世奈side

36

 結局、今日も私は生きている。

 当たり前のようにこの世界で目覚め、生きる為に朝食を摂った。


 巫女として過ごす日々……。毎朝のお祈りのお蔭で、この世界の文字や言葉も少しは理解できるようになっていた。


「明後日、王宮にて華の宴が執り行われる。伝統あるご夫人達の祭り事だ。皆、しっかりと準備しておくように」


 お祈りのあと、マヤ様から全員にそう伝えられた。


「はい、マヤ様!」


 礼拝堂に、巫女達の明るい声が響き渡る……。


 どうやら、私達は王宮の催事に出席するらしい。ということは、また美咲さんに会えるかもしれない!


 この世界が何なのか、元の世界にはどうしたら帰れるのか、まだ何も分かっていないけれど、なぜか美咲さんに会いたいと思っていた。


「スヨンとコウは、生地屋に頼んである札入れ(ふだいれ)を取りに行ってくるように」


 そう告げて、マヤ様は副代表と共に席を立った。


「はい、マヤ様」


 そう応えながら、コウが嬉しそうに私を見る。


「はい、マヤ様」


 どこに何を取りに行くのか全く分からないけれど、私もそう応える癖が付いていた。


「楽しみね〜」「何を着て行こうかしら?」


 華の宴について語り合いながら、巫女の集団がそれぞれの部屋へと戻っていく。


「スヨン、早く支度しましょ」


 隣りを歩いていたコウが、急かすような視線を送りながら言った。そんなに嬉しいことなのか、コウのテンションは高い。


「札入れって……、どこに取りに行けばいいの?」


「えっ……」


 無神経なことを聞いてしまったのだろうか? コウのテンションが、一気に下がるのが分かった。


「そうだったわね。覚えてないのよね……。市場よ、隣り町の大きな市場! いつもなら、私よりスヨンの方が喜んでたんだけど」


 隣り町の市場……。本物のスヨンは、喜んでたんだぁ。


「なんか……、ごめんなさい」


「ううん。行けば、なにか思いだすかもしれないわね……」


 私のせいで、コウをがっかりさせてしまった。コウには、本当のことを話すべきなのかもしれない。

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