。

 その余裕もあってか解説の続きに戻った。


「そうそう。さっきの続きなんだけど、その『水星会』ってやつが最後の1つなのよ」

「ああ。実は俺も水星会だけ知ってるんだ。調あってな。それにしてもアリータ、お前もメンドイのに絡まれちまったなー」

「『お前も』?」


 と、ここまで来て無視されてた男が完全にキレた。


「テメーらいい加減にしやがれ!!」


 そう叫びながらアリータの顔目がけて容赦なく本気の蹴りを入れようとした男だが、アリータにとっては止まっているも同然のぬるい蹴りだった。

 身長差はかなりあったがアリータは片手で脚を掴み、受け止めた。


「そう。怜央も知ってるようだけど、水星会ってタチが悪いのよ。恐喝とか暴行等とかの違法行為はするし、ヤバい依頼も平然とやるって噂よ。この分だと多分本当のことね」


 淡々と言ってのけるアリータだが、事が事だけに周囲の注目を集め始めた。

男は焦りと恥ずかしさから暴言を吐いて暴れるので、アリータは脚を離した。


「クソがっ!! てめえ、ガキだと思って手加減してやりゃ調子に乗りやがってよ!」


 男はあるブースの方に目をやり叫んだ。


「アニキ! ちょっと来て下さいよ!」


 するとあろうことか、出てきたのは昨日怜央に暴行を働いた集団であった。


(あちゃー……。こんなことってある? 絶対面倒ごとになるじゃん……)


 内心毒づく怜央だったが相手は既にこちらの存在に気付いていた。

昨日のこともあってかやたら下卑た笑みを浮かべながら近寄ってくるチンピラアニキとその連れ集団。


「おう、どうしたぁ?」

「アニキ聞いてくださいよ! こいつら自分からぶつかって来たのに謝りもしないで因縁吹っかけてきたんすよ!」

「はあ!? 一体何を言って――」

「なんだとぉ!? それは良くねぇなあ?

ただでさえこっちは怪我させられてるのにそりゃーねぇよ。誠意ってもん見せるのが筋やろ? お? それにオメー、昨日ので懲りてなかったようだな。わざわざからんできやがって、そんなに俺のことが好きなのかぁ?」


 仲間内で大声で笑ってバカにするチンピラアニキ。

アリータは今の会話から昨日の事件の犯人がこいつらだと察した。

 だが同時に腑に落ちないこともあった。


(まさかこいつらが? でも能力を持つ怜央をボコボコにすることのんでできないはずだわ。一体何が……?)


 そんな事を考えてると、男は怜央の首を力強く鷲掴みした。


「よぉ、また昨日みたいにボコられたくなかったら金出しな。俺は優しいからよ。今日の所は100万ペグで勘弁してやるぜ」


チンピラの仲間は数の利もあって内心余裕だったのだろう、どんどん付け上がっていった。


「昨日言ってた雑魚ってこいつのことっすね!?流石アニキっす。絞れるだけ絞ってやりましょうよ」

「こいつビビってんぜ! ダッセェ!」


 などと言って笑っていたその時、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。


「おい、そこで何してる」


 声の方を見遣るとそこには、服屋で会った玲奈がいた。

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