Defeat the Game Master
紅しょうが(仮
-prologue-
「なぁ・・・これって・・・?」
鎧を身にまとった赤い髪の男はキョロキョロとあたりを見渡し、呟く。
「・・・あぁ、そうだな。」
紺の髪の女は目を細くして、男の様子をじっと見ている。
紋章が刺繍されたローブに身を包んだその女は、木製の杖に体重をかけた。
「お前も見てみろよ!見渡す限りに広がる平原!そして遠くに見ゆるは中世の塔っぽい建造物!そして今俺は、西洋風の鎧を着てここに立っている。これは?まさしく?最近流行りの・・・?」
男は大げさな身振りで、男に言う。女はやれやれといった面持ちである。
「異世界転生キタァァァァァァァァァァ!これから俺たちの冒険が始まるぜ!」
「・・・そのくだり、ホントに必要か?」
女はため息をついて、言った。
「んだよぉ、ノリ悪いなぁ。折角の冒険心がちょっと引っ込んじゃうじゃないか。」
つれない様子に男もため息をこぼす。
「お前、昨日も同じようなこと言ってたしな。その時は俺もノッてやったろうが。ただ二回目はもういいだろ・・・。」
「いや、やっぱこれ感動するって!宿題やら学校やら、そういう退屈とは無縁な世界!これから俺たちはこの未知なるファンタジー世界で、剣と魔法使ってドラゴン倒して英雄視されたり、街で異国の武器を作って尊敬のまなざしで見られたり、不治の病を治して村中の人から歓待されたりするんだぜ!」
男は目を輝かせている。
「いや、途中端折りすぎだろ。その前に苦難があるんだよ。ドラゴン倒せるぐらいの剣術や魔法を体得するのにも、まともな武器を作るような鍛冶の技術を習得するのにも、回復の魔法が使えるようになるのにも、それなりに長い道のりがあるはずだろ。それに危険もつきものだしな。楽なもんじゃないぞ。」
「それは・・・ほら、最近流行りの強くてニューゲームっていうかさ・・・。転生した時に『転生ボーナスでこのスキルあげちゃうー』、なんてこの世界に俺たちを呼んだ神様が用意してくれてるはずさ。ほら、指を鳴らせば、すごい勢いで風が・・・。」
男が大げさに手を挙げて、指を鳴らす。
「・・・起きないな、何も。だからそりゃ甘いって。」
男はわかりやすく肩を落として落胆したように見せた。しかし、すっと立ち直った。
「まぁ、そりゃそうだよね。じゃあ、そろそろ行きますか?」
「そうだな、ずっとここにいても仕方ないしな・・・。まずはあの塔を目指して歩くか、そうすれば最初の街があるはずだ。」
二人は遠くに見える塔の方を向き、歩き始めた。
「おっ、流石経験者は違うね。さぁさぁ、早く俺のレベ上げをしてもらおうじゃない。」
男は胸を張って男に言った。
「お前なぁ、そんな威張って言うなよ・・・。いきなり身もふたもないメタ発言しといて。」
女はガクッと肩を落とした。
「まぁ、細かいことはいいんだよ。お前だって、何で女アバターなんだよ。」
男が指を指す。
「いいじゃねーか。なんかその方が異世界感が増すし?俺だって・・・その・・・、異世界転生とかロマンあるし・・・な。」
女は恥ずかしそうに言った。
「そのアバターで恥じらうなよ。ちくしょー、そのキャラちょっと可愛いじゃねーか。」
男は嬉しそうに言った。
そうして二人は草を踏みしめ、遠くに見える塔を目指すのだった。
φ
俺こと齊藤昇(さいとうのぼる)は、昨日友人の奥村悠(おくむらゆう)に誘われ、VR ゲーム「Arcadia(アルカディア)」をプレイし始めた。
世の中はVRゲームをはじめ、Virtual Reality(仮想現実)デバイスが大流行。
工業や医療、教育など、多岐にわたる領域でVR技術が運用されるようになり、またこの数年でエネルギー産業や電子工学技術に革新的な発展があったとかで、生活の風景は少し変わった。
街ゆく人々のほとんどがウェアラブルデバイスを常備するようになり、誰もがICチップを通じて、電子マネーで買い物を行うようになった。
便利だね、ホント。ちょっと前までは硬貨やお札というのを持ち歩かなくてはならなかったのに。
ゲーム業界もVR開発に力を入れるようになり、VRゲーム群雄割拠の時代になった。
そんな中でも、このアルカディアは他のゲームと一線を画す。
このゲームのクオリティの高さである。しかもフルHD対応だとかハイレゾ音源だとかそんなレベルではない。
VR技術の最高峰である、ゲームに入り込むということを実現させたのである。
実際には、ゲームセンター等にあるアルカディアの大型筐体に座り込んでいるだけなのだが、実際に走ったり、何かに触ったり、香りを嗅いだり、物を食べたりと、本当に異世界を冒険している錯覚さえ起こしてしまうほどである。
え?そんなゲームのプレイ料金が、俺みたいな学生に払えるのかって?
それが実質無料でプレイできるんだそうだ、キャンペーンか何かでさ。
この高クオリティなゲームが無料でプレイできるんだから、そりゃ人気で話題にもなる。まぁ、それだけがこのゲームの人気の理由では無いのだが・・・。
俺もそんな噂を聞いて、プレイしたくなった人間の一人というわけだ。
そこで、すでにプレイしているという悠にこのバーチャルワールドを案内してもらおうと思い、同行してもらっている。
昨日はキャラメイクにこだわって時間を使ってしまい、動作チュートリアルをこなすだけになってしまった。
そこで今日、これから本格的にゲームをスタートする。
さぁ、冒険の始まりだ!
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