51

「チヌ、今日はもう疲れたから、部屋で食事してもいい?」


 レモン色の衣装のまま、倒れ込むように床に寝そべった。


「かしこまりました。そのように伝えて参ります」


 チヌが出ていき、王宮の使用人2人が残っているが、気にせず手足を思いっきり伸ばす。


 はぁ〜っ……。今日は、色々あり過ぎて疲れた〜!


 大の字に寝転がったまま、頭の中を整理してみる……。


 ここは、世奈の前世の世界で……、世奈とイケメン天使は恋をしていて……、私にそっくりな王妃が居る。


 私にそっくりな王妃かぁ……。いったい、なんの病気なんだろう?


 とにかく、早く元の世界に戻った方が良さそうな気がしてきた。


 この世界に私達を連れてきたのはイケメン天使だから、元の世界に戻せるのもやっぱりイケメン天使だよね……。あーっ、でも元の世界に戻ったら、世奈はもう死んでるんだ。

 っていうことは、世奈はこの世界に住んで、私だけが元の世界に戻ればいいんじゃない?


 あーっ、頭痛くなってきた。脳を使うのは、やっぱり苦手だぁ……。


 もう眠ってしまおうと瞼を閉じたところに、動揺しまくりのチヌが飛び込んできた。


「ヨ、ヨナお嬢様! 王様がっ」


「えっ?」


 寝そべったまま開いた戸の方に視線を向けると、チヌの後ろに国王の護衛達の姿が見えた。


 嘘っ!


 慌てて上半身だけ起き上がると、なんと、護衛達を割って国王が部屋に入ってきた。


 えっ! 国王が、ここに来るとかあるの?


「そのままで良い。御医を呼んであるゆえ、用心するように」


 国王が私の前にしゃがみ込み、心配そうに覗き込んでいる。


「だ、大丈夫です! ちょっと疲れただけですから」


「慣れぬことばかりで、ご苦労であった。ゆっくりで良いのだ。案ずるでない」


 そんなに優しくされると、キモいと思っていたことがちょっと申し訳なくなる。


「あっ、あの、王妃は、王妃の具合はどうなんですか?」


「心配はいらぬ。強き女人である」


「よかった〜。早く回復して欲しいですよねっ」


「そなたこそ、元気が取り柄である。しっかり休んで戻されよ」


 いい人、だと思った。

 でも、元気が取り柄って、ちょっとバカにされたような気もするけど……。


 国王。何不自由ない生活を提供してくれる、申し分のない権力の持ち主だ。魅力的な男だけれども、見た目が……。あの、クソ部長にさえ似ていなければ、この結婚はアリかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る