17.来客

 ドロシーの見送りは建物の外までと思っていた怜央だが、以外にも寮まで着いてきた。

丁度寮の方向に用があったらしい。


「それじゃ怜央君。依頼だけでなく勉強も頑張るのだよ。それから――」


ドロシーは寮の2階の方を一瞥して、怜央に言った。


「この後も頑張りなさい」


 その意味を理解しかねた怜央だったが、全般的な励ましの言葉と受け取った。


「はい、ありがとうございます」

「それから最後に1つ、選ぶなら魔法学部か異能学部にしなさい」

「えっ――」


 怜央はさきほどヨハネスの勧誘に釘を刺した件を想起した。

そして思わず笑ってしまう怜央。


「先生さっき自分から勧誘ダメって言ってたじゃないですか」


そしたら思いの外マジな顔をして、


「勧誘ではない。忠告だ」


と言われた。

 怜央が再び驚きの声を上げるとドロシーの携帯が鳴る。

怜央に断りを入れ通話を始めたドロシーは反対を向く。


「――ああ。ああ……そうか、わかった。すぐ行く」


 そして携帯を仕舞ったドロシーは怜央に向かって早々に別れを告げるとそそくさとどこかへ行ってしまった。

1人残された怜央の頭の中では先程のことが引っかかる。


(忠告……?忠告って……)


 しかし、科学学部が駄目な理由が思いつかず、首をかしげながら寮の中へと入った。


2階への階段を登りきると、自分の部屋の前でアワアワしているリヴィアがいた。

その様子を不思議に思いながらも怜央は声をかける。


「リヴィアさんどうしたの?」


 怜央の存在に気がついたリヴィアは表情が一瞬、ぱあっと明るくなった。


「夏目様! ああ、良かったです」


 早口且つ急ぎ足で近寄るリヴィア。

いつもと様子が違うリヴィアにただならぬものを感じる怜央。


「実は見知らぬ方が、夏目様はいるかと部屋に押し入ってきましてその、今も中に……」

「どんな人だったの?」

「黒髪の人間で白いスーツを来た強面の男性です……」

「……いや、知らない人だと思う」

「っ! 申し訳ありません……部屋の外で待つようお伝えしたのですが、力及ばず……」

「ああ、気にしないで。大丈夫だから」

「しかしっ……!」

「いいからいいから、とりあえずその人が誰か確認してみよ」

「……はい」


リヴィアは負い目を感じているのか非常にしおらしい。

怜央が自分の部屋のドアを開けると、中には水谷が、コバートのベッドに居座っていた。


「おー、遅かったやないですかい。坊ちゃん」

「坊ちゃん!?」


 リヴィアは水谷が怖いのか、怜央の後ろに隠れた。

水谷は徐に立ち上がって怜央に近寄ると、一言断りを入れて怜央の右手を持ち上げた。


「ちょいと失礼しますよ」

「え、ああ、はい……」


 部屋で待ってたのがまさかの水谷で怜央は驚いた。

先程のオリエンテーション後、まっさきにここに来てたのではと、考えがぎる怜央。

 水谷は怜央の指輪をじっと見てひとつの結論を導いた。


「……やはりこれは本物。坊ちゃん、失礼しました」


 水谷は深々と頭を下げて謝罪する。


「や、別に大丈夫ですよ! それよりどうしたんですか、こんな所に来るなんて」

「失礼な話で恐縮ですが……坊ちゃんが本物か確かめに来よったんです」

「偽物なんて逆にあるんですか?」

「……立ち話もなんですからどうぞこちらに」


 水谷は見た目とは裏腹に、椅子を引いて座るよう促すなど丁寧な対応をする。

怜央は恐々としながらも促されるまま椅子に着く。


 すると水谷も正面の椅子に座って語り始めた。


「少し長くなりますが……ワシは夏目学長を親の様に慕っとりました。ですがご存知のように夏目学長は失踪してしまった。そんな時タイミング良く学長の孫を名乗る人物が来ましたので、正直疑うとったんですわ。偽物やないかと。それに夏目学長に孫がおられるなんて、誰も知らなかったことです。ですから、夏目学長の孫を騙る不届き者やったら沈めないかん思いまして、今日参った次第です……!」

(沈っ!? こわっ!どこに!?)

「しかし、その指輪を見て確信しました。以前夏目学長が付けてらした指輪と同じものです。あれはそこら辺で手に入るような代物ではありませんから……まず間違いないでしょうな」

「この指輪が……。これは異世界に来る前に父から渡された物なんですけど……」

「若からですか!」


 どうやら水谷は、龍雪のことは知っている様子だった。


「それはそれは……若はお元気でしたか?」

「ん、若って龍雪さんのことですよね? それならええ。相変わらず」

「そうですか、それはよかった……」


 サングラス越しでよくは分からないものの、水谷は遠い目をしていた。


「若とは昔、一緒にこの学園に通う仲でしてね……」


 ここからの水谷は長かった。

龍雪にまつわる幾つもの武勇伝を聞かされ、終いには聞きたくもない、女関係での失敗談まで話していた。

 それをまるで自分の事のように、楽しそうに語る水谷を見て、怜央もさえぎることが出来なかったのだ。


 気付けば日も傾き、仕事を済ませたリヴィアも帰っていた。

そして、出掛けていたコバート・アリータ・テミスのメンバーも帰ってきた。


「うぃーす。怜央、お土産だぞぉー……って、あれ?」

「何でオッサンがこの部屋にいるの?」


 テミスは相手も選ばずナチュラルに喧嘩を売る。


「……少し長居し過ぎましたな。それでは坊ちゃん。ワシはこれでお暇しますが、忘れんといて下さい。坊ちゃんが1番向いているのは異能学部だと。それから何か困った事があればなんでも言ってください。力になりますから。――では」


 水谷は深く一礼すると、部屋を出ていった。


「おいおい、あの鬼の水谷がぺこぺこするなんて怜央、お前一体どんな魔法使ったんだよ?」

「いや別に……色々あってな」

「ああ?気になるじゃねぇか、教えろい!」


 その後暫く粘られた怜央は経緯を話した。



◇◆◇



「じゃあ怜央はここの、学長の孫だったんかよ?」

「ああ、今は不在だけどな」

「ふーん。なんの取り柄もないと思ってたけどそんな繋がりがね……意外だわ」

「あら、私はわかってたわよ。名前が一緒だもの」

「まあ別に、孫だからって何かあるわけでもないけどな」

「またまた~、色々幅効かせられるんじゃねぇのか? トップの孫ってある意味権力の塊じゃねえか!」

「仮にコネ使えたとしても使う気はねぇよ」

「何でだよ、使えるもんは使っときゃいいじゃねえか」

「言いたいことはわかるけど……。だけど俺は、やっぱりいいよ。そういうの好きじゃないんだ」

「ふーん? 勿体ねぇー」


 その日は他愛もない話をしたあと、これからの授業プランを練って1日を終えた。



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