19.訓練

 寮に戻るとそこにはテミスとリヴィア、アリータがいた。

彼女らは丁度この時間、受けたい講義が無かったようだ。


 怜央の早い戻りを確認すると、テミスは椅子から立ち上がった。


「あら、早いじゃない」

「最初だからってことで、早く終わったんだ」

「ふん……やる気があるのはいい事だわ。それじゃ行きましょうか」

「ああ、今日は頼むよ。――テミス先生」


 怜央は立て掛けてあったベネリM4を手に取ると、テミスと2人、部屋を出た。



◆◇◆



 2人が来たのはいつもの武器屋。

その中にある射撃場がお目当てだった。


「使い方は簡単よ。ここに弾を込めてレバーを引き、狙いを定めて撃つ。こんな感じに――」


 テミスは人型の的目掛けて一気に連射した。

本来なら反動のせいで弾がばらけるはずなのだが、何故か1箇所に集中し、まるで1発しか撃ってないかの様な痕ができている。


「うまっ……! なんかコツとかあるのか?」

「コツだけでこんなこと出来るわけ無いでしょ。というか怜央、以前私のプロフィール見たでしょうに」

「ああ見たけど……能力欄に載ってたのは確か、『武器庫』だっけ? その能力と関係あるのか?」

「……仕方ないわね。この銃を見て」


 テミスは持ってた銃に弾を込めて台に置くと、触れてもいないのに銃が浮かび上がる。

そしてそのまま、的めがけて独りでに連射したのだ。


「!? なんだこれすげぇ! どういう能力!?」

「ふっふっふ。怜央はもう少し自発的に、様々なことに興味を持って行動した方がいいわ」


 テミスは自分のプロフィール、尚且つ『武器庫』なる表示をタップして怜央にスマホを渡した。

新たな表示にはこう説明されていた。


――――――

【武器庫】 レア度/★★★★★

分類/異能

1度触れた武器をコピーし、保管できる能力。

また、その武器類は意思によって操作できる。

但し特殊効果まではコピーできず、魔剣などは切れ味の良いただの剣となる。


――――――


「うわっ、こんな機能あったのか……。ていうかレア度5って地味に凄いんじゃないか?」

「まあ当然といえば当然ね。逆に考えてみればわかるけど、神様が持ってる能力が★1なわけないじゃない」

(あっ、まだその設定通すんだ……)


 怜央はここまで来ると関心と呆れが半々になっていたのだが、あることに気づいた。


「てかこれ、コピーする能力? なんだよな。どこでコピーしたんだ? これらは」


 怜央はベネリを手に取ってそのオリジナルの在処を尋ねた。


「どこってそんなの、決まってるじゃない。後ろに沢山あったでしょ?」


 テミスが示したのは後ろの武器屋部分。

つまりお店の商品を買わずに手に入れてたのだ。


「えっ、それって不味くないか? こう……なんというか、デジタル万引きに通ずる何かをしている気が……」


 そういうとテミスは肩をすかし、首を振った。

その姿はまるで、「やれやれ」とでも言いたげである。


「あのね、犯罪ってのはバレなきゃ犯罪じゃないの」

「いやちょっ、それ犯罪って認識してるじゃん! この国の法律はあんま知らんけど!」

「商品のコピーをその店で撃ってるとは誰も思うまいね」


 テミスは笑いながら呑気に弾を込め、射撃を楽しむ。

衝撃の事実を知ってしまった怜央は気が気でない。


 いつバレるかわからなかったからだ。


「おいおい、そういう問題じゃないって! 悪いことは言わねえから、今日は帰ろう! 逃げる勢いで!」


 怜央は背中を向けてその場を離れようとした瞬間、テミスは引き止める。


「あ、そう言えば大事なことを忘れていたわ」


 怜央は一瞬だけ歩を止めて、首だけ振り返り確認する。


「……何を?」


するとテミスは1発だけ弾を込めてコッキングし、薬室へと送る。


「このタイプは強い衝撃を与えるとファイアリングピンが弾と接触して暴発するかもしれないから気を付けてって言いたかったの。こんな風に」


テミスは持ち上げた銃を台に向かって思い切り投げつけた。

案の定、テミスの目論見通り暴発し、発射体は天井を貫いた。


 怜央は声にならない声をあげそうになるが喉元で何とか押し殺した。

変に騒ぐと逆に注目を浴びるからだ。

幸いここは射撃場。

そこかしこから聞こえる発射音に暴発音は紛れてくれた。


「テミスううぅ〜〜〜っ! お前ってやつぁ~~~!」


 小声で詰め寄り小言を言ってやろうとしたその時、後ろから不意に声をかけられた。


「ちょっとそこの人!」

「!! はいっ!?」


 振り返るとそこに、この前怜央を注意した赤毛の店員が居たのだ。


「射撃場にいるってことは、今日はひやかしじゃないようね。何を使ってるのかしら?」

「えっ、あっああ、友達から譲ってもらった銃をちょっと」


 怜央は先程叩きつけられたベネリを手に取る。

それを見た店員は興味を示す。


「ふーん。ベネリね。ガス圧式の良い銃よね」


 今日はお客として受け入れられていた様で、この前とは違いフレンドリーな接し方をする店員。

その銃が店のコピーとは、まだ、気づかれていない。

しかし、怜央にとって気づいて欲しくないもう1つのところに気づかれてしまう。


「ん? そちらはお連れさん……って――この前の迷惑客!」


 そう、この店員は以前テミスとも揉めていたのだ。

そのことに今この瞬間、怜央も思い出した。

 

ついでに言うと、テミスの能力を知った今、あの時何で揉めていたのかも理解した。


「あらこんにちわ」

「こんにちわじゃないわ! この前言ったでしょ!? 今度変なことしたら出禁にするって!」


 クレア武器ショップはこの街唯一の武器ショップ。

そこを出禁にされると今後かなりまずい――そう直感した怜央は間に入って仲を取り持つ。


「まあまあまあ! 今日は自分の練習に付き合ってもらっただけですから!すぐ帰りますからそう怒らずに!ねっ!変なこともしてないし!」


 怜央の必死の誤魔化しは、帰って不信感を与えることとなる。

店員は目を細めて怜央を注視する。


「そんなに必死になって……なにか怪しいわね」


そういうと怜央の周囲も観察し始めた。

こうなったらもう、天井の痕に気付かれるのは時間の問題で、結局すぐばれることとなった。



◆◇◆



 事務所に連れてかれた2人は椅子に座らされ事情を聴取された。

聞けばその赤毛店員はここの店長でクレアというらしい。


「あのーっ、今回のことは本当にすみませんでした! 彼女にはよく言って聞かせるので勘弁してやってください!」


怜央は無理やりテミスの頭を下げさせると、それが気に食わなかったのか、テミスはわざと投げやりに言った。


「さーせん」


と。

 クレアも以前、テミスの相手をしたからか、慣れもあってそこまでは怒らなかった。


「ふーん。あっそう。そういうねぇ……。そっちがその気ならいいわよ、別に? 出禁にしますから」

「いやいやいやクレアさん! そこをなんとか! お願いします、許してやってください!」

「さーせーん」


 相変わらずテミスは態度を曲げない。

それにはクレアも怒りを通り越して呆れていた。


 しかし、先程からの怜央の誠意ある謝罪のお陰もあってついに、かつ突然に、チャンスが訪れる。

それは怜央が、「お願いします! 何でもしますから!」と言った時である。


 クレアはあることを思いついて、その言葉に食いついた。


「ん? 今なんでもするっていった?」

「えっ? あ、はい!」

「ふーん。『何でも』ねぇ……」


 クレアは虚空を見上げながら、しばらく何かを考えていた。

そして結論が出たのか、怜央らにある提案を持ちかける。


「今回の迷惑料と修理代は高くつくけど、あるお願いを聞いてくれるなら帳消しにしてあげてもいいわ。それに、出禁にもしない」

「!! 本当ですか!?」

「ええ、約束するわ」

「してそのお願いとは?」


 テミスは何故か、打って変わって食い気味に尋ねた。


「貴方達学園の生徒でしょ? 実は――簡単な依頼を頼みたいの」

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