1章 初めての戦闘

第10話 初めての戦い 1


ダンジョン解放から3日が経った。未だに侵入者は来ない。ちなみに今、外の時間は夜だ。ダンジョンの中は夜でも明るいから昼夜がよく分からなくなってくるな。


俺は部屋で第5階層以降の設計図を自室で作っていた。予定では第7層までを戦闘区画、残りの3層を俺達とターマイト達の居住エリアにするつもりだ。ひとまず10階層まで掘ったらターマイトの数を増やすことに専念する予定だ。今は戦力的にかなりギリギリだからな。これでもかなり頑張った方なんだかこのダンジョンの規模に対してあまりに少なすぎる。


俺が設計図を書いているとアンから通話が入った。


「リン、外を偵察していたフライターマイトがこっちに向かってくる明かりを見つけたとのことだ。グレイスから報告があった。」


ダンジョン解放から3日、最初の侵入者が現れるかもしれない。とりあえずまずはグレイスが居る部屋に集まるか。

俺は自分の部屋からグレイスの居る部屋に向かった。グレイスの部屋は同じ最下層の居住区各にあるので徒歩でもすぐに着く。




「問題の明かりはこれだ。」


アンがフライターマイトが見ている映像をモニターに映す。映像にはこちらに向かってくる明かりが森の木々の間から見えた。


「なるほど、こっちに向かって来ているな。」


でもまだダンジョンが見つかったと決まったわけじゃない。たまたま森を探索しているだけの可能性もある。今下手に手を出して逃げられればダンジョンの存在を感づかれるかもしれない。今はまだ様子見と行こう。


「どうする?偵察を出すのか?」


「いや、まだ見つかったと決まったわけじゃない。今は様子を見た方がいいだろう。」


「そうか、もしも見つかった場合はどうする?」


「その場合は生きては返さない。この世界のギルドにダンジョンの情報を伝えられたら厄介だからな。」


「そうだな。生きて返すより始末した方がダンジョンの存在が分かるまでの時間も稼げるだろう。」


とりあえず監視は継続だ。それと万が一見つかった時に備えて迎撃準備も整えておくか。多分森を抜ければこのダンジョンを視認できるだろう。もしその時点で引き返されたら厄介だな。今の内に森にターマイトを潜ませておこう。

俺はアンとグレイスと具体的な対応策を練った。


「厄介なのはこのダンジョンを見つけた時点ですぐに引き返して軍なりギルドに通報されることだ。」


「ああ、それをされるとこちらは完全に後手に回ることになるな。」


「グレイスは何て言っている?」


「群れの安全のためにも最善を尽くすべきですと言っている。」


確かにグレイスの言う通りだな。よし、見つかった時に確実に始末できるように手を打っておくか。まずは森にソルジャーターマイトを送り込もう。万が一見つかってすぐに引き返された場合は残念だが死んで貰う。ダンジョンに挑む場合も同様だ。森を抜ける前に引き返すのであれば見逃してやろう。俺だって無駄な殺生はするつもりはない。


「とりあえず監視はこのまま継続だ。それとソルジャーターマイトの一部を今から森に向かわせる。指揮は俺が執る。」


「すぐに引き返されたときの為の対策だな。」


「もしもダンジョンに挑んでくる場合はダンジョン内で始末する。死体の処理が楽だからな。」


「そうだな。ダンジョンに吸収させれば痕跡は残らない。」


「俺は別動隊の指揮を執るからダンジョン内の指揮はアンとグレイスに任せる。いいか?」


「了解した。グレイスも任せてくださいと言っている。」


「それとグレイスに伝えたいことがある。これから敵と戦闘になるかもしれない。極力犠牲は出ないように努めるが相手次第じゃグレイスの仲間を死なせることになるかもしれない。許してくれと言って許されるようなことではないがそれだけは理解してくれ。」


俺はグレイスに頭を下げた。


「安心しろ。君は仲間を無駄死にさせるようなマスターでない事は理解しているとの事だ。それに我々はモンスターである以上犠牲は付き物だと言っている。」


そうか、そう言われると救われた気分だ。だがさっきも言った通り極力犠牲は出さないように心がけるつもりだ。ターマイト達も無駄死にしたんじゃ報われないだろうしそれに貴重な戦力を失う訳にもいかない。確実に対処しつつ犠牲は最小限に留めよう。


俺達はそれぞれ準備を始めた。グレイスの部屋には椅子やテーブルなどが運び込まれ、臨時の指令室となった。俺は30匹ほどのソルジャーターマイトとターマイトを近づく侵入者に気づかれないように森に向かわせた。

それぞれの指揮は俺が外に居る伏兵部隊の指揮、アンが第2層のターマイトの指揮。グレイスが第1層のターマイトの指揮だ。




そして30分後


「リン、例の明かりの一行が森を抜けた。ダンジョンは発見されただろう。」


「了解だ。別動隊はこのままここで待機させる。」


もしこの後ダンジョンから逃げたとすれば恐らく来た道を戻ってくるだろう。極力はダンジョン内で決着をつけたいが…逃げられた場合は仕方ない。ここで始末しよう。死体はダンジョン内に運んで片づけるか。


「リン、グレイスが遊撃部隊はどこに待機させればいいかと聞いている。」


「遊撃部隊は目の役割をする。なるべく広い範囲をカバーできるようにしてくれ。」


「マスターの期待に沿えるように頑張ると言っているな。」


「ああ、まあ気負わない程度に頑張ってくれ。」




更に15分後


「冒険者がダンジョンの中に入った。これより作戦を開始する。」


「了解した。予定通り第1階層に引き入れる。」


冒険者一行がダンジョンの中に入ってきた。逃げられないようにまずは第1階層まで引き入れる。入り口付近に居たターマイト達は入り口の横に掘った穴に潜ませている。表面には土をかぶせてあるからモンスターが居ると分かっていないと存在に気付くことは無いだろう。


ちなみに冒険者の視界にモンスターが映らないようにモンスターを配置しているので上空から監視しているフライターマイトの視界に映らなくなった時点で冒険者達の反応は消失した。ここから先はグレイスの指揮する部隊が冒険者達を見つけない限り反応が復活することは無い。


さて、どこで反応が復活するかな。なるべく主力に近い場所で反応が復活してくれるとこっちとしては嬉しいんだが…。


数分してマップに生体反応が現れた。グレイスの遊撃部隊が冒険者の一行を見つけたようだ。マップに表示された点は2つ。入って来た時は4つだった。どうやら2手に分かれているようだな。ひとまず視界共有で見てみるか。


俺はアンに頼んでソルジャーターマイトの視界をモニターに映した。俺のモニターは地図を表示しているから視界共有は使えない。

さてさて…うーん。若干ぼやけているな。どうやら既に気づかれているみたいだ。だが向かってくる様子はないな。様子見という所か…。


「リン、グレイスが近くにいる別動隊を後ろから回らせますかと聞いている。」


そうだな。様子見をしている所から考えるとそこまで強いとは思えないな。腕に自信があればFランクのモンスターなんて簡単に倒せるだろうから様子見なんてしないだろう。向こうが立ち止まっている間に挟み撃ちにしよう。

近くに居る部隊は…すぐ近くに1部隊と数分以内にたどり着ける場所に2部隊居るな。4部隊でかかればさすがに倒せるだろう。


「そうしてくれ。ただ向こうがこのまま様子見を続けているなら完全に準備が整うまで手は出さない。」


「リン、了解したとのことだ。」


俺はグレイスに近くにいる部隊を背後に回らせるように命じた。まだ背後に回られていることには気づいていないはずだ。このまま様子見を続けるのならば残り2部隊の到着を待つ。もしも向かってきたら先行している1部隊が到着するまでは防戦に徹させるつもりだ。


さて、どう動いて来るかな…


こっちの準備が整うまで待ってほしかったが…向かってきたか…


こっちの部隊編成はソルジャーターマイトが2体、ターマイトが6体だ。Lvはどっちも10台だ。この部隊だけじゃ良くて互角、勝つのは難しいだろう。

モニターに映っている映像がぼやけている為、はっきりとは分からないが旗色が悪いようだ。ソルジャーターマイト2匹で襲わせている冒険者の方はこちらが若干有利にみえるが、ターマイト6匹で襲わせている方は旗色が悪い。既に2匹が倒されている。このままではいずれ残りの4匹も倒されるだろう。


増援は…あと1分弱で1部隊が到着、5分以内に2部隊が到着か…こっちの犠牲はターマイトが2体。

ターマイトが全滅するのが先か…増援部隊が到着するのが先か…かなり際どいところだな。間に合わなかった場合はソルジャーターマイトの犠牲も覚悟しなければならないな。ソルジャーターマイトがやられたら残りの部隊がすべて配置に着くまでは動けない…増援も編成は同じだから1部隊では返り討ちだろう。


「リン、グレイスが交戦中の部隊を一旦引かせるかと聞いている。」


「いや、逃げても追撃を受けて損害が増えるだけだ。今は防戦に徹して増援到着まで持ちこたえるように命じてくれ」


「分かった。そう伝えよう。」


そして防戦に徹した結果、6匹居たターマイトが全滅した所で増援が到着した。グレイスはすぐに2体のソルジャーターマイトを先ほどターマイトを全滅させた冒険者にぶつけた。ターマイトでは時間稼ぎが精一杯だったが今度は確実にこちらが押し始めている。


こっちの2人は今向かっている増援の2部隊が到着すれば確実に倒せるだろう。もう2人はまだ見つけていないが、第2階層へ通じる道は封鎖しているし入り口の上空を飛んでいるフライターマイトの視界にも映っていないからこの階層に居る事は確かだな。


そして3分程でさらなる増援が到着し、形勢はこちらが一気に有利になった。2人は逃げようとしたが、既に遅く、そのままソルジャーターマイトの集団に襲われて命を落とした。


生体反応が2つ消えたな。これで残りは2人か。幸い手強い相手ではなさそうだ。ターマイトじゃ時間稼ぎが精一杯だがソルジャーターマイトなら何体かで攻撃すれば倒す事が出来る。それとターマイトはあまり強くないみたいだから運用方法を変えないとな。


残りは2人。ダンジョンがこの世界の人間に見つからないようにするためにも残念だが犠牲になってもらおう。

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