第35話 海賊稼業③
ズルズルズルズル
ドザッ
…………
「いたたたたた……」
またしても打ち付け全身が痛んだが、私はゆっくりと身体を起こした。
岩壁にあった隠し扉から再び吐き出されたその場所。そこは先程の坑道のような場所とはまた変わって、今度は整備された石造りの通路のような場所だった。
「ここは一体何なんだ?」
ゆっくりと身体を起こしたアレンもまたきょろきょろと辺りを見回す。
その途端、ガシャッとまたしても嫌な音が響いた。
ゴゴゴゴゴゴ……と地響きが轟き、背後に只ならぬ気配を感じて振り返る。
目が点になりそうだった。
背後から尋常じゃない雰囲気を纏って現れたもの。それは鋭く尖った歯の並んだ通路と同じ幅の鉄の円柱だった。
「「うわぁあああっっ!!」」
悲鳴を上げ、私とアレンは弾かれるように駆け出した。
迫り来る円柱から逃げる私とアレン。
落ちた先の整備された通路はどうやら複雑に入り組んでいるようで、中は迷路のようになっていた。その通路をひとまず直進し、十字路を右に曲がる。曲がった直後、物々しい狂気の円柱が凄まじい音を立てて通過して行った。
「な、な、な、何なんですか!?あれは!?」
「俺に分かる訳がないだろ!?」
立て続けに起こる災難に見舞われ、急な運動を強いられては酷使され続ける身体。ボロボロの身体を引き摺りながら乱れた呼吸を必死に整える。
「けどまあ、とりあえず、どうやらあのよく分からん物は通過したようだし、ひとまずはこれだ大丈夫だろう」
そうアレンは言った。
しかし、それは大きな大きな間違いだった。
ガシャッ……
またしても背後から嫌な音がした。
その音に私とアレンは恐る恐る背後を振り返る。すると、突然後方通路の天井が開いた。そして、見覚えのある鉄の塊が堂々と天井から降臨する。
「うそ、だろ……?」
アレンの引き攣った声が無情に響いた。
その瞬間、それはこちらへと向かって動き出した。
「「またかぁああっ!!!!」」
私とアレンは再びその場から駆け出した。
必死に堅い床を蹴り、もつれそうになる足を前へと出す。迷路のような入り組んだ通路を一目散に走り抜けていく。
「ハル、次はどっちだ!?」
「はいっ!?」
「次はどっちに曲がればいいんだ!?」
「そんな事、私に分かる訳がないじゃないですか!!」
「勘でいい!勘でいいから決めてくれ!!」
「そんな無責任な事言われてもっ!!」
嬉しくもないその決定権を私は必死に拒否するものの、アレンはどうやら自身で道を決める気なんてないらしく。
「もう、どうなったって知りませんよっ」
私は僅かにアレンの前へと出てほとんど何も考えずに入り組んだ通路を右へ左へと疾走していく。
しかし、どうにも運は我らの味方をしてはくれないらしく。
その後、通過を曲がっては仕掛けが作動し、再び迫り来るそれから逃げては、行く先でまた仕掛けが作動して。その後も飽きる事なく、何度も同じような事が繰り返された。
しかも、この仕掛けはどうにも賢く出来ているらしく。前方にしか進まないのかと思いきや、一定範囲を進んだのち、それは途端に後方へと回転し始める。なんとその仕掛けはバックも出来るというなんとも優れた代物だった。
そんな匠の技の光る巧妙なトラップから必死に逃げ続けた結果。
私とアレンは奥へ奥へと進んだ通路のその先。一際狭い部屋の中へと逃げ込んだ。
「ぜぇ……はぁ……はぁ……」
静まり返った狭い部屋の中に荒い呼吸音だけがただ響く。
疲れた身体を支えるように、前のめりになって乱れた呼吸を整えた。
「この狭い幅なら今度こそは、もう本当に大丈夫そうだな……」
アレンもまた壁に持たれながら必死に乱れた呼吸を整えている。
本当に、一体全体どうしてこんな目にばかり遭わなくてはいけないのだ……。
止まる事なく降り掛かり続ける災難に。
そんな目に遭ってばかりの自分の悲運に。
なんだか泣きたくなって来る。
「さて、少し休んだら行くとしようか。さっさと魔法の杖を見つけてこんな城とはおさらばしよう」
そう言って呼吸を整えたアレンは持たれた壁から身体を起こした。そしてきょろきょろと逃げ込んだ狭い部屋の中を見回す。
ここが一体何の為の部屋なのか。全くもって検討が付かないが、どうやらその部屋には入って来た入口とは別に3つの出口があるようで。
「狭い部屋の四方にそれぞれ出口が1つずつ。入って来た場所を除けば、選択肢は3つか」
アレンはその3つ選択肢の中から正解を選ぶかのように出口の前を歩き回る。
「うーむ……」
腕を組んだままアレンは何度も行ったり来たりを繰り返した。
「3つの中の正解はどれか……」
そしてしばらくののち、部屋の真ん中でその足を止めた。アレンが導き出した答えとは。私はアレンを注視した。
「……なんて、俺には全くもって検討が付かない」
しかし、出口を選んだのかと思われたアレンは途端にお手上げを示すかのように両の手を上げた。続いて彼はおもむろにこちらを振り返る。そして、アレンは耳を疑いたくなるような発言をかましてくれた。
「だからハル、君が出口を決めてくれ」
「はい……?」
私はぽかんと口を開けたまま、アレンを見詰める。
「だから、この3つの中から君が出口を決めてくれ。勿論、好きなのを選んでいいぞ」
アレンは嬉々としてそう言った。そんなどこまでも無責任なアレンに対し、ふつふつと怒りが込み上げて来る。
先程の通路での事といい、今回ばかりはさすがに腹が立っていた。私は疲れ切った身体をぐいっと引き上げ、笑顔を向けるアレンに向き合う。
「アレン船長!いい加減にしてください!なんでそんなに人任せなんですか!?」
「何か問題か?」
「何か問題か?じゃないですよ!どうしてアレン船長はそんなに何でもかんでも人に任せ切りなんですか!?」
普段ならこんな事などほとんどないのだが、私にしては珍しく声を荒げて抗議した。何故ならば、それに関しては何も今に限った事ではなかったからだ。
アレンは仮にも船長。船長と言えば、常に乗組員達の上に立ち、彼らを引っ張っていく存在の筈ある。にも関わらず、アレンはいつも大概の事は人に任せ切りにしている。それは戦闘の時であったり、仕掛けられたトラップの解除であったり。
この人は全く、一体何を考えているのか。
最近ではどこへ行くにも私の後ろにへばりついて離れない。
仮にも私は女であってまだ若干18歳の学生。
そんな女子学生を盾にする。
果ては命を危険に晒すような選択肢を委ねるなんて。大の大人がする事とは思えない。
一体全体何を思って、そんな事をする?それは一体どういう事なのかと。
それを聞いたアレンは困ったように腕を組む。何か言い訳を模索しているようだった。
訪れた長い沈黙。その沈黙を破ってアレンは一つ、ゆっくりと息を吐いた。
「分かった、正直に話そう」
アレンはまるで観念したかのように口を開いた。そして彼はこう告げる。
「俺が君に選択肢を委ねる理由。それは――」
「君が“運命を変えられる光を纏う者”だと思っているからだ」
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