第76話 光の一閃
ジャリジャリ・・・!!
悪魔の歩み寄ってくる音が、痛みに悶える全学生の耳に聞きたくなくとも、侵入してくる。頭の中で響くその一定の効果音は、まさに死へのカウントダウンのようにも感じられた。
「くそ! とにかくここから出ないとね」
ドライバーに対して、強い口調で問いかけていた新入生が、腰に刺している短剣を取り出す。しかし、彼女も腕に怪我を負ったようで、思ったよりも取り出すの苦戦を強いられる。その間も、徐々に近づく足音。それが、更に彼女の焦りを生ませる。
「早く——取れなさいよ!!」
痛み身体に鞭を打ち、ようやく胸の前に左手に包まれた短剣が現れる。些細なことだが、それだけで彼女の顔には僅かに綻ぶ笑みがうかがえた。
「とりあえず、この邪魔な天井を壊さないと——!」
彼女は、そう叫ぶと短剣に対し、念を送るかのように両目を瞑った。そして、小さく唇を震わす。
『蔓延る紫の瘴気は害あるもの。されど、空は常に光を求める。その願いを叶えるのは、誰。瘴気を糧とし、消費することで、光をこの短剣に宿したまえ。そして、それは一線の煌めきと共に、大陸を包み込む光に還るだろう』
短剣の剣先に集まる小さな光の粒達。それら一つ一つは、さして眩くもなく、恐るるに足らない。だが、それらが吸収し合い、一つの球体となり集まった時。誰もが目を開けていられない光源と変貌してみせた。
そして、彼女は集まった光の球体を薙ぎ払うかのように、行く手を阻む天井に振り下ろして見せた。
シュウウゥゥゥ!!!!
爆撃でもない。それでいて、砂塵を悪戯に上げる衝撃波が巻き起こるわけでもない。彼女が放った光の一閃は、光速の速度で放たれると、目を細めた瞬間に全てを無に帰す。それが、例えどんな物体であろうとも。
「よし!!! これで逃げられるわね!!!」
再び目を見開いた時には、突如として口を大きく開き、遮られていたグラウンドの様子が分かるようになっている。この場において、それがどのような原理で、引き起こされたのか。気づいている人は数人に満たないだろう。なぜなら、大半の人が眩い光で目を閉じていたのだから。
だが、確実に気づいていたと言えるのは、2人。一人は、もちろん、この攻撃を放ち、天井を綺麗に切り裂いた彼女。そして、もう一人は・・・。
「もうちょっと丁寧に出来ないの?」
光速の一閃をも華麗に回避してみせた、悪魔だ。
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