第5話 裏切りの初夜(3)


「んっ…っ」



冷たい瞳が近づいてきたと思った瞬間、ラゼットの唇はリゲイドに襲われる。



「ちょ…っ…ヤッ…なんっ」



抵抗しようにも、胸から下はシーツに邪魔されて動けず、頬をつかむリゲイドの両手はラゼットが全力を出してもピクリとも動かない。酸素を奪い尽くそうと、角度を変え、深さを変え、侵入してくるリゲイドの舌にラゼットは体を硬直させていくことしか出来なかった。



「はぁ…ぁ…ッ~~~んっ」



意識が朦朧として、うまく力が入らない。



「ひっ!?」



バサッとどけられたシーツに、ラゼットの悲鳴がリゲイドと重なる唇の隙間からわずかに聞こえてくる。



「あ…ちょッ~~んっ、リゲイドさ…まッぁ」



抵抗したくてもうまく力の入らない体が恨めしい。

首、鎖骨と徐々に下がっていくリゲイドの息がくすぐったい。



「ヤッ…待っ…てッそこ…ァッ」



するすると慣れた手つきで足から腰に向かって這い上がってくるリゲイドの手に、ラゼット体がピクリと跳ねた。



「お前、随分感じやすいんだな。」


「え。なに言っ…ぁ…キャッ」



薄い布で作られた上質な寝具がはぎとられる。急に全身が外気にさらされた寒気と、突然の出来事に驚愕したラゼットの顔が石膏で固められたように固まっていく。

大きく見開かれた紫色の瞳が、はだけた体の上にまたがるように陣取る真上の王へ恐怖を伝えていた。



「なぁ?」


「ッ!?」



咄嗟に露出した胸を隠したラゼットに、冷めた紺碧の眼差しが降り注ぐ。

両手で包むように隠したはずの胸は、リゲイドの視線に見透かされるようにドキドキと激しく脈打っている。



「表の二人とはどういう関係なわけ?」


「え?」



上半身をはだけさせるリゲイドの仕草を見ることができずに視線をそらせたラゼットは、その言葉の意味を数秒考えてから、すぐに答えにたどり着いた。

表の二人。そこにいるのは彼らしかいない。

いつも傍にいて守ってくれている信頼の従者たち。



「フランとアキームのことですか?」



ラゼットはリゲイドの方を見ないように気を付けながら、真っ白なシーツを視界に入れて小さく尋ねる。

ギシッと体の上でリゲイドが髪をかき上げるのが分かった。



「フランは、私の執事であり教師です。幼いころより私の傍に仕えてくれています。」



ラゼットはこれ以上意識が持っていかれないように、シーツを凝視したまま早口でリゲイドの質問に答えることにした。



「アキームは身辺警護をッ!?」



グイっと向けさせられた首が痛い。それと同時に、その甘いマスクの下に隠されていた均整の取れた肉体にラゼットは見惚れていた。



「結婚初夜まで見張りとは、随分惚れ込まれているんだな。」


「え?」



告げられた言葉の意味が分からない。

見張り?

惚れ込まれている?

ラゼットは不可解な表情をにじませたまま、パチパチと数回まばたきをする。



「ちっ。」



舌打ちをしたリゲイドが、不機嫌に顔をしかめて近づいてきた。



「やっ、リゲイドさ、まッんン!?」



はねのけようとしても、びくともしない。布越しのキスとは違う、肌の温かみが重なり合うキスは、初めての感覚をラゼットに与えようとしていた。ひとつに溶けあうかのように、お互いの体温が混ざり合っていくような感覚。

別の肌を重ね合わせるのに、どこか落ち着くような懐かしい匂いがした。



「はぁ…っ…はぁ…~~~ンッ」



密度を深めるように吐息が混ざり合って消えていく。



「リッ…ぁ…っん…はぁ…ッ」



次第に抵抗の意思をなくし、されるがままに答えていたラゼットはそのうち、リゲイドの手が全身を愛撫していることに気づいて、体を硬直させる。左手は顔から滑り落ちるように首、肩、そして柔らかな胸。右手は足から這い上がるように太ももを開き、まだ誰も触れたことのないラゼットの花園へと近づいていく。



「ヤッ…っ…ぁあ…ァアッ」



顔を真っ赤にさせたラゼットは、これ以上は恥ずかしくてたまらないとリゲイドの強行に待ったをかけた。けれど、唇をキスでふさがれ、真上に重なるように体を寄せるリゲイドを押しのけるほどの力が出ない。

男と女は生まれながらに差が出る生き物。まして、ギルフレア帝国より友好の証として送られてきた目の前の婿は、史上最強の矛と名高い、ギルフレア帝国最強の戦士。

祈ることのみを義務付けられて生きてきたラゼットとは体格が違いすぎる。



「っ?」



ふいに止んだキスの嵐に、ラゼットの荒い息遣いがリゲイドを見上げる。



「いいのか?」



息一つ乱さない美麗な婿は、意味ありげにチラっと扉の方へと視線を流した。



「あいつらに、この状況を見られてもいいのか?」


「ッ!?」



まさに絶句。ラゼットは恥辱と恐怖をうつした瞳に涙を浮かべながら、小さくアッと息をのんだ。



「アッ…ぃ…ヤァぁ…ぁ…ッ」



火照った体が一瞬にして青ざめるほど、現実を意識したラゼットに顔を埋めたリゲイドの愛撫は止まらない。

押し殺した声。

涙をためた瞳。

弱々しく抵抗するからだ。

それなのに時折、鼻から抜けるような甘い鳴き声を吐き出す魅力にたきつけられるように、リゲイドはラゼットの体を侵略していく。



「んっ…やっ…ぁア…ッ」

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