婚礼の儀③

美咲side

13

 目覚めるとすぐに、部屋の中を見渡した……。

 彫りの入った朱色の伝統家具……、フワッとしたシルクのようなピンク色の布団と衣服……。


「戻ってない……」


 昨日と同じ、訳の分からない世界に私は居た。

 それにしても、この状況でよく眠れたものだと我ながら感心してしまう。とても清々しい朝だ。


「ヨナお嬢様! お目覚めでしょうか? 支度の者どもが到着致しました」


 ずっと、付きっきりで世話をしてくれているチヌの声だ。チヌは、私が幼少の頃から側に居る母親のような存在らしい。


 ゆっくりと戸を開け、寝起きの顔を覗かせ聞いてみた。


「支度って、着替えのこと?」


「何をおっしゃってるんですか! 婚礼のお支度ですよ」


 呆れたように私を直視しながら、チヌがせかせかと部屋に入ってくる。


「結婚って……、誰がするの?」


「またご冗談を。ヨナお嬢様ですよ! たいへん良い日和でございます」


 チヌに続いて、次々に人が入ってくる。


「えっ! 私の結婚式ーっ」


 おそらくは、鳩が豆鉄砲をくらった顔であろうまま、おしろいがパタパタと飛んでくる。


 ちょっと、どーなってんの! もう、元の世界には戻れないの? 

 確か、あのイケメン天使は、ヨナを演じていれば全て上手くいくって言ってたけど……、上手くいくって元の世界に戻れるってことじゃないの?

 そうだ! ヨナではないことがバレたらヤバいんだった。


 そうこう考えている間にも、支度が進められていく……。


 美容や着付けのプロなのだろうか?

 色とりどりの民族衣装を着た人達が1ダースほど、それぞれに手際良く動いている。


 結婚って、もしかしてあの護衛と? チヌには聞けないから、この人達に聞いてみようか?


「あの〜、私が誰と結婚するのか知ってます?」


 髪を結っていた同世代の女が、微笑みながら応えた。


「国じゅうの者が知ってますよ。国王ですもの。お嬢様は、王様の第3夫人になられるのですよね」


 えっ、護衛じゃなくて、国王の3番目? それにしても、本妻じゃなくて、愛人?


 なんか、納得できない……。


 金銀の刺繍が施された真っ赤な絹の衣装に、スッと袖を通す。


 うわっ、綺麗〜っ!


 煌びやかな宝石が散りばめられた髪飾りやアクセサリーが付けられる。


 うっそーっ、素敵過ぎる!


「お美しい〜」


 思わず漏れるうっとりとしたまわりの声が、心地よく耳に届く。


「お嬢様、お支度が整いました」


 そう言って、美容や着付けをしていた人達が全員並んで会釈をした。


「えっ……」


 鏡に映る豪華絢爛な自分の姿に、暫し酔いしれる……。


 ちょっと……、最高じゃない!

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