第33話『成人式の写真・2』
須之内写真館・33
『成人式の写真・2』
成人式写真の二日目、妙な飛び込みの客があった。
なんとお坊さんであった。それも、とうに八十は超えて居るであろう老僧である。
「専念寺の住職で橘常海と申します。突然で申し訳ありませんが、この人達の成人式の写真を撮っていただけませんか?」
そう言って解いた風呂敷包みには、法名が書かれた小さな札が沢山収まった額が入っていた。
「この方々は?」
玄蔵祖父ちゃんが聞くと常海和尚は、こう答えた。
「わたしの戦友たちです」
「戦友……失礼ですが、ご住職はお幾つになられるんですか?」
「今年で、八十九になります」
「それはそれは……」
「この人達も、生きて居ればわたしと同年です……予科練の同期です。みんな二十歳の若さで散っていった人たちです。もう亡くなって七十年、元々係累の少なかった人たちです。わたしも老い先短い身の上、ひ孫が成人なので思い立ちました。みんなの成人写真を撮ってやろうと」
数えると四十八人分の俗名と法名が書かれていた。中には笑顔やむつかしい顔をした写真が付いているものもあった。
「この人達は、みな特攻で逝かれたのですか?」
玄蔵祖父ちゃんが、しみじみと聞いた。
「出撃はしましたが……敵艦に突っ込めたものは一人もいません。わたしの出撃は終戦の明くる日の予定でしたので、この歳まで生きてしまいました」
スタジオは、準備待ちの新成人も含め、しばらくシンとしてしまった。
「しかし、予約で一杯でしてね……」
やっと、父の玄一が口を開いた。
「それなら、あたしたち一緒に撮ってもいいですよ」
順番が来た女の子三人のうちの一人が申し出た。
「ミーハーかもしれませんけど、こないだ『永遠のゼロ』を観て感動したんです。いっしょに撮らせてください」
そういうことで、三人の女の子の前に額を置いて写真を撮ることになった。
「どうもありがとう。年寄りのわがままに付き合わせてしまって」
常海和尚は、深々と頭を下げた……。
その後、妙な事件があった。
尖閣諸島に近い海域を七隻の艦隊で南下していた某国の艦隊のレーダーに48機のアンノウンの飛行機が映った。各艦の見張り員は、やがて海面すれすれを飛んでくるゼロ戦に気づき、警告射撃をした。
進路を変えないため、一斉に対空ミサイルを打ち上げたが、全弾目標をロストし、48機のゼロ戦は、七隻の艦に七機ずつほどが体当たりして、艦隊は大混乱した。
某国は、その状況を撮影し、直ぐに世界中に映像が配信された。しかし、その映像には静かな海と空。そして闇雲にミサイルや近接防御機銃を撃ちまくり、慌てふためく乗組員の演習のようなものしか写っておらず、某国は合成前のCG映像を間違って流したと笑われ、非難された。
いよいよ、明日は成人式の本番である。
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