第二章 第五十六話 カリスマブレイク

 階段を下りる途中、二人の女性の会話が聞こえてくる。


「この蔓ほどきなさい! じゃないとビーム打つわよ! 打つわよ!!」


「うるさい、打てるなら打ってみなさい。電池切れの時計なんて全然怖くないから」


「チッ」


「はぁぁぁ」と大きくため息を吐く神代。


「神代さん!」


「ん?」とこちらを振り向き、そして微笑んだ。


「解決方法見つけたのね……ってあなたもいたの。道化師」


 彼女は死んだ魚のような目でブギーマンを見る。


「えぇ、私はいつでもどこでも現れますよぉ。あなたが望めばすぐに現れますよ——」


「いらない」と脊髄反射で答える。


 ブギーマンは「相変わらず厳しいっ!!」と答えるが、完全無視で俺にこう問いかけた。


「それで大神くん、早く治してくれない? うるさいのよ、あれ」


 エルファバがこっちを見て「キシャーーー!!」と威嚇している。


  「ちょっと、あたしの親友にうるさいって言わないでくれる?」


 レベッカは目を細め、腕組みしながらそう言う。


「あなたがレベッカね。あの状態でうるさい以外に他の言葉があると思う?」




 キシャーーーーーー!!




「それはあなたがエルフィーをイラつかせたからでしょ? 話せばエルフィーもわかってくれるわ。 ねぇ? エルフィー。そんなに怒らないでくれる?」


「黙りなさい、このカリスマブレイク!」


 カリスマブレイク?


 何のことだ?


「宏……斬っていいわ」


「えっ?」


「早く斬りなさい!」と顔を真っ赤にし、レベッカは俺を睨む。


「は……はい」と彼女の威圧に圧倒され、エルファバの近くに寄った。


 エルファバは俺を見つめ「なに? 攻撃できない人を斬って楽しいの? この卑怯者」と言ってくる。


 俺はその言葉に苛立ちを覚えた。


 そんなの——。


「楽しいわけねぇだろ……斬りたくて斬ってるんじゃねぇよ!!」



 うわぁぁぁぁぁぁ!!!



 俺はそう叫びながらエルファバを斬った。


 彼女はその場で倒れる。




 はぁ……はぁ……はぁ……。




 なんで俺がこんなことしなきゃいけないんだよ。


 レベッカが俺に近づき「なんか……ごめんなさい」と謝る。


「いや、取り乱した俺が悪いんだ。……ごめん」


 まだまだだな……俺……。


 視界に入ったのは自分の靴と赤絨毯だった。


 しばらくすると「ハッ!」と声が聞こえる。


 その声の方を見るとエルファバが上体を起こしていた。


「ワタシはなんてことを……ごめんなさい」


 彼女はそう言い神代を見つめる。


「もう終わったことだから」


 神代はエルファバにそう答え、蔓を解く。


 彼女は立ち上がり「ありがとう」と言い、優しく微笑んだ。


 その笑顔を見て、これが本当のエルファバ・マグワイアかと喜ばしい気持ちが心から沸き立つ。


「宏、笑ってる」


「左様でございますね。妹様」


 俺はそれを聞いて思わず手で口を塞いだ。


 俺、無意識に笑っていたのか……。






 よかった。






 そう心の声が聞こえる。


 俺が犠牲になれば誰かが幸せになれる。


 そう思いながら俺は周りに笑顔を見せた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る