05.お客様は神様

「それにしてもやっぱすごいなー。色んな人がいるのも凄いし街並みも綺麗だ。建物だけ見たら外国にでも旅行した気分になれるね」


 怜央とコバートは肩を並べて歩いていた。


「そうさなぁー。俺もこっちに来たばかりン時は感動したもんだぜ。ま、1週間もいりゃ慣れっちまうがな。――んで、どっか行きたいとこはあるか? 気になる場所でもいいぜ」

「んー。やっぱ異世界といえば剣……だよな。別に、扱える訳じゃないけどちょっと見てみたいってのはあるかな」

「んじゃあ武器屋に行ってみるか。先に言っとくがクレイユ王国ここの武器屋はすごいぜ?」


 コバートはまるで自分の事のように嬉しそうにしていた。


「へー。それは品揃えとか質が良いってことか?」

「それもある。だが俺が驚いたのはそんなことじゃねーんだ」

「……?」


 怜央は他に凄い要素などあるのだろうかと考えていると、案外近い場所に武器屋があったらしく、コバートは到着を告げた。


「着いたぜ! 入って見りゃ俺の言ってたことがすぐ分かる! ほら、さっささっさ!」


 その武器屋はこじんまりとした普通の建物だった。

怜央達の宿屋と同じくらいの大きさで外観もさほど変わらない。

唯一その建物が武器屋であると示すのは宿屋と同様、金槌と剣が描かれた看板があったからだ。

それには『クレア武器ショップ』と書いてある。

 コバートは怜央の背中をぺしぺしと叩き、早く入ってみろと促してくる。


「わかったわかった。そう急かせるなって」


 コバートを宥めるように言うと、怜央は入口の扉に手を掛ける。

そして押し上げると同時に、俄には信じられないような光景が目に入ってきた。


「……っ! 確かにこりゃすげぇな……! 一体、どうなってんだ?」


 その武器屋は異常な程広かった。

木とモルタルで造られたような外観の建物だったのに対し、いざ中へと入ってみたら近代のデパート顔負けの清潔感溢れる建物だったのだ。

外観と内装は不一致であり別空間に入り込んだような錯覚から、未知のテクノロジーか何らかの魔法が用いられているのだと直感した。


「な? すげーだろ? 取り扱ってる武器の種類も半端じゃない。俺が今まで見たことも聞いたことも無いような武器が山ほどあったんだ」


 あたりを見回す怜央にも、確かに見たことの無い武器で溢れていた。

切っ先に返しの付いた刀や冷気を放つモーニングスター、帯電するバグナクに純金の弓矢。

それらが実用的かは知らないが、バリエーションはとにかく豊富だった。

入口から見える範囲だけでも物珍しい武器で溢れているのだから、奥まで行けばまだまだ未知の武器もあるのだろう。


「さすが異世界だな。ファンタジーな武器で溢れてる」


 適当な武器の前まで行くと値札を見てコバートに尋ねた。


「なあ、この短剣は8万ペグって書いてあるけどどんくらい高いんだ?」


 怜央はこの世界の物価を知らなかった。

初日ということもあり現地の相場には触れていないのだから、当然と言えば当然だ。

異世界における先輩に助言を請うのも無理はない。


「んー。俺もそこまで詳しいわけじゃないが……強いていえば、そこらで買えるパンが100ペグってとこだな」


 怜央は顎に手を当て物価について考える。



「(なるほど……。パンが100ペグなら概ね100円計算でも良さそうだな。幸いなことに、日本とここの物価は近いのかもしれない。ただ……)ーーあれだな。どちらにせよこの短剣が8万ペグのお買い得価格なのか、それとも8万ペグのぼったくり価格なのか、武器の見る目がない自分としては判断がつけられそうにない。残念なことにね」


 怜央は肩を竦めて困ったとアピールすると、その会話を聞いていた赤毛の女性が詰め寄ってきた。


「ちょっとあなた、うちは適正価格で有名な武器ショップなのよ? ぼったくり価格だなんて心外だわ!」


 怜央はキスしそうなぐらい近づいた彼女から、仰け反りながら距離をとると、申し訳なさそうに謝った。


「すみません。悪気があった訳じゃないんです」

「お客様は歓迎するけど冷やかしなら帰ってよね!」


 ぷりぷりと怒る彼女は踵を返して業務に戻って行った。

コバートは怜央を軽く小突き、ニヤニヤとしている。


「怒られてやんのー」

「うるせ」


 怜央は手を払ってコバートに茶化すなと伝える。


「そんじゃ、せっかくだし俺もちょっと見たい物見てくるわ」

「おう、俺も適当にうろついてるよ」


 2人は別々に店内を歩き回った。



◇◆◇



 それから少しして、怜央は店の一角に銃火器を取り扱っているところを見つけた。


(おお、銃もあるのかこの店は……)


 怜央は前世の雑誌やネットで見たような銃が多くあることに感心していた。

ラッパ銃や火縄銃などの旧型から、近代戦で使われるような新型、そして今まで見たこともない明らかにハイテクそうな未来風な銃も取り揃えていた。

子供の時、縁日で取ったエアガンなどで遊んでいた怜央にとって興味が湧かない訳無かった。

 しばらく眺めていると先程の赤毛店員が横を通るのが目に入り、自然と目で追いかけた怜央。

その赤毛店員は、とある客へ向かって一直線に歩いていき、何らかの事柄で注意し始めた。


「ちょっと、この銃は非売品よ! ちゃんと触らないで下さいって書いてあるでしょ!」


 注意されたのはセミロング程の桃色の髪をした女性。

その服は魔女っぽい紫色の服で怜央は既視感を覚えた。

それは南門で会ったドロシーの服に、ところどころ特徴が似ていたのである。

 その女性は手に取っていた銃を戻すと店員に言った。


「あら、少しくらい良いじゃない。お客様はなのよ?」


 悪びれもせず、尊大なことを言う女性に怜央は思った。


(どこにでもいるものだな。勘違いした迷惑な神様は)


 怜央は呆れていると、不意に後ろから来たコバートに肩を叩かれた。


「おう、もういいぜ。結局掘り出し物はなかったわ」

「ん、そうか」

「怜央は? まだ見てくか?」

「いや、もういいよ」

「じゃあ次はどこに行くか。――特に無いなら学校でもいいか?」

「ああ、いいね」


 怜央は赤毛店員と迷惑な客とのやりとりを後目に、その店を後にした。






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