ー 5 ー【試し読み】「このあと滅茶苦茶ラブコメした」
「ところでお前、名前は?」
そういえばまだ聞いていなかったな。危うく名前も知らない奴とファーストキスする所だったのか……
「あ、申し遅れました。私はピュアリィといいます!」
ピュアリィ、か。
「かわいいですよね。地上で活動するのに名前があった方がいい、って神様が付けてくれたんです」
「たしかにかわいらしい響きだな。何か由来はあるのか?」
「あ、私も気になったんで、神様に聞いたんです。そしたらここに書いてくれました」
ピュアリィは嬉しそうにポケットから紙片を取り出した。そこに記されていたのは――《ピュアリィの由来 pure+silly》
「……お前これ、意味分かってるのか??」
「いいえ。ピュアが純粋っていうのは分かりますけど、後半はちょっと。でもなんか、色々想像した方が楽しそうなんで、調べない事にしました」
silly の意味って『お馬鹿』なんですけど……純粋なバカって、神様何気にひでえな
……まあ当たってるけども。
まあ知らぬが仏だ。本人には言わないでおいてやろう。
「ところでバカ」
「なんですかいきなり!」
しまった。つい本音と真実が口をついて出てしまった。
「ああ、悪い悪い。ピュアリィだったよな。せっかく名前を聞いたばっかりでなんだが、俺はそろそろ帰るぞ」
「へ? ちょっと待ってください。『ラブコメ魔法』はどうするんですか?」
「どうするも何も、俺には何の関係もない話だろ」
「ふふん、そうは問屋が卸しませんよ。私はさっき言いましたよね? とある要因によっ
て『魔力』が歪んでしまっているって。その要因というのはあなたですから」
「は?」
「そもそも、歪む以前に、『魔力』を引き寄せているのもあなたです」
「ちょ、ちょっと待て。話が全然見えないぞ。そもそも『魔力』なんてものがどうしてこの世界に存在するんだ?」
「ああ、すみません。まだそこをご説明していませんでしたね。『魔力』というのはその名の通り、『魔法』の源となるエネルギーの事です。この『魔力』は天界の大気中に存在する成分であり、その濃度は常に一定の範囲を保っていて、大きく変動する事はありませんでした。ですが先日『大規模魔力災害』が発生した事で、状況が変わります」
「魔力災害?」
「ええ。原因不明の爆発により、膨大な量の『魔力』が発生。天界の許容量を超えたそれは、別世界――この人間界に漏れ出してしまいました。残念ながらこれはこの世界でいう天災のようなものであり、神族の力を以てしても完璧に抑える事はできません」
「その漏れ出た『魔力』のせいで、さっきみたいな『魔法』がこの世界でも発動したって訳か……でもどうして俺が関係してくるんだ? 特別何かした覚えはないぞ」
「はい、それは大我さんの意思によるものではありません。この世界では、金縛りにあったり、この世のものではない何かが見えてしまう体質の人の事を『霊感が強い』と表現しますよね? そういった理外の現象を引き寄せてしまう体質の人間はたしかに存在するんです。そして、それと似たような事が『魔力』にも言えます」
「俺が、魔力を引き寄せる体質だっていうのか?」
「ええ、それも特大級です。現在、天界から漏れ出したほぼ全ての『魔力』が、大我さんを中心として、この街を覆うようにして漂っています」
魔力を引きつける体質だと? そんなはた迷惑なもんがどうして俺に……
「そしてもう一つ、『魔法』が『ラブコメ魔法』に変質してしまった原因もあなたにあるようなんです。それに関してはまだ天界側でも調査中という事なんですが」
「……………………………いや、それは多分、ごくシンプルな理由だ」
「え? 何か心当たりがあるんですか?」
「俺、ラブコメめっちゃ好き」
「は?」
「だから、俺はラブコメが好きで、マンガとかアニメでみるような展開を自分で経験するのが夢だったんだよ」
「え? じゃあ大我さんの性癖のせいで、『魔法』が歪んじゃったって事ですか」
「……性癖言うな」
「ちょ、ちょっと待ってください。じゃあ私がパンチラしちゃったのも大我さんのせいじゃないですか!」
「いや、お前のはパンモロだったけどな」
「やっぱりガッツリ見てたんじゃないですか! 大我さんのエロガッパ!」
「もう謝ったし、不可抗力だろうが。誰も好き好んでお子ちゃまみたいなクマさんパンツなんで見たくないっての」
「ネコちゃんです! クマさんは昨日はいてた――って一体何を言わせるんですか!」
「だからお前が勝手に言ってるだけだろうが!」
……バカだ。
面倒くさいから話題の矛先を変えよう。
「じゃあ、さっきの手の中にパンツが出現した件も『ラブコメ魔法』だったって訳だな。あれも俺が引き起こしてたって事なのか?」
まあ話題変えるって言ってもこっちもパンツの話だが……
「あ、それはちょっと違います。大我さんの体質はあくまで『魔力』を引き寄せる体質。大気中に充満したそれを体内に取り込んで『魔法』として発動させるのはまた別の体質――というか才能になります。そしてその才能を持っているのは『ラブコメ魔法』が発動した際に、大我さんの近くにいた人物」
「って事は……シフォンか」
「ええ、その方の可能性が非常に高いです」
俺が『魔力』を引き寄せる体質で、シフォンが『魔法』を発動させる体質……なんだか厄介な事になってきたな……
「あ、でもそれだったら、シフォンに事情を話して『ラブコメ魔法』を発動させないようにすればいいんじゃないのか」
「残念ながらそれは難しいです。先程才能と言いましたが、それはただ単に、発動させる事ができる、という意味合いであり、本来『魔力』が存在しない世界の住人である人間には、その制御は出来ません」
「つまりは、勝手に発動しちまうって事か?」
「ええ、そして一度発動させてしまったら、解除する事もできません。天使の端くれの私でも、必死にやってなんとか解除できるという感じでしたから」
「マジかよ……あ、でもさっきのシフォンのは勝手に引っ込んだぞ?」
「あれは本格的な発動ではなく、フライングみたいなものです。本チャンで発動してしまったら、自動で引っ込むなんて事はありえません」
「おいおい、だったらどうしようもないじゃんか」
「ええ、何しろ人間界に『魔力』が漏れ出てしまうなんて、天界でも初の事態ですから。今、偉い人達が大急ぎで対策を練っています。そのシフォンさんという方の『魔力』の感じからして、少なくとも明日の昼くらいまでは本チャン発動せずに保つはずです。それまでにはなにがしかの処置方法を送る、とさっき電話で神様が」
「そっか……じゃあ今すぐシフォンに被害が及ぶって事はないんだな」
「ええ、それは大丈夫ですから安心してください――という事で、さあ帰りましょう」
「ん? 天界にか?」
「へ? 何言ってるんですか。大我さんの家に決まってるじゃないですか」
「は? なんで?」
「私は今日から大我さんの家に住むからです」
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