夢路

夜路てるき

夢路


世界はつまらないもので出来ている。

セピア色の世界だとか、ネオンに輝いているだとか、光照らされているだとか、闇が降りてきているだとか。

そんな世界のとらえ方に意味はない。

例え、神々が魅了されるほどの極彩だったとしても、世界がそれを台無しにするのだ。



少年は立ち止まっていた。

長い道のりを眺め、しかし諦めたわけでもなく。

ただ単に首を傾げたのだ。

この先の街にはいったい何があるのだろうと。

話には聞いている。各地の村で大人たちが口を揃えてこう言った。

あの街には素晴らしいものがたくさんある。

一度その街まで行ってみればいい。

きっとお前も幸せを見つけるだろう。

と。

少年はその通り、街を目指した。幸福を探しに出たのでもない。大人の言うことを信じたわけでもない。皆がそう言うものだから、そのように来てしまっただけだった。

少年は来た道を振り返る。村は地平の向こうで見えはしない。最後に立ち寄った村でさえ、出立したのは何日も前の話だ。

どうしようか。

首を傾げたまま、少年は歩きだす。

一歩、また一歩。その足取りは重い。

いや、踏みしめているのかもしれない。

一歩、また一歩。何かを確かめるように、ゆっくりと歩を進める。

まさか、足取りが重いのかもしれない。

少年は地を見つめ、空を見上げ、風を感じ、日差しに身を差し出した。

遠くを見やり、振り返って道を確認し、道なき野原に思いを馳せた。

そうやって自由に振舞っても道は街へと続いている。この道を自分のように歩いた人がいるのだろう。

もしかしたら、この道を走り抜けた人がいたのかもしれない。

早馬に乗って一足先についた人も、

誰かと楽し気にゆっくりと向かった人も、

少年の様に、立ち止まった人も。

誰かが言った。

街に行けと。

その時、自分はなんと言ったのだったか。

なんと思ったのだったか。


少年は歩きだす。

少年の目にはもう道など見えていなかった。

来た道は分かる。行くべき道も分かる。

しかし、少年が思い描いた街はこっちだと思うのだ。

少年は歩く。その足取りは軽く、煌びやかな光を求めて速くなる。

貰った地図は畳んでしまった。

コンパスで、自分がどこにいるのか確認することもなくなった。

ああ、そうして少年はたどり着くのだ。

少年が思い描いた夢の街に。

そして肩を落とすのだ。

この街は地図に書かれた街だったと。




世界はつまらないもので出来ている。

セピア色の世界だとか、ネオンに輝いているだとか、光照らされているだとか、闇が降りてきているだとか。

そんな世界のとらえ方に意味はない。

例え、神々が魅了されるほどの極彩だったとしても、世界がそれを台無しにするのだ。

そう言った男がいた。



少年は歩いていた。

まっすぐに。ただまっすぐに。

立ち止まって休む時間すらも惜しい。

夢に見た街を見たくて仕方がない。

ある大人はこう言っていた。

あの街には素晴らしいものがたくさんある。

一度その街まで行ってみればいい。

きっとお前も幸せを見つけるだろう。

と。

数人の大人はこうも言っていた。

街はありふれたものだった。

行っても何があるわけでもない。

お前もきっと何かを失うだろう。

と。

少年は街を目指した。口々に言われた言葉はきっと本当のことだろう。

なら、その言葉に意味はない。

だって見て、感じて、考えた末の言葉なのだから。

見て、感じて、考えるまでは無意味な雑音だ。

触れて、聞いて、飲み込んでから共感と反感を覚えよう。

少しだけ、来た道を振り返る。後にした村は地平線の彼方。ここまでの道は自分の軌跡だ。この先の未知はきっと街に続いている。

一歩、また一歩。足取りは力強く。

今を確かなものにするかのように。

一歩また一歩。少しでも前へ、前へ。

逸る心の赴くままに。


少年は脇目も振らずに進んでいった。雲の形も、雨のにおいも、日差しの強さも気にすることなく。

誰かが通ったかもしれない道を突き進んでいく。

ああ、そうして少年はたどり着いたのだ。

誰もが思い描いていた街に。

何かを見つけるのか。何かを失うのか。

それはこれから決まること。

少年自身が決めること。

そしてまた、踏み出すのだ。

未知など希望に他ならないと、少年は知っているから。

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