第58話 侵入者の思惑

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「遅い⋯⋯ 。何をやってるの⋯⋯ !」


 すでに体力テストも終盤に差し掛かり、テストを終えて、バスに戻っていく者の姿もちらほら伺える。緊張するテストを終え、胸糞悪い気の抜けた表情を浮かべる新入生達。彼女達が話している声を聞くだけでも、無性に苛立ちを覚える。そもそも、なぜ、自分がこのような損な役割を、果たさなければいけないのか。それすら、疑問に思えてくる。


今年のアーミーナイトへの新入生を討つその役目に私の名前が連ねることはなかった。従来なら今まで実績を誇った闇の一族が直々に我らが王から勅命を受けるのだが、なぜか今年はその仕組みが変更したらしい。選ばれたのは何の実績も持たない言わばモブ扱いだった闇の一族。唯一、サキュバスだけが実績のあるという名の連なり。そんなんだから、今回の討伐は失敗に終わることなんて目に見えていた。


結果として、今年の戦果は最悪。半分にも満たない成果しかあげられてこず、終いには経験あふれるサキュバスが帰ってこない結末を描いた。我が王はその結果に激昂するかと思われたが、案外心は穏やかであり、それが逆に不気味さを覚える。まるで、わざと今年の新入生は生き残らせる計らいを見せたかのようなそんな感じがしたのを覚えている。


だが、そう感じていたのは私だけだったみたい。闇の福士官はこの状況を危惧しており、新たなる刺客を私に命じてきた。今回は前に選ばれたモブではなく、過去に50人新入生を殺してきた私に直々に命令を下してきたのだ。「これは我らが王からの言葉である」という言葉を残して。


 そんなこんなで、私は遠路はるばる我が城から重い腰を上げて、わざわざ着たくもない人間どもの制服に腕を通し、潜入したのだ。事前情報で大佐が人間離れした力量を誇ると教えられていたので、奴が現れるときは幻影の術を張り巡らせておき、周りに蔓延る邪魔な実行委員と名乗る戦士にもなれない雑魚どもを洗脳するために、我が僕であるシャドーを放っておいた。


手筈は至ってシンプルに計画していたはずだ。難解な命令は洗脳状態では再現することができない。なので、それを逆手にとりこの新入生の中で唯一邪魔になりそうな奴に、高濃度の瘴気を浴びさせろとだけ、命令した。人間は高濃度の瘴気に耐えることができない。


たちまちその姿を闇の一族と化し、私の読みでは身体が異常に成長し、オーク紛いの怪物に変貌すると睨んでいたのだが。オークが暴れて、同時期にこちらも暴れれば命令系統は崩壊。助けを求める時間を与えることなく、奴らに確実な死をお見舞いできると踏んでいた。


しかし、依然としてその怪物が暴れたという合図がまったく送られてこない。一度、反対側の空中が瘴気に一時的に染められた様な気がして、次の攻撃の合図を今かいまかと心待ちにしていたのだが一向にその気配が無いまま、いつしか瘴気も蒸散してしまい何時もの忌々しい青空が顔を出していた。

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