第5話 探せ女神の雫! ①

「「「「かんぱーい!」」」」

 クォートを除く四人の景気の良い声が、食堂に木霊こだまする。

 クォートは小さく「乾杯」と手に持ったグラスを掲げる。

 コップ二名とグラスが一名、ジョッキが二名。各々おのおの思い思いの飲み物を掲げ、パーティでの初任務成功を祝して乾杯する。

 ところはノーヴェの泊まっている安宿の一階、その食堂を貸し切っての宴会である。


 一行がローレンツィアへ戻るや否や、向かった先はお風呂屋だ。

 返り血や砂埃等で汚れた体を洗うのだ。

 取り返した品や捕まえた盗賊達は、街の近くまで迎えに出てきた騎士団の面々が運んでいった。

 後自分達がする事と言ったら、報酬を受け取りに行く事だけだ。そんなものは後でも良い。この汚れた体や服を早く何とかしたい、と言うのが女性陣の本音だった。

 ヴェンティは「そんなもん後でいいだろ」と言ったせいで、フィーアは勿論ティオにもボコられていた。

 賢明にも黙っていたクォートと、自分も風呂に行きたいと思っていたノーヴェは、地面でボロ雑巾の様になっているヴェンティを放り四人で風呂屋へ。勿論中は男女別である。

 体を綺麗に洗い流し、服も着替えて次に向かうは報酬の受取だ。

 組合の受付に行くと、依頼達成の報が伝えられて居た様で、登録証を提示するだけで成功報酬が支払われる事になった。参加費と成功報酬で十万ミツレ、オークション品奪還百万ミツレ、団長の討伐百万ミツレの計二百十万ミツレである。

 額が額なので現金ではなく、証書での支払いだった。

 この証書を国内の銀行へ持って行けば現金に換えてくれるそうだ。失くさない様にせねば。

 持ち歩くのは無用心なので、即銀行へ。ベテラン三人は現金化せず、証書のまま銀行へ預けていた。ノーヴェとティオの新人組は手持ちが余り多くないため現金化。そのまま口座を作り入金し、必要な分だけ受け取る事にした。

 一通りやる事を済ませれば、次にやる事と言えば──宴だ!


 どこに泊まってるんだという話の流れから、宴会場はノーヴェの泊まっている宿の食堂に決定。

 そして現在に至る。

 ノーヴェとティオは果実酒を。クォートはワイン。ヴェンティとフィーアは並々と注がれたビールをグビグビと飲んでいる。

 三人が一口やっている間に、二人は既に一杯片付けて二杯目を注文していた。

「うーむ……やはり男はビールに行くべきか……」

 豪快にビールを飲み干すヴェンティの姿が、ノーヴェには男らしく見えたようで自分もビールを頼もうかと悩んでいると、

「ダメダメ。あれ、苦いんだから。ホント」

 ティオが止めておけと忠告する。

「クォートはワイン飲んでるわけだし、ビール飲めば大人の男って訳じゃないよ」

「好きな物を好きな様に飲めば良いのですよ。仲間内で失敗しておくのも良い経験です」

 グラスを傾けくいっと中身を飲み干すと、麦の蒸留酒をロックで注文する。

 ノーヴェとティオは知らない事だが、一行の中で一番酒に強いのがこのクォートである。

 次々と運ばれてくる料理の数々。

 牛、豚、鶏の焼き物、揚げ物、焼いた魚介に衣を着けて揚げた種々の野菜。

 テーブルに運ばれて来るや、ガツガツグビグビ。

 若いノーヴェとティオは良く食べ良く飲んだ。しかしそれ以上に食べ、飲んだのは言うまでもないだろう、ヴェンティとフィーアだ。

 二人は競い合うようにして、食っては飲んでを繰り返している。

 クォートはと言うと、ちゃっかり自分の分を別皿にキープしてマイペースで食べている。そしてパカパカと度数のキツイ酒を飲んでいた。

 摂取しているアルコールの量で言えば、先の二人以上である。

「おうおう! 若い二人はもっと食ってもっと飲め飲め! どうせここは宿だ! 潰れても安心安心」

「そうそう! 任務の後の打ち上げは盛大にやらないとねぇ! 若いモンが遠慮なんかしてちゃぁ行けねーよ!」

 酒が回って来ているのだろう、普段のじゃれ合いが嘘の様に意気投合している。

「おうおう! そこの馬鹿共! 若ぇもんに無理に飲まそうとすんじゃねぇよ!」

 宿屋の大将からお叱りを受けてシュンとする二人に、思わず笑ってしまう二人。

 どうやらヴェンティ達は顔馴染みの様だ。

 たらふく美味しい食事を摂り、酒も進んだところでそろそろお開きかと思ったら、そんな事もなく。

「今回の報酬で取り敢えず、ノーヴェの装備を整えないとな」

「ステータス上昇系とMP上昇系の装備が必要だな」

 と急に真面目な話を始める。

「レベル制限の心配だけはないからね。金に糸目を付けなきゃあ結構良いモン揃えられんだろ」

「丁度バザールもある訳だし……って、その為に来たんだったな」

「ええ。そうですそうです」

「取り返したオークション品の中に、良さそうなの幾つかあったよー」

 とちゃっかり品定めもしていたティオが言う。

「おお! そりゃいいな! オークションが開催されたら俺が競り落としておこう」

「え? ヴェンティが?」

 さらっと失礼な事を言うティオに、

「馬鹿にしすぎだろ……。むしろオークションに参加した事ないお前らが行く方が心配だわ。まあ任せておけって」

 大船に乗ったつもりで任せておけとヴェンティは自信たっぷりに告げる。

「はっ! デカイだけの泥舟じゃなけりゃいいけどな!」

 口ほどには心配してなさそうな感じでフィーアがチャチャを入れる。

 仲が良いんだか悪いんだか、フィーアとヴェンティの遣り取りに苦笑いのノーヴェ。

「じゃあ、そっちはお任せします。オレはティオと市の方を見て回ってみます」

「それだ! ノーヴェ!」

「? どれです?」

「敬語! 禁止!」

「仮にもパーティーリーダーな訳ですしね。歳や経験の差は気になるでしょうが、普通に喋る様にしましょう」

「おう! そうだそうだ! こんな奴らに敬語なんて必要ねぇぞ」

 ヴェンティの提案にクォートとフィーアが賛同する。フィーアのはちょっと違う気もするが。

「あなたはもう少し年長者を敬っても良いと思いますが」

 さして気にした様子もなくそんな事を言うクォート。

「クォートの旦那には一目も二目も置いてるさ」

「どうやって自分の客にしようかと言う算段をしているだけでしょう」

「わかってんじゃねーか」

 たまにはうちの店に金を落として行けと、フィーアはクォートを誘うが、研究で忙しいといつもの様に軽く受け流す。

 それもいつもの事、フィーアは無理には誘わず話題を戻す。

「それじゃあワタシは、店の達や常連客を当ってみるとするよ」

「私は研究所の倉庫でも漁ってみましょう。色々と使える物があったはずです」

「ありがとうござ……ありがとう」

 ございますと言い掛けて、慌てて訂正するノーヴェ。

「そうそう。その調子だ」

「徐々に慣れていけば良い」

 ヴェンティとクォートが慣れない様子のノーヴェを気遣う。

「それじゃあお次は俺らのステ公開と行こうじゃないか!」

「そうだな」

「じゃあ、あたしからー!」

 と言って、ノーヴェが止める間も無くステータスをオープンにする。


 ティオ レベル:二四

 ちから:二八 すばやさ:五六 たいりょく:三一 かしこさ:二七  きようさ:四一 うん:六三

 スキル:クロススラッシュ 影縛り 影渡り 変り身 幻影

 MP:四二


「あっ! レベルが二も上がってる!」

 結構な数の高レベル盗賊を一人で倒しただけあって、一気にレベルが上がったようだ。

 それを見て素直に「やった!」と喜ぶティオ。

「おおー! 凄いなティオ! ……じゃなくって! 別に見せなくていいから!」

「仲間のステータスを見ておいて、自分のを見せない選択肢は、俺達にはねぇんだよ」

「そうそう!」

「それじゃあ次はワタシが見せようかねぇ」

 

 フィーア レベル:三八

 ちから:一〇五 すばやさ:四八 たいりょく:八五 かしこさ:五七 きようさ:六一 うん:三九

 スキル:兜割り 鎧砕き トマホーク 大地断 竜巻

 MP:四〇


「ワタシは変化なしだね」

「ちからが三桁行ってるー! すごいすごい!」

「だからあんなデカイ斧二つも持てるのか」

 フィーアのステータスに素直に驚くノーヴェとティオに機嫌を良くするフィーア。

「そうだろそうだろ。百を超えると、二桁台の時とは比べ物にならないほどのボーナスがあるぞ」

 フィーアの言う通り、それぞれのステータスが十を超える毎に数値には表れないボーナス上昇があるとされている。その上昇量が百の時はかなり大きいようだ。

「では次は私が……」

 とクォートが出そうとするのを、ヴェンティが止める。

「ばっか! お前は最後だ最後! お前の後になんか見せられるか」

 よっぽどクォートは凄いのだろう。

 実際ツヴェルフとの戦闘でも、ほぼ一人で圧倒していたと言っても過言ではなかった。

「と言う訳で、次は俺だぜ! どやあ!」

 

 ツヴェルフ レベル:三二

 ちから:六九 すばやさ:五三 たいりょく:五五 かしこさ:三三 きようさ:五一 うん:三二

 スキル:強斬 二連斬 飛燕斬 一閃 闘刃

 MP:五〇


「何て言うか、特徴がないね!」

「うぐっ!」

 ティオの悪気のない一言に、いたく傷つくツヴェルフ。

「オールマイティで良いんじゃないかな……」

 咄嗟にフォローを入れるノーヴェに、「こいつのは、器用貧乏ってヤツさ」とフィーアの訂正が入る。

「分かってくれるのはノーヴェだけか……」

「あははは……」

「実際、相性が悪い相手がそう居ないので私は助かっています」

「流石相棒! 俺もお前の魔法にはいつも世話になってるぜ」

「あなたに死なれて新しい相棒を探すのも面倒ですからね。さて……やっと私の番ですね」


 クォート レベル:四〇

 ちから:四一 すばやさ:五三 たいりょく:四一 かしこさ:一二一 きようさ:七二 うん:四〇

 スキル:地水火風光闇下位魔法 地水火風上位魔法 火風高位魔法 下位・上位回復魔法 補助魔法 防御魔法 妨害魔法 操作魔法 探索魔法

 MP:二五〇


「流石にレベル五〇台を一人倒した程度ではレベルは上がりませんね」

 しれっとトンでも発言をするクォート。

「スキルの所、他の人と違ってスキル名じゃないのか。魔法はそうなのか?」

 ノーヴェはふと疑問に思ったことをクォートに尋ねる。

「いえ、魔法も本来はスキル名が表示されます。ただ、私の場合は独自開発のスキルが多いと言う事、そしてそもそも使える魔法の数が多いという事。おそらくこの二点の理由からでしょう、いつからかこの様に纏められていました」

「こいつの傭兵業は、合法的な開発魔法の実験ってわけだ」

「開発費用も稼げて一石二鳥と言う奴ですね。合理的でしょう?」

「クォートめっちゃ強い!」

「数字は所詮数字です。ステータスが高い方が強いかと言えば一概にそうでもありません。どんなにレベルが高くても、死ぬ時は死にます。相手がどんなに格下だとしてもね。ただし、生産職においてはその差を埋める、覆す事はほぼ不可能ですが」

 ステータスの能力値の項目は六つ。それで人間の全ての能力を数値化できる訳もなし。というのがクォートの持論である。

 とは言え、農業や工業と言った一般的な職業においては、ステータス値とスキルの有無が効率と成果に比例する。だからこそ、レベルが上がらず、そのためスキルも覚えられないノーヴェは一般職を諦め傭兵を選んだのだ。

 一通りステータスの見せ合いも終わり、明日からのノーヴェの装備探しもあるしそろそろお開きにしようかというとき──。

 慌しく食堂の扉が開かれる音に、ノーヴェ以外の四人は素早く武器に手を掛けながら扉の方へ視線を向ける。

「こちらに、クォート様はられますか!」

 駆け込んで来た騎士団員と思われる男に、ヴェンティが返事をする。

「おう! こっちにるぞー」

「はあ、はあ、はあ……。良かった……、やっと見つけました!」

「そんなに慌ててこんな時間に、何用でしょうか?」

 良くない知らせであろうと言う確信の元、クォートは騎士団員に用向きを尋ねる。

「《女神の雫》が……奪われましたっ!」

「「「っ!?」」」

「成る程。それで私の所に……。で、それは何時の事ですか?」

「ハッキリとは……。複数名で品を確認していたところ、《女神の雫》だけが見つからず……」

「また強奪された訳ではないと言う事ですね」

「はい! 今回は警備を騎士団が厳重に行っておりましたので、街に運ばれてから盗られた可能性は低いと団長は考えておいでです」

「向こうではちゃんとあったよね?」

「オレも確認した。間違いなくあったよ」

 ティオとノーヴェが、奪還品の中に《女神の雫》は確かにあったと証言する。

「盗られたのは間違いなく街までの運搬中でしょう。一番気が緩んでいましたからね。それに今重要なのは、何処で、誰が《女神の雫》を盗ったか? という事ではありません」

 クォートは仲間達に「今一番大事なのは何か分かりますか?」と視線で問いかける。

 ふいっと視線を逸らすヴェンティと、端から興味がなさそうなフィーアは無視してノーヴェに視線を向ける。

「……今、何処にあるか……かな?」

「正解です。そして、何処に向かっているかまで分かればベストですね」

 だから私を探していたのでしょう? と駆け付けた騎士団員に確認する。

「はい! クォート様は今回女神の雫以下全てのオークション品にマークの魔法を掛けておられましたので、サーチの魔法で探して戴きたくお探ししていました」

「良いでしょう。まだこの国を出ていなければ良いですが……」

 クォートは意識を集中し敢えて呪文を唱える。

「サーチ!」

 クォートの指輪がまばゆい光を放ち、クォートの魔法が発動する。

「範囲が範囲ですからね、少し時間が掛かりますよ」

 そう言うとクォートはマークの反応がないか、意識を集中させる。

 クォートの邪魔をしないよう、暫く無言の時間が過ぎる。

 捜索範囲をグングン広げていくサーチの魔法は、遂に剣の国を出て、周囲の国にまで達するが、マークの反応がない。

 そこでクォートはサーチの魔法を解除する。

 集中するため閉じていたまぶたをゆっくりと開くと、クォートが口を開くよりも先にヴェンティが尋ねる。

「で、どうだった?」

「ダメですね。反応がありません」

「えっ!? と言う事はもう……」

 それを聞いた騎士団員がサッと顔を蒼ざめさせる。

「いえ。この中原地域全てを捜索しましたが、反応がありませんでした」

「ええっ!? と言う事は……どう言う事でしょう?」

 この人良いリアクションするなーと場違いに暢気な事を考えているノーヴェ。

 悪くない反応だ、と解説魂に火が点り始めるクォート。

「つまり犯人は魔法で探知されないように、何らかの方法で探知を阻害しているのでしょう」

 おほん、と空ゼキを一つ。

「そも、犯人は何故魔法で探知される可能性があると考えたのか? 特定の人や物をピンポイントで探し当てる様な魔法は存在しないにも関わらず、ね。事実、盗賊団は魔法にうとかったのもあろうかと思いますが、魔法で探知される可能性を考えもしていませんでした。それも当然の事。ありもしない方法で見つけられると普通は考えないものです。しかし犯人はそう考えた。何故か? 目の前でそのありもしないハズの方法を見たからです。実際はそうではないのですが、犯人からすれば未知の魔法で探知したのだと思えた事でしょう」

 捕まえた盗賊団から情報を得たと嘘を吐いて貰いましたが効果は無かったようですね。一、二度外れを引いて置いた方が良かったでしょうかと反省するクォート。

「な……なるほど……」

 クォートの解説に頷きながらも、何か言いたそうな騎士団員。

「おい! クォート……!」

 薄々気付いていたヴェンティがクォートに声を掛けるが、酒が入っている所為もあってか調子に乗って来たクォートは止まらない。

「犯人があらかじめその様な魔道具を用意していたのか? 用心深い御仁ごじんであればその可能性は否定できません。何処かで調達した可能性もあるでしょう。そしてその魔道具は如何いかなるものか。外から来る探知の魔法を防ぐ効果なのか、探知に引っかかる何かを内から阻害する効果なのか、あるいは両方の効果を持った魔道具という可能性もありますね」

 そこでティオが「はいはーい!」と手を挙げる。

「外からの魔法を防ぐ魔道具だと思います!」

 と自分の意見を述べる。

 問題はそこじゃあねーよとヴェンティは思っていましたが、こうなったクォートが止まらない事は重々承知なので、早々に諦めてしまっています。

 ノーヴェも「そんな解説とかしてないで、早く何とかして見つけてあげるとか、探しに行くとかしなくていいのか?」と思っていましたが、ヴェンティが諦めたのを見て、あ……ダメなんだ、と諦めて仕舞いました。

 ちなみにフィーアはクォートの長口舌が良い子守唄になったのでしょう、寝ています。

 騎士団員もそんなクォートの仲間の様子を見て、諦めて大人しく聞くモードに入っています。

「ティオさん。どうしてそう思いましたか?」

「用意し易い、手に入れ易い魔道具ならソレしかないからです!」

「そうですね。私もティオさんと同じ考えです。《女神の雫》の何を探知しているのか分からないのに、それを阻害する効果の魔道具を用意するのは実質不可能。それに対して、魔法を防ぐ魔道具は幾らでも転がっています。勿論、お値段はそれなりにしますが、逆に言えばお金さえ用意すれば誰でも簡単に手に入れることが出来ます。足が付き難くいのもメリットですね」

 クォートはグラスを傾け口を湿らす。

「サーチの魔法で見つけられなかった理由はお分かり頂けたかと思います。では犯人は今どこに向かっているのか。街まで荷を運んでいる間、一団から離れた人物は居ませんでした。であれば、犯人が移動を開始したのは、討伐隊が街に戻り解散した後という事になります。徒歩でしょうか、馬でしょうか、馬車でしょうか。どれだと思いますか?」

 問われたティオは暫く「うーん……」と考えた結果、

「分かりません!」

 とキッパリと宣言する。

「そうです。何で移動したか、しているか、分かりません。途中で変えている可能性もあります。ここで大事なのは、何で移動していようがまだそれほど遠くには行っていないという事です。半日程度では馬をとばした所で、ローレンツィアから一番近くの関所辺りまでが精々でしょう。関所のない場所を選んだとすれば、整備されていない森林地帯を行く事になります。益々移動距離が縮まってしまいます。犯人の居場所さえ特定出来れば、捕らえる事は難しくはないでしょう」

「居場所を特定する何か良い方法が?」

 当てにしていた魔法では出来なかったが、何か別の方法があるのかと騎士団員は問う。

「一つ試してみたい所でもありますし、ここはやはりサーチの魔法で行きましょう」

 そう言うと、クォートは懐に手を差し込み何やらゴソゴソし始める。

 そのサーチの魔法が防がれたからどうしようって言っていたのじゃないのかと、疑問符を浮かべる一堂を余所目に、クォートは懐から紙とペンを取り出し、紙に魔法陣を描き始める。

 程なくして完成した魔法陣をノーヴェに手渡す。

「ノーヴェ、かしこさにエンチャントしてこれを使用してください。マナは篭めてありますから、手に持って『サーチ』と唱えるだけで大丈夫です」

 と具体的に指示を出す。

 ああ成る程と、クォートの考えが分かった一行と、反して何の違いがあるのか分からない騎士団員は疑問だらけだったが、黙って成り行きに身を任せていた。

「では魔法陣を発動させる前にひとつ。先程私のサーチの魔法は防がれました。が、魔法を防ぐ魔道具と言えども、どんな魔法も防いでくれる訳ではありません。種類と言う意味ではなく、威力という意味でね。手持ちの木の盾で大砲の弾は防げないのと同じ事です。高出力の魔法を防ぐには高出力の防御魔法が必要になります。私のサーチを防ぐのなら、私を遥かに越えるサーチの魔法を掛けてみれば良いという事です。果たしてそこまで高い防護性能を持った魔道具を用意できていますかね」

 実に楽しみですとクォートはわらう。

「では、ノーヴェお願いします」

 クォートに促され、ノーヴェは立ち上がってスキルを発動する。

「レベル>>>インテリジェンスエンチャント!」

 そう叫ぶや否や、続いて「サーチ!」と唱える。

 ステータス値一〇〇〇を超える威力で放たれたサーチの魔法は一瞬にして剣の国を駆け抜ける。

 ノーヴェの意識に直ぐ近くに多数の反応と、少し離れた位置にポツンと一つ反応があったのを見つけ「あっ……」と言い掛けた所でMPが尽き、意識が強制的に遮断される。

 ノーヴェの体がグラっと傾き倒れそうになるのを、素早くヴェンティが支え椅子に座らせ寝かせておく。

「どうやら上手く行ったようですね」

「みたいだな」

「おお!」

 良く分からないが、上手く行った様子に喜びの声を上げる騎士団員。

「結果はノーヴェの目が覚める一時間後。問題はちゃんと覚えているかどうかですね」

「じゃあノーヴェが起きるまで飯の続きと行くか」

 直ぐにでも次の行動に移れると思っていた騎士団員は、肩を落とすのだった。


 ローレンツィアから東に延びる街道。

 その街道沿いにある簡易の休憩小屋にその男は居た。ローレンツィアから関所までの中間点に当たり、行商人や旅人達が夜を越すのに良く使われていた。今日も男以外にも何組か寝泊りしている。

 男は商人にふんし、小さな一頭立ての馬車を仕立て焦らず目立たずここまで来た。

(今の所は怪しまれている様子はない。関所も正式な商人用の通行許可証がある。この国は商人の通行には寛容だからな、問題なく抜けられるだろう)

 念のため《女神の雫》を納めてある、対魔法アンチマジック加工の施してある箱は手許てもとに置いていた。

 男がそろそろ寝ようとした時、箱が一度赤くまたたく。

 それは男が箱の中に仕込んでいた、魔法に反応して光る魔道具の光だ。

 つまりこれが光ると言う事は……。

(くそっ! もう破られたかっ!)

 対魔法アンチマジックが破られ、《女神の雫》の位置を探知された事を意味する。

 男は暫く様子を窺うが、箱が光ったのはその一度だけ。

(常に場所を把握されているわけではないか。ならまだ行けるか……?)

 現在地を特定されたことで内心焦りを覚えるものの、かといってこの時刻から移動を始めては、ここまで目立たずに来た意味がなくなってしまう。

 逼迫ひっぱくした状況であれば形振り構っていられなくもなろうが、現状はまだそこまでではない。

 最悪ここで追い付かれたとしても、まだ手はある。

 男は自分が取り得る手段をかんがみ、まだ焦る状況ではないと自分を落ち着け現行の作戦を続ける事にする。

 男は明日以降の予定をシミュレートしつつ、とこくのだった。

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