第26話 炎の想い 其ノ二

〝彼〟は私の、初めての〝幼馴染ひと〟になった。


 水牢を、〝里〟を出て以来、〝彼〟は私にたくさんのものを与えてくれた。


 ……いや、それは普通の人なら普通に得ていたものだったのだろう。


 しかし水牢以外の世界を知らなかった私には、どれもが目新しいものだった。

 からうつわに水を注ぐように、私は様々なものを吸収していった。


 特に日本の『時代劇』と呼ばれる映画やドラマは、私の琴線に触れた。

 水牢から出た時に見た〝里〟に、雰囲気が似ていたからかもしれない。

 同時に水牢で私と共にあった棒が、白木のさやに納められた日本刀だと知った。


 そして習い始めた剣術は、私が手に入れた生涯で2つ目の〝目的〟となった。

 1つ目の〝目的〟は、大恩ある〝彼〟に全てをささげて尽くすこと………


 すなわち、〝彼〟への〝忠義〟だった。


 いつしか私は〝守り刀〟を名乗り、常に〝彼〟の後をついていくようになった。

 屋敷を出れば〝彼〟は頻繁ひんぱんに襲われ、刺客のことごとくを私は退しりぞけた。

〝彼〟にあだなす者を知れば、足を運んで討滅とうめつした。


 村ごと、町ごと、時には州ごと不埒者ふらちものを滅ぼした。


 躊躇ためらいは無かった。

 機械的に全てを斬り伏せ、焼き払った。

 それが〝彼〟のためだと、一片も疑わなかった。

 だから〝遠征〟から帰った私に、〝彼〟が苦笑する理由が分からなかった。

 

 ……そのころ、私の〝器〟に注がれたのは『知識』や『経験』だった。


『感情』が私の〝器〟には注がれていなかった………たった1つを除いて。


 私にも1つだけ、胸の奥をがすような熱く切ない感情があった。

 だが、それは〝忠義〟というころもに包まれ、私自身も正体を知らない感情ものだった。


 だから、〝彼〟は私の初めての〝幼馴染ひと〟になった。



 それが私の、6歳から10歳までの生涯だった………




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