第96話 謎の声・戦争が終わる??
「そんな話、とっくの昔から皆んなの間で話題になっているのよ!! 知らないかな〜!? 上級生でも勝てないような相手に果敢に立ち向かって、なおかつ勝利?? そんなことされたら、興味を持たない人の方が少ないくらいよ!!」
一際大きな声が、この部屋に響いた。そんなに興奮するものなのか、と疑問を抱きそうになるが、どうやらそんなものらしい。理由までは分からないが、アンの切羽詰まる表情を見れば、何となくそんな気がした。
「それで男子グラウンドの話も知っているのか・・?」
「大体はね。シルと、カリュって人、そして死んじゃったみたいだけど上級生の人。この三人でグラウンドに突如として降臨したオークを、一捻りにしちゃったってね。それはそれは、現場を見ていた学生が詳細に話してくれたわ。でもって、その後に、山を横断して女子グラウンドまで来るんだもん。間違いなく、一番の化け物はあなたよ、シル。私からしたらね」
「それ・・・褒めてる?」
「さぁね。捉え方はお任せするわ」
髪を手で靡かせると、彼女はおもむろに紙と睨めっこを始めた。何か先程の会話から物思いに耽ることが現れたのか、それは分からない。だが、真剣に考え事をしていることだけは、手に取るように感じることができた。
「まぁ、いいか。じゃあ、次は私の能力について話す番ね」
「あぁ、よろしく頼むよ」
「はいはい。私の戦闘スタイルは主に長距離戦。突風を私の武器である——これに纏わせて戦うのよ」
アンはそう言いながら、壁に立てかけていた筒のようなものを取り出す。蓋をクルクルと回して開けると、中から木で構成された物体が出てきた。しなやかな細い木が半円を描き、頂点と頂点を白い糸がピンと張り詰めている。これは・・・
「弓・・かな? それは」
「そ! 弓矢に能力を付与するイメージでいつも戦っているんだ〜。苦手な相手は、勿論近距離戦を得意とする人! グラウンドで戦った悪魔もそうだけど、近くまで寄られると、補助にしか回れなくなるわ」
アンは、ピンと弦を弾かせて音を鳴らすと、慣れた手つきで外に出した弓を片付ける。シルはその姿を見つめながら、物思いに更けていた。近距離と長距離を得意とするグループ。表面上を見ると、大きな隙はないように思える。それどころか、これ以上ない組み合わせのようにも感じられた。
「出来過ぎな・・・いや考えすぎかな」
頭に浮かぶ筋肉質の男性。それを、頭を左右に激しく振ることで追い出した。
「今日はもう遅いから、手合わせとか二人での戦いの慣れとかは明日にするとして、はぁ・・・まだ模擬戦まで時間があるのにもう緊張してきたわ」
「え? なんで、楽しそうじゃん!」
どうやら、シルのテンションはこの場では相応しくなかったようだ。言葉の中で漏れたため息よりも、更に深いそれをあからさまにつかれる。
「そんなにため息を吐くほど不安なことでもあるの?」
「不安しかないわよ!!」
「それは・・・どうして?」
アンは一度深く息を吸い込んだ。
「いい、よく聞いててね。この模擬戦において、何が一番勝敗を分けるのか。それは、一目瞭然私たち個人の能力。時としてそれは、戦場をひっくり返すほどのインパクトを残すことができるからね」
「うんうん」
シルは相槌を打ちながら、頭の中でイメージを膨らませる。
「じゃあさ、その能力って・・・皆んなに知られていた方が脅威になると思う?」
「いや、そうは思わないな。知られていない方が、戦略とか立てやすいんじゃないのかなって・・・あ・・・」
「気づいたみたいね。私たちのグループは、まさかの二人して能力が相手にばれている。つまり、一番対策をしやすいグループ!! 私たちが勝ちを取りに行くのは、かなり難しいって言っても過言じゃないのよ!!」
はぁはぁ、と息を漏らすアン。高揚からくるそれは、しばらくの間この部屋にひびき回った。だが、それはシルの耳に届くことはない。頭に浮かぶ疑問符が、それの侵入を拒んでいた。
「難しい・・・? 本当にそうかな?」
「・・え?」
「多分だけどさ、俺たちが負けることはそんなにないと思うよ。だって、————じゃないか」
その言葉に、アンは驚愕の表情をするだけで、返答する言葉を見失ってしまった。
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月光が、遮るもののない部屋に静かに忍び込む。太陽の光ほどではないが、直線上に伸びるそれは、部屋の中に佇む家具にぶつかる。高級な皮でできた椅子と、それに色合いを寄せる机。しかし、光に当てられた伸びる影までは、高級感を漂わせることはできないようだ。ただ——淡い灰色が伸びるだけだった。
「はぁ〜・・・今日も疲れたな・・・」
口から溢れる息は、冷気に満ちていない気温であったが、白く染まっている。見渡せば、部屋の中も雪が降っているかのように白い煙で覆われていた。
「吸いすぎだよ、ウィル。身体を壊すよ」
その声の持ち主を待っていたのだろうか。口に咥えた葉巻を、近くに置いていた灰皿に押しつけ、火を消した。まだ、半分以上残っていたのにも関わらずだ。
「久しぶりに会っての開口一番がそれか。腰抜けが」
「私にも残された時間がない。だからこそ、要点だけを話すとすぐにこの場から立ち去るさ、下等な雑種と過ごす時間など無駄でしかないからな」
コツコツコツ
声の持ち主と、ウィルと呼ばれた男性の立ち位置を入れ替えるように、円を描くように移動する。互いに互いを睨み合い、空気は一触即発だ。それを裏付けるように、両者は腰に帯刀する武器に手を添えていた。月の光の逆光で、人間離れした殺気を放つ声の持ち主の姿はしっかりと視認できない。
「面白い・・・二人組がいてね、ウィル。今夜は、その二人の話をしにきたんだよ。名前は・・・聞いてないかな? 聞いていたとしても、もしかしたら忘れているかもしれない」
「何が面白かったんだ」
「この戦争が・・・終わるかもしれないよ。だって、彼らから——&%%'+*`@%%」
「おい、何を言っているんだ!?」
話の後半から、突如として話す言語を切り替えたようだ。あれは、紛れもなく闇の一族が会話に使う時の言語。人間では、いまだに解読できていないそれを、彼が理解できるはずがなかった。
「勿論・・・我々の勝利でな!!!!!!」
声の持ち主は、一気に武器を手にすると、地面に向かって攻撃を放った。
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