第11話 冒険者ギルドへゴー!
商人ギルドを出て、近くの定食屋に入る。
ちょうど12時なので、お昼ご飯だ。
だが、サラが席に座ってくれない。
「サラ。座れ」
「いえ。私は奴隷ですので、ご主人様と同席するなど出来ません」
うーん、文化の違い。
サラは恐縮しきって、席に座ってくれない。
確かに他の席を見ると、首輪をした奴隷はテーブルの側に立っているか、店の外で待っている。
だが、なあ。
せっかく買った可愛い女の子だ。
一緒に食事がしたいじゃないか!
四十歳独身貴族は、女性と食事なんて超久々なんだ!
俺は必死にサラを説得する。
「サラは俺の護衛でもあるだろう?」
まあ、主たる目的は性奴隷だが。
そこは触れずに説得を続ける。
「護衛は体力が勝負だ。だから食事をしっかりととって欲しい。それが主人を守る事につながる。だから、席に座って一緒に食事をしてくれ」
「かしこまりました……。そこまでおっしゃるのでしたら……」
やっとサラが席についてくれた。
ふう。これで久々に女性とランチだぜ。
頼んだのは定食を二つ。
何かのステーキと野菜スープにパンだ。
パンは固いがスープにひたせば食べられる。
ステーキは牛肉に近い味で、塩コショウがきいていてなかなか旨い。
食事をしながら、サラと話をする。
「サラはまだ若いんだから、しっかり食べて」
何か親戚のおじさんみたいだが、何せ俺四十歳とサラ十八歳だ。
言う事がオッサン臭くなる。
「お肉は久しぶりに食べるので、とても美味しいです!」
サラはパクパクと見ていて気持ち良くなる食べっぷりだ。
奴隷商人の所では、あまり肉は出なかったのかな?
食事は与えていると奴隷商人は言っていたけれど、最低限の食事なのかもしれない。
「そんなに美味しいか? 毎食ちゃんと食べさせるから安心して良いぞ」
「ありがとうございます!」
サラは嬉しそうだ。
よし! サラを餌付けしてしまおう!
これから色々旨い物を食べさせてやろう!
「ご主人様は領地をお持ちなのですね?」
サラの方から話題を振って来た。
良い傾向だ。
「まあ、領地と言っても、家の周りに空き地が広がっている程度だ」
「それでも領地をお持ちなのは凄いです!」
「そ、そうか……」
俺は家の周りの事を思い出して、ちょっと考えてしまった。
実は家の周りのスペースがさらに広がったのだ。
最初は俺の家があって、玄関の前に駐車場くらいの広場があるだけだった。
周りは魔の森で、森の中に俺の家がポツンと建っている感じ。
だが、翌週気がつけば、広場は車二台分に広がっていた。
そして、家の周りの木々も消えて、空きスペースが出来ている。
そう、家の周囲に生い茂る魔の森が勝手に消えているのだ。
最初は街から来た冒険者たちが、野営スペースを作る為に木を切り倒したのだと思った。
だが、それにしては……魔の森が消えるスピードが早すぎる。
このペースで行くと数日中に、ちょっとした集落を作れるくらいのスペースになりそうだ。
「ご主人様のご領地は魔の森の中ですよね?」
「そうだよ。ここから丸一日歩いた所だ。あっ!」
「どうしました?」
「帰りの護衛を雇わないといけなかった!」
そうだ。
迎えは奴隷商人ブッチギーネが、護衛を雇ってくれたけれど、帰りは自腹だ。
「私一人ではいけませんか?」
「うーん……」
サラはそう言うけれどな。
俺はこの世界の魔物がどれくらい強いのかわからない。
サラの強さもイマイチわからない。
奴隷商人の所でみた弓の腕前は凄いと思ったけれど、実戦ではどうなるか……。
「冒険者たちを雇おう。サラを信じていない訳じゃないが、魔物が沢山出て来る可能性だってあるだろう? それなら人数がいた方が良い」
「そうですね……確かに私一人の手に余る事があるかもしれません」
サラも納得してくれた。
よし、これで護衛を堂々と雇える。
「えーと……護衛を雇うには、どこへ行けば良い?」
「冒険者ギルドですね」
冒険者ギルドか……。
まさに異世界だな!
「よし! 食事が終わったら冒険者ギルドへ行こう!」
「はい! ご主人様!」
食事は偉大だ。
サラと一緒に食事をしたら、大分打ち解けてくれた。
表情も大分リラックスしている。
定食屋から歩く事五分。
冒険者ギルドは、街の中心部にあった。
駅前の銀行サイズのかなり大きな建物だ。
木製のドアを開け、中に入る。
建物の中も広い。
右側に頑丈そうな木製の丸テーブルと椅子、ベンチがずらりと並び、左側に大きな掲示板が壁に打ち付けられている。
正面は銀行のカウンターのようになっていて、若い女性の職員が座っている。
職員以外に冒険者風の男が五人いるだけで、どうやらヒマな時間のようだ。
俺はカウンターで暇そうにしている赤髪の人族の女性に声をかけた。
「すいません。明日、魔の森に行くので護衛を雇いたいのですが?」
カウンターの女性はジロジロと俺を見る。
頭の上からつま先まで観察されているな。
「ひょっとしてミネヤマ様でしょうか?」
「えっ!? あっ、はい、そうですが……。どうしてわかりましたか?」
「黒髪ですし、珍しい服装をしていらっしゃいますし、そうかなと」
「えーと、どう言う事でしょうか?」
受付のお姉さんいわく、俺は冒険者ギルドで有名人らしい。
魔の森の中を開拓している外国の貴族がいる。
黒髪、黒目で、珍しい外国の服を着ている。
新しいダンジョンの入り口近くに住んでいる。
水をタダで分けてくれる。
家の周りで野営しても怒られない。
貴族だけど偉ぶらないので、普通に接して良い。
うーん、悪い噂じゃないけれど、『良い男』とか『年の割にイケメン』とか、そういうポジティブな噂はないのだろうか?
無いのだろうな……。
「一緒に冒険者登録もしませんか? 登録は無料ですよ」
ポテトもいかがですか? くらいの軽さでお姉さんは冒険者登録を薦めて来た。
いや、四十歳独身貴族は、荒なんて御免ですよ。
「いや、私は戦闘能力が無いので結構ですよ」
「冒険者登録が無いと魔石が売れませんよ。そちらの奴隷の女性だけでも登録しませんか?」
「魔石が売れない? どう言う事? その辺を詳しく教えて貰えますか?」
「魔石の売買は、冒険者ギルドが独占しています。それから魔物から採取できる肉や毛皮などを素材と言いますが、魔物の素材は冒険者ギルド以外では買い取ってもらえません」
「なるほど」
独占する事で、冒険者ギルドの利益を確保しているのかな。
魔石は魔道具に使われる。
燃料にあたる消耗品だ。
魔物の肉や毛皮も需要があるだろう。
結構な量の取引が、冒険者ギルドで行われていそうだ。
魔石ねえ。
俺は無いけど、サラが魔物を倒して魔石を得る事はありそうだな。
一応、サラだけ冒険者登録してもらうか。
「そう言う事なら、このサラだけ冒険者登録して下さい。サラ、良いな?」
「はい。ご主人様」
サラもそれで良いらしい。
サラは別の職員に連れられて、冒険者登録をしに行った。
受付のお姉さんと護衛の話しを進める。
「それで護衛の依頼ですが、明日の朝出発して魔の森の中にある私の家までお願いしたいです。俺の荷物を持ってくれる人がいると助かります」
「かしこまりました。ミネヤマ様の家の近くは、あまり強い魔物は出ないので三、四人の冒険者パーティーで十分ですね。手配出来ると思います。荷物持ちも一人付けます」
良かった。
明日の朝、出発できる。
有給は取ってあるけれど、何があるかわからないからな。
帰れる時に、家に帰っておきたい。
今日が日曜日だろ。
月曜の朝この街を出発して、月曜の夕方に家に着く。
火曜、水曜は、家でノンビリ過ごせるな。
まあ、ノンビリと言うよりも、サラを可愛がってやるので忙しくなりそうだが。
ムフフ!
大運動会開催予定だ!
玉入れに、棒倒し、玉転がしも良いな!
チャッ! チャチャ、チャッチャッ、チャッチャッチャー!
俺の脳内で運動会のBGMがエンドレスリピートを始めた。
受付のお姉さんは、お構いなしに話しを進める。
「それから料金は、一人一日3000ゴルド、往復が必要になる仕事ですので、一人につき二日分6000ゴルドでお願いします」
帰り道の分も出してあげるのね。
それは仕方ないでしょ。
それにしても安くないか?
定食が一食1000ゴルドだろ。
冒険者一人を一日拘束して、定食三食分か。
この世界の人件費は日本に比べて安いのか?
「料金が安く感じるのですが、本当にその料金で良いですか?」
「相場ですよ。ミネヤマ様の家までのルートは弱い魔物しか出ませんから」
「ああ、強い魔物が出るエリアだと護衛の料金は高くなるのですか?」
「そうです。護衛の内容、難易度やリスクによって、料金はかなり変わりますね。それから道中で倒した魔物の素材や魔石は、冒険者の物になります」
なるほどね。
護衛の収入が安くても、魔物素材や魔石の売り上げがプラスされるのか。
「料金は明日の朝、出発前にギルドでお支払い下さい」
「わかりました。その料金と内容で結構ですよ」
そうだ!
他にもお姉さんに教えて貰おう。
「ウチの近くは、どんな魔物が出るのでしょうか?」
「あの辺りは、Fランクのスライムとホーンラビットですね」
「Fランク?」
「魔物を強さでランク付けしています。Fが一番弱くてSが一番強いです」
ほうほう。わかりやすいな。
それにしてもスライムか。
俺でも倒せるのかな?
「なるほど。Fランクだと素人でも倒せますか?」
「いえ。武装した冒険者で無いと危険ですよ。スライムでも種類によっては、溶解液を吐き出しますから、見かけたら戦わずに護衛の冒険者に任せるようにして下さい」
「わ……わかりました……」
溶解液と聞いて、かなりビビった。
最弱の魔物であっても、この世界の魔物は人間に比べれば強いと言う事か。
戦わずにサラに任せよう。
「気を付けたいのは、Eランクのフォレスト・ウルフですね。時々単独で現れますが、仲間を呼ぶので戦いが長引くと厄介です」
「Eランク……下から二番目の強さですね。仲間を呼ぶのは嫌ですね」
「そうですね。戦いが長引くようでしたら、逃げた方が良い場合もあります」
「覚えておきます」
お姉さんとあれやこれやと話していたら、サラが戻って来た。
「登録は出来たか?」
「ハイ! ばっちりです!」
サラは誇らしげに胸から吊るした金属製のカードを見せた。
これがギルドカード、身分証明書らしい。
さあ、これで冒険者ギルドでの用は済んだ。
ちょっと時間は早いけれど……今夜のお宿を探しますか……。
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