第10話 月の女神(改稿)

 パステルの故郷でちょっと遊んだあと、カリーナ魔法学校に帰った私の前に立ちはだかったのは、無断外出禁止違反の反省文用紙、その枚数七百五十枚だった。

「……なに書けばいんだろ?」

 当然ながら寮にいる間だけでは足りず、私は用紙を研究室に持ち込んでせっせと『ごめんなさい』とばかり書いていた。

 広大な部屋の片隅に仕切りを立てた向こうには、キャンプ施設やらなにやらあったが、少なくとも三分の二くらいはまだがらんどうに近い状態で、魔法研究室とは機能していなかった。

「イートンメス、ルリ、パステル、キキどのくらい書けた?」

 同行していた四名もまた、同罪ということで同じ枚数の反省文をせっせと書いていた。

「師匠、まだです!!」

「はい、全然まだです」

「まだです!!」

「はい……ここまでとは」

 これまた備え付けの机でせっせと書いている四人もまた、げんなりした顔をしてせっせと用紙にペンを走らせていた。

「ああもう、せっかく研究出来ると思ったのに!!」

 私はガリガリ頭を掻いて、またせっせと書きはじめた。

「スコーンさん、また魔法書が届いたので、いつも通りの順番で書架に置いておきますね」

 唯一、難を逃れたビクトリアスが、私が発注した魔法書が届く度に、せっせと働いていた。

 しばらく黙々と書いていると、開けっぱなしの研究室の扉をノックして、リズとパトラが入ってきた。

「おっ、やってるね。あたしも散々、書いてるよ!!」

 リズが笑って、子リズ縫い包みを私の机に乗せた。

「うん、リズはもう反省文どころか始末書を通り越え、顛末書すら越えて、なにか起こせば即刻お仕置き部屋だもんね!!」

 パトラが笑った。

「う、うるさいな。大体、ほぼあんたがトラブル起こしてるんでしょうが!!」

 リズが放ったパンチを、パトラが容易に避けた。

「みんな、もうお昼だよ。早くいかないと、学食が詰まっちゃうぞ」

 パトラが笑った。

「あれ、もうそんな時間なの」

 私はオマケのように壁に付いている時計をみた。

「あっ、ホントだ。みんな、いくよ!!」

 私が立ち上がると、四人も同時に立ち上がった。

「はぁ、疲れたな……」

「まだ七百五十枚程度なら軽いよ。あたしの記録は一万二千枚だから。まあ、校舎を真っ二つにしちゃったからね!!」

 リズが笑った。

「そ、それはまた……」

 私は苦笑した。

「さて、忙しいところ悪いんだけど、午後はあたしの受け持ってるクラスの実習なんだ。さっそくだけど、助手として働いてちょうだい。スコーンとルリはよろしくね!!」

 リズが笑った。

「あっ、そうなんだ。助手ってなにするの?」

「うん、大した事じゃないよ。魔法実習の監督。攻撃魔法じゃないけど、校庭を広く使うから、あたしやパトラだけじゃ足りなくてね。よろしく!!」

 リズが笑った。

「そうなんだ、分かった」

 私は頷いた。

「さて、皆でメシいこう!!」

 リズの声に笑みを浮かべ、私は椅子から立ち上がった。


 学食が混むやや手前の時間で無事に昼食を済ませた私は、クラスを引率してくるというリズとパトラに先だって、ルリと一緒に校庭に出た。

「しっかし、広い校庭だねぇ」

「はい、これでも狭いそうです。魔法は大変ですからね」

 リルが笑みを浮かべた。

「そういえば、ルリは魔法使えるの?」

「はい、簡単な灯り程度ですが、使えるには使えます。まあ、魔法使いと堂々といえるかは、微妙ですが……」

 ルリが笑った。

「そっか。まあ、灯りは基本だからね。それにしても、魔法学校の授業か。受けた事はあるけど、教えた事はないな。なにするんだろ」

 私は小さく笑みを浮かべた。

「はい、聞いた話だとまずは防御結解から入るそうです」

 ルリが笑みを浮かべた。

「防御結解ね……。私は専門じゃないけど、下手な攻撃魔法より扱いが難しいんだよ。軽くみてると、痛い目に遭うってイートンメスがいってたし、それは私も分かってるつもりだよ」

 私は小さく息を吐いた。

 しばらくすると、リズが先頭でゾロゾロと学生が校舎から出てきた。

「なんか、懐かしいな……」

 私は小さく笑い、手に持っていた白衣を羽織った。

 ルリも白衣を着込み、小さく笑みを浮かべた。

「はい、お待ちどう。みんな、適当に散って。今日は、防御結界だよ。座学ではやったと思うけど、これが初だから気合い入れろ!!」

 白衣を着たリズが笑い、広い校庭に学生たちが散っていった。

「うわ、結構いるね……」

「うん、四十五名いるよ。今日は中等科に上がって初の実習だから、注意しておいて!!」

 リズが私とルリの肩を叩いた。

「そっか、そりゃ大変だね。一番事故が多いよ」

「そうなんだよ。それで、緊急事態に備えて、こんなもんも待機するのがカリーナ流でね!!」

 リズが白衣のポケットから無線機を取り出し、小声でなにか呟いた。

 すると、どこからともなく派手な重低音をまき散らし、ゴツい戦闘ヘリが三機校庭の上空に待機した。

「な、なにが始まるの!?」

「うん、最悪の緊急事態対策。もし、学生が魔法を暴走させてあたしたちでも対処できない場合、その学生目がけて容赦なく砲撃を加えて排除するんだよ。皆を巻き込むより、一人の犠牲で済む。これが、魔法だって骨の髄まで叩き込むんだ。学生は命がけだから、それはもう必死だと思うよ!!」

 リズが笑みを浮かべた。

「そ、そっか……。それはキツいな」

 私は苦笑した。

「まあ、そうならないために、あたしたちが目を光らすんだけどね。さて、授業開始だよ!!」

 リズが手に持っていたトランジスタメガホンを弄った。

「よし、詳しい持ち場はパトラが指示するから、スコーンとルリは従ってね。なんかあったら、無線を使って!!」

「うん、分かった」

 私は頷いた。


 私はパトラが指示してくれた場所に移動し、いよいよ授業が始まった。

「うん、みんなさすがに真面目だね……」

 途中で魔力コントロールが上手く出来ない学生などに教えながら、私はゆっくり歩いて見守った。

 そのうち、なにやら苦戦している学生の一人に目がとまった。

「ん……もしや」

 私はその学生にゆっくり近寄った。

「えっと、こう……」

 呟きながら、必死になっているその学生に近寄り、私は笑みを浮かべた。

「力を入れすぎだよ。まさかなんていったら失礼だけど、エルフがこにいるとは思わなかったよ」

 私が声を掛けると、その学生はビクッと体を震わせて固まった。

 長い耳が特徴のその学生は、紛れもなくエルフだった。

「ああ、警戒しないで、私はただの先生だから。ただ、ビックリしただけだから。それより、そんな力んじゃ上手くいかないよ。魔力放出は上手くいってるから、あとはコントロールだけだから」

 私は呪文を唱え、小さな防御結界を張った。

「は、はい、ありがとうございます」

 その学生は小さく息を吐き、呪文を唱えた。

 歪な青白い壁が展開されると、その学生は小さく息を吐いた。

「ほら、上手くいったでしょ。あとは、練習だけだね」

 私は笑みを浮かべた。

「あ、ありがとうございます。私はマルシルといいます」

 その学生ことマルシルは小さく笑みを浮かべ、私に握手を求めてきた。

「私はスコーンだよ。研究棟にいるから、なにかあったら聞きにきて」

 私が握手に応じると、マルシルは小さな笑みを浮かべた。

「でも、本当に珍しいね。人間の学校にエルフなんて……」

「はい、こう見えて冒険好きで、里の掟を破ってしまい、追い出されてしまったのです。やっとここだというところに落ち着けたので、私は必死ですよ」

 マルシルが小さく笑った。

「そっか、どうも冒険野郎が多いな。助手に面白いのがいるから、話し相手にはなると思うよ」

「分かりました、今度覗います」

 マルシルが笑みを浮かべた。

「うん、研究棟の四階だから覚えておいて。ところで、エルフといえば呪術だけど、使えるの?」

「はい、一通りは。でも、ここでは封印すると決めたのです。むやみに、使うものではありません」

 マルシルは頷いた。

「それを聞いて安心したよ。さて、頑張って」

 私は笑みを浮かべ、その場を後にした。

 呪術とはエルフ固有の魔法のようなもので、文字通り相手を呪いで縛る術の事。

 その威力は絶大だが、私の知識では何人も術者が必要で、あまり実用的ではないと聞いていた。

「それにしても、面白い学校だねぇ」

 私は呟きながら、笑みを浮かべた。


 魔法実習の授業は無事に終わり、結果として軽傷者数名を出した程度だった。

「うん、上出来だよ。何名か命を落とす覚悟はしていたんだけどね!!」

 学生たちがゾロゾロと校舎に戻っていく中、リズが笑った。

「そうだね。防御結界は危ないからね」

 私は苦笑した。

「それじゃ、あたしはまだ授業があるからいくよ。今度は座学だし、大して教材もないから、助手はいらないよ。反省文書かなきゃね!!」

「うっ、忘れてた……」

 私は苦笑した。

「じゃあ、またあとでね!!」

 リズが校舎に戻っていくと、ルリが小さく笑みを浮かべながら近寄ってきた。

「これが、生きた魔法なんですね」

 ルリが笑った。

「まあ、そうだね。戦闘ヘリにまで狙われていたら、腑抜けた事は出来ないよ」

 私は笑った。

「さて、それじゃ研究室に戻ろうか。反省文七百五十枚ってなんなんだか……」

 私は笑い、ルリを伴って校舎に入った。

 私は出入り口に置いてあった自転車を適当に選び、研究棟まで長い廊下を走り、研究室に戻った。


 研究室に入ると、私は書きかけの反省文を必死こいて書きはじめた。

 他のみんなも黙々と書いていて、ある意味変な空間になっていた。

「イートンメス、お茶!!」

「今は忙しいです。自分でやって下さい!!」

 イートンメスからつれない返事が返ってきたとき、ビクトリアスがすかさず紅茶を淹れてくれた。

「ありがと、さて……」

 どうにも研究より力が入った感じで、反省文用紙をひたすら『ごめんなさい』で埋め尽くしていると、内線電話が鳴った。

「ん?」

 電話をみると『守衛室』と書かれた小さなボタンに赤ランプが点滅していた。

 私は受話器を取り、ボタンを押した。

「はい」

『守衛室です。学生の訪問で、名前はマルシルです。お通ししてよろしいですか?』

 受話器の向こうで、オジサンの声が聞こえた。

「あれ、もうきたんだ。いいよ!!」

『分かりました。ビジターカードを渡します』

 私は電話を切り、小さく息を吐いた。

「どうしました?」

 黙々と反省文を書きながら、イートンメスが問いかけてきた。

「うん、さっきリズの授業で知り合った学生だよ。なんと、エルフでね。暇ならおいで的な事をいったら、もうきちゃったよ」

 私は笑った。

「そうですか、珍しいですね。ぜひ、お友達になりましょう」

 イートンメスが書く手を休め、小さく笑った。

「うん、大歓迎だよ!!」

 私は笑った。

 しばらくして、開け放ったままの研究室の扉をノックして、マルシルが顔を見せた。

「あの、突然申し訳ありません……」

 遠慮がちな様子のマルシルに手招きして、私は椅子から立ち上がった。

「あれ、どうしたの?」

「はい、どうしても分からない事がありまして……」

 マルシルが入ってきて、私に近寄ってきた。

「今はがらんどうで落ち着かないから、そっちの敷居の向こうに行こう。ビクトリアス、キャンプの手配!!」

「はい、やっておきます」

 ビクトリアスが笑みを浮かべ、内線電話の受話器を取ってどこかと連絡した。

「こっちきて。少しは落ち着くから」

「はい……」

 私はマルシルを敷居の向こうにある、土が敷かれた直火可能なキャンプエリアに連れていった。

「こ、こんな場所が……」

「うん、みんなの趣味嗜好が面白くてね。どれ、たき火でも起こすか……」

 私はキャンプエリアの真ん中にあるたき火の痕が残る場所に薪を組み上げ、種火を起こして火を付けた。

 湿気っていたようで、くすぶって白煙を上げていた薪に無事に点火し、私は設置したままの折りたたみ椅子に腰を下ろした。

「そこ座りなよ。それで、分からないところって?」

 マルシルは椅子に座り、付箋だらけの教科書とノートを私に差し出した。

「えっと、この辺りが……」

「なるほど、これは簡単なんだよ。こうやって考えれば……」

 私はマルシルの問いに答えつつ、小さく笑みを浮かべた。

「なるほど、そうなんですね。ありがとうございました」

 笑みを浮かべて立ち上がろうとしたマルシルの手を掴み、私は笑みを浮かべた。

「もうすぐバーベキューセットがくると思うよ。一緒に食べよう」

「えっ、よろしいのですか。では、お言葉に甘えて」

 マルシルが笑みを浮かべた。

 しばらくすると、イートンメスとビクトリアスが大量の食材を乗せたトレーを運び込み、野外用の大型コンロでせっせと焼き物を作り始めた。

「変わった研究室ですね……」

「まあ、これが普通らしいよ。もっと、凄いところもあるらしいし」

 私は笑った。

「まさか、研究棟でこんな事が……」

 マルシルが小さく笑った。

「うん、私もビックリだよ。まあ、おおらかでいいよ」

 私は苦笑した。


「うっかり、反省文に夢中になっていました。これをやるならやるといって下さい!!」

 遅れてバーベキューの輪に加わったパステルが、慌てて料理を作る手に加わった。

「スコーン、親睦中ですか?」

 椅子に座ってマルシルと会話していると、ルリが笑みを浮かべてやってきた。

 いつの間にかキキもやってきて、どうも小さな鍋で蒸かし芋を作っているようだった。

「うん、せっかくだからね。ところで、マルシル。その襟の青い記章。もしかして、初等科で主席取ってるの?」

 私はマルシルの制服に付いていた、小さな青い六芒星が描かれた青い記章を指さした。 聞いた話だが、この記章は各課程ごとにずっと主席を維持した、優等生に送られるものらしかった。

「はい、初等科ではずっとです。頑張らないと、ここに入った意味がないので。もっとも、伝説のリズ先輩には勝てませんが」

 マルシルが小さく笑った。

「伝説ね……研究所でも噂には聞いていたけど、興味なかったからね。こうしてカリーナにきた以上は、そうもいってられないけど。知ってるわけないけど、私ってまともに告られちゃったんだよ!!」

 私が笑うとマルシルがポカンとした。

「あのリズ先輩……あっ、先生にですか。いいですね、私の憧れなんです。格好いいし、教え方は丁寧だし、人気者なんですよ」

 マルシルは笑った。

「そうなんだ、まあ、いい人だよね。私は、いつも一緒のパトラにも興味あるな。いっつも控えてるから、目立たないか目立つんだか分からないけど」

 私は笑った。

「はい、とても仲良しと聞いています。私は学生の身分なので、先生と呼ぶべきでしょうが、とてもそんな気分にはなりません。クラス一体で仲間というか、仲良しというか……でも、隣の誰だったか……とにかく先生とリズ先輩は仲が悪いらしく、クラス同士で喧嘩が絶えないのも事実です。これは、どうにかして欲しいですね」

 マルシルが苦笑した。

「まあ、そういう事もあるか。私も魔法学校時代は、虐められたなぁ」

 私も苦笑した。

「はい、私もよく虐められますよ。クラスから出れば、エルフはどうしても目立ちますからね。まあ、気にしていませんが」

 マルシルが笑った。

「そっか。それにしても、ご飯まだかな。今日はイートンメスも料理してるから、味は覚悟してね。文句いうと、平手がくるからね!!」

 私は笑った。

「それにしても、リズ先輩に告白されたんですね。……羨ましいな。私の憧れなので」

 マルシルが少し赤面して、小さく笑みを浮かべた。

「あれ、惚れてるの?」

「はい、大好きです。でも、相手にされるわけがありません。残念ですね」

 マルシルが笑った。

「そんな事はないんじゃない?」

「いえ、ダメです。学業優先ですからね」

 マルシルが笑みを浮かべた。

「スコーン、リズとパトラも呼んでみては?」

 ルリが小さく笑みを浮かべた。

「うん、そうしよう。ちょっと待ってね!!」

 私は仕切りに壁掛けされている内線電話の受話器を取り、リズの研究室を呼び出した。

『はーい、パトラだよ。なんか用事?』

 しばらく呼び出し音が鳴ったあと、受話器の向こうからパトラの声が聞こえてきた。

「うん、研究室でクラスの学生を交えてバーベキューやってるんだけど、よかったらこない?」

『うん、いくよ。リズが床のワックスがけやってて、ちょうど終わったから腹減ったってうるさくてさ。今からでいいの?』

「うん、やってるからきてね!!」

 私は笑みを浮かべ、受話器を置いた。

「よし、イートンメス。アレ!!」

「はい、師匠。もう渡してあります」

 マルシルにペンと紙を渡した様子のイートンメスが、小さく笑みを浮かべた。

「さすがに仕事が早いね。よしよし……。マルシル、通じるかどうか分からないけど、リズに手紙でも書いてみたら。言葉より正確だと思うよ」

 私が笑みを浮かべると、顔を真っ赤にしたマルシルが折りたたみテーブルで、なにやら紙に書きはじめた。

「師匠、これは楽しみですね」

「うん、上手くいくといいな」

 私は笑った。

 しばらくして、開けっぱなしの研究室の扉をノックする音が聞こえ、リズとパトラが入ってきた。

「おう、お呼ばれ頂いたぞ!!」

 リズが笑みを浮かべた。

「あれ、その人は誰?」

 リズとパトラは、見慣れぬ長身の女性を連れていた。

「うん、昔ちょっと世話になった友人っていうか……神っていったら信じる?」

「こ、こら、バラしちゃだめ。困っちゃうなぁ」

 リズの笑みに、その人が苦笑した。

「か、神っていたの。マジで!?」

「うん、この学校って実は結構潜んでるよ。こいつは、アルテミス。月の神だよ。なんでか、人界っていうらしいんだけど、興味を持って暇つぶしにここにきちゃったら、そのままハマったんだって。ちゃんと、仕事しろ!!」

 リズはアルテミスの胸を肘で小突いた。

「だって、月は寒くて暇なんだもん。ああ、ここの研究室の話は聞いてるよ。しょちゅうリズのところで油売ってるから、よろしくね」

 アルテミスが笑顔で握手を求めてきた。

 その少しひんやりした手を握り、私は苦笑した。

「リズ、この学校ってなんなの?」

「さてね、こういうのばっかりだよ。ちなみ、学内に潜む神の見分け方を教えるよ。サンダルを履いてる事と、ほんのちょっと……二ミリくらいかな。地上や床から浮いているんだよね。そうじゃないと、この星に融着しちゃって消えちゃうんだって!!」

 リズが笑った。

「そうだよ、これで大変なんだよ。それにしても、いい匂いだね。私は狩猟の神でもあるから、こういうの好きでさ。暇だったら呼んでね」

 アルテミスが笑みを浮かべた。

「そ、そうなんだ。色々、変わりすぎてるな……」

 私は笑った。

「さて、ずいぶん大量に作ったみたいだね。これは、胃袋を空にしておいて良かったよ!!」

 リズが笑った。

「あれ、マルシルじゃん。こんなところでどうしたの?」

 パトラが笑みを浮かべた。

「は、はい……あの」

 マルシルが紙を手に、リズの元に近寄った。

「ん?」

 マルシルが俯いて、リズに紙を手渡した。

「えっと……んな!?」

 リズがヒックリ転けそうになった。

「あ、あの、ご迷惑でなければ……」

 真っ赤になったリズに、マルシルがか細い声でいった。

「……い、いや、迷惑じゃないけど。困ったな、スコーンに告ったばかりで、これからどう進めるかって考えていたから。ちょっと待ってね」

 リズは呼吸を整え、真剣な様子で手紙を読んでいった。

「スコーン、ごめんね。この子の方が大変だよ。あたしも断れないよ」

 手紙を読み終えたリズが苦笑した。

「私は気にしなくていいよ。正直、よく分からないからね。それがいいよ!!」

 私は笑った。

「なんだ、リズに彼女が出来たか。私はこの子が可愛くていいな。今のところ、それだけだけど」

 アルテミスが笑みを浮かべ、私を背中から優しく抱きしめた。

「ええ!?」

「だから、お気に入りになりそうって事。本当に綺麗でいい魂を持ってるよ。神の目でみると分かるんだよ。どんな魂を持った子か。いい子だね」

 アルテミスが笑った。

「……そ、そうなんだ」

「うん、だから仲良くしよう。私が神だからって、怯えなくていいからさ。普通に呼び捨てでいいよ。様とかいったら蹴飛ばすからね」

 アルテミスが小さく笑った。

「そ、そんな事いわないけど……。そもそも、神ってなんだろ。研究しよう」

「うん、研究して論文でも出してみたら。信じる人が何人いるか疑問だけど」

 アルテミスが笑った。

「こ、これは困ったな……。まあ、嫌われるよりいいか」

 私は苦笑した。


 料理が出来上がり、みんながそれぞれの場所で食べはじめると、私はルリと並んでせっせとご飯を食べていた。

「こ、この味は……マズい」

 ルリの顔色が真っ青になった。

「あっ、イートンメスに当たったね。レシピは豊富なんだけど、どういうわけかマズいんだよね」

 私は笑った。

 しばらくして、シチューを食べていたアルテミスが、不思議そうな顔をしてこちらに近づいてきた。

「スコーン、その隣の子だけど、かなり変わってるね。失礼な意味でいったんじゃなくて、魂が歪んじゃってるっていうか、ある意味で人間じゃないよ。これは、ちょっと可哀想だな……」

 アルテミスが顔をしかめた。

「はい、私はこの学校で人為的に作られた人形のようなものです。スコーンが良くしてくれるので、助かっています」

 ルリが笑みを浮かべた。

「そっか、それはキツいな……。せめて、正常な輪廻に乗せてあげないと気が済まないな」

 アルテミスが呟き、ルリの全身が一瞬光った。

「これでいいよ、寿命と共に消滅しちゃう定めだったルリの魂を、正常な軌道に乗せたから。ちゃんと来世はあるから安心して」

 アルテミスが笑みを浮かべた。

「あ、ありがとうございます。よく分かりませんが……」

「うん、分からなくていいよ。人間が分かっちゃ困る事だから、これは秘密にしておいて。さて、二人とも。本当に仲がよさそうでいいね」

 アルテミスが笑った。

「うん、寮で同室だからね」

 私は笑みを浮かべた。

「そっか、そういうのもいいね。私は一人だから、ちょっと寂しいけど部屋が広くていいよ」

 アルテミスが笑った。

「そうなんだ、確かにここ寮は広いよね」

 私は笑った。

「うん、何かと助かってるよ。そういえば、リズから聞いたけど、スコーンも島を貰ったんだって。あの猫、実は神だっていったら驚く?」

 アルテミスが笑った。

「そ、そうなんだ……まあ、確かに不思議な感じがしたから、そういわれたら信じるけど」

 私は笑った。

「うん、結構いるんだよ。この国にはね。面白半分で羽根を伸ばしにきたら、なんか居心地がよくなってそのまま住んじゃってるのが。私もそうだけどね」

 アルテミスが笑みを浮かべた。

「そっか、知らなかったな……」

「知ってたら大変だよ。だから、私の事も秘密ね」

 アルテミスが私の頭を撫でた。

「うん、いっても信じない人が多いだろうからね」

 私は笑った。

「そうだね。さて、みんないい人そうだね。リズがよく話すから、ここのメンバーも気になっていたんだ。いい感じだね」

 アルテミスが小さく笑みを浮かべ、その体が光り、両手にはライフルが現れた。

「これが、私が使ってる猟銃だよ。人界で普通に売られている物をリズに買って貰って、自分でカスタムしたんだ。みて分かるかな。弾は入ってないから安心して」

 アルテミスが猟銃を私にそっと手渡した。

「結構重いね……。いいの、私に持たせちゃって?」

「うん、私は別にどっかのプロじゃないしね。これは、ただの狩猟道具だから気にしてないよ」

 アルテミスが笑った。

 私は椅子から立ち上がり、銃を構えてスコープを覗いた。

「私にはいい銃かどうかは分からないけど、重いわりには使いやすそうだね」

「うん、昔は弓を使っていたんだけど、これを知ったらやめられなくてね。獲物に無駄な苦痛を与えなくて住むから、お気に入りだよ」

 アルテミスが笑った。

「そうなんだ……」

 私は笑って、銃をアルテミスに返した。

「それはそうと、スコーン。最近、なにか嫌な事があったね。魂に少し大きな傷が残ってる。なにかあったの?」

 アルテミスが隣の椅子に座った。

「嫌な事って……ああ、あのレッド・ドラゴンかな」

 私は苦笑して、事の顛末を話した。

「そっか、優しいね。このままじゃストレスになっちゃうから、治しておくよ」

 アルテミスの声と共に、私の全身が光に包まれ、心なしか気持ちが楽になった。

「もちろん、全員分治しておいたよ。それにしても、酷い事するなぁ。お疲れ様」

 アルテミスが笑みを浮かべた。

「まあ、後味は悪かったよ。でも、生きて帰れて良かったなぁ」

「うん、それが一番なんだよ。大事な事だから、覚えておいてね。ちょっと、左手を貸して」

 アルテミスは笑みを浮かべ、私の左手首になにかで出来た細い腕輪を付けた。

「お近づきの印かな。勝手に防御魔法みたいなものが発動するから、少しは安心でしょ」

 アルテミスが笑った。

「あ、ありがとう。へぇ、面白いね。確かに、なにか魔力に似た力を感じるよ」

 私は特に飾り気のない腕輪をみて、小さく笑みを浮かべた。

「うん、細かい説明は禁止なんだけど、なにかを退ける効果がある力を込めてあるよ。変なものじゃないから、安心して」

 アルテミスが笑った時、イートンメスが笑みを浮かべながら近寄ってきた。

「師匠、もうすっかり仲良しですね。これは、資料になかった事です」

「資料にあったら困るよ。私だって、ちょっとはビックリするから!!」

 私は笑った。

「みんなバカンスにきてるようなものだから、神だからってビビらないでいいよ。そうだ、スコーンの島にみんなで行かない。まだ手付かずなんでしょ。森が大好きなんだ」

 アルテミスが笑った。

「うん、いいけど仲良しのエルフの皆さんが開拓作業をやってるよ。それで良ければ……」

「それで構わないよ。ついでに、開拓のお手伝いするから、早く終わると思うよ。リズ、どう思う?」

 アルテミスがパトラとマルシルで、ムシャムシャご飯を食べていたリズをみた。

「うん、いいんじゃない。アルテミスにかかれば、開拓なんてあっという間でしょ!!」

 リズが八重歯を光らせて笑った。

「うん、そんなに広くなければ、あっという間だよ。なるべく自然を残したいな。スコーン、特にリクエストはあるかな。リズが好きだから、射撃場は必須だけど」

 アルテミスが笑みを浮かべた。

「それが、いきなりだったから、特に考えていないんだよ。射撃場は確保なんだね。あとは、どうしようかな……」

 私は苦笑した。

「じゃあ、相談しながら決めよう。スコーンの島なんだから、あれこれいわないよ」

 アルテミスが笑った。

「分かった。イートンメス、手配をよろしく!!」

「はい、師匠。さっそく、手配を始めます」

 イートンメスが笑みを浮かべ、壁の内線電話であれこれ手配を始めた。

「さて、楽しみだね」

 私は笑みを浮かべた。


 本来は反省文を提出しないと次の外出許可が出ないようだったが、イートンメスとビクトリアスが総掛かりで交渉した結果、なんとか許可を取り付けた。

 私、イートンメス、ビクトリアス、ルリ、パステル、キキという、私の研究チームに加え、リズとパトラにマルシルを加え、さらにアルテミスという大所帯で、私たちは二台のミニバンに分乗して、カリーナの飛行場を目指した。

 ほどなく到着すると、前回と同じYS-11が駐機場で扉を開けて、駐機場で翼を休めていた。

「またこれだね。働き者だよ」

 私は笑った。

「師匠、急だったのでパイロットまでは手配出来ませんでした。私とビクトリアスで飛ばしますので、客室でゆっくりして下さい」

 イートンメスが笑った。

「そうなんだ。まあ、いきなりだったからね。よろしく!!」

 私は笑い、小さなステップを上って、狭い機内に入った。

 小さな椅子に座ってベルトを締めると、隣に地図を持ったアルテミスが座った。

「背が高いから、これは苦手なんだよ。まあ、いいや。スコーンの島の地図を持ってきたから、ちょっと検討しようか」

 アルテミスが地図を開き、私の前に置いた。

「うん、なるほど。大体、円形なんだね。滑走路はここで、あの家がここか……」

 私は地図をつぶさに見つめた。

「そうだね。この広さなら、おおよそなんでも出来るよ。私はどこかに大きな湖みたいなものが欲しいなって思ってるけど、どうかな? そうすれば、渡り鳥なんかが中継地点にするかもしれないし、いいと思うけどな」

 アルテミスが問いかけてきた。

「うん、いい考えだね。いっそ、島の真ん中に置くかな……」

 私は鉛筆で島の真ん中に○を描いた。

「そうだね、分かりやすくていいよ。これなら、そこそこ大きな湖が出来るよ。私の力を使えば一瞬だね。これは、人界に生まれた存在では出来ないから」

 アルテミスが笑った。

「そうだね、こんなのいちいち掘ってたらやってられないよ」

「うん、好きにリクエストしてね。湖があるという事は、水が流入して排出される川が必要だね。これは地形をみて考えるから、任せてもらえる?」

 アルテミスが笑みを浮かべた。

「うん、そこは任せるよ。川って事は、沢も出来るね」

「そうだね、じゃないと不自然になっちゃうから。まあ、任せてよ」

 アルテミスが笑った。

 程なく飛行機が動き出し、私はベルトを締め直した。

 アルテミスも同じようにして、じっと地図を見つめていた。

「大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。植生も聞いてるから、もしかしたらなんだけど動物が住んでいるかもしれないね。そうしたら、狩りが出来るかなって考えていたんだ。無駄に狩っちゃいけないけど、ワイルドな野生料理が出来るかなってね」

 アルテミスが笑った。

「そっか……。そういうのもいいね。パステル辺りが、なんか喜びそう!!」

 私は笑った。

 飛行機は駐機場を出て、ゆっくり誘導路を走り始めた。

 そのうち滑走路に出て、飛行機は勢いよく加速して空に向かって舞い上がった。


 一度行って経験していたが、島までの距離はかなりある。

 機内に流れる重低音を聞きながら、私はウトウト居眠りをしていた。

 飛行機が旋回した感覚で目を覚ますと、隣のアルテミスが真剣な顔をして、地図にひたすら書き込みをしていた。

「あれ、起こしちゃった。ごめんね」

 アルテミスが小さく笑みを浮かべた。

「いや、関係ないからいいよ。そんなに真面目にどうしたの?」

「うん、この広さだと家が一軒だけじゃ、移動が大変だからあちこちにログハウスでも建てようかと思ってね。最適な場所を考えていたんだよ。これは、いいよね?」

「うん、確かに面倒だしね。それは賛成だよ」

 私は笑みを浮かべた。

「よし、許可が出たから考えよう。あちこちにビーチもあるみたいだし、無線の設備も整えないと、なにか遭ったら困るしね。これは、久々に大仕事だよ」

 アルテミスが笑った。

 飛行機は延々と飛び続け、しばらくしてパステルとキキが機内食を配り始めた。

「これ、リズのお手製なんです。美味いかどうか知らん!! って笑っていました」

 パステルが笑い、私の前のテーブルを開いて、豚骨ラーメンの丼が置かれた。

「……ら、ラーメン」

「はい、替え玉もありますよ。声を掛けて下さい」

 パステルが笑って、機体の後ろに向かっていった。

「リズらしいね、大好物だから」

 アルテミスが笑い、ラーメンを食べはじめた。

「ほら、伸びちゃうよ」

「あっ、いけね……」

 私はホッとした味がするラーメンを、ズルズル食べはじめた。

「うん、美味しいね。ちょっと冷めてるけど……」

「それが、一番なんだって。リズがいうんだから、間違いないよ」

 アルテミスが笑った。

「ところで、リズとはどんな仲なの?」

 私が聞くと、アルテミスは笑った。

「まあ、共闘者かな。カリーナの厳しい時代を、一緒に乗り越えた仲だよ。あと、ちょっとだけ恋人程度の関係にはなったかな。ああ見えて、リズって可愛いんだよ」

「そ、そうなんだ……。大変だったみたいだね」

 私は笑みを浮かべた。

「うん、大変だったなぁ……」

 アルテミスが優しい笑みを浮かべた。

「そっか。いい時代に入ったんだね」

「うん、全然違ったんだよ。校長がロクデナシでね。今は、温かくて平和な感じだから、居心地はいいと思うよ」

 アルテミスが笑った。

「そっか、良かった。嫌な思いは王都の研究所だけで、もう十分だよ」

 私は苦笑した。

「うん、ゆっくりやっていいんじゃない。リズとパトラなんか、遊んでばっかりだし。よし、大体土地の具合は把握したよ。あとは、到着を待つだけだね」

 アルテミスが笑った。

「うん、よろしくね。どうしていいか、途方に暮れていたから」

「分かった、真面目に考えたから任せて。といっても、湖と川、あとはログハウスだか考えてないけどね。シューティング・レンジは家の近くに作るよ。これで、様子をみて考えよう」

 アルテミスが笑い、私は笑みを浮かべた。


 飛行機が島に向かって降下を始めた時には、空に夜闇が迫っていた。

「あーあ、やっぱり夜になっちゃったね」

 私は苦笑した。

「そうだね、作業は明日やろうかな。一応、夜目は利くけど、それじゃ面白くないしね」

 アルテミスが地図を片付けながら、小さく笑った。

「うん、その方がいいよ。さて、どうなってるかな……」

 私は小さく息を吐いた。

「まあ、まだ数日でしょ。いくらエルフでも、ほとんど手付かずだと思うよ」

 アルテミスが笑みを浮かべた。

「そっか……。ねぇ、神ってどんな存在なの?」

 私が聞くと、アルテミスが吹き出した。

「まあ、いうなれば土木工事ばっかりだよ。星の位置を動かしたり回したり……。これが、ちょっとでもずれると大変だからね。今は安定してるけど、ちゃんと監視はしているよ。存在の意味はなんだろうね。私も分からないよ。ただ、そう定められただけって感じかな」

 アルテミスが私の頭を軽く撫でた。

「そっか、スケールが大きいね」

「まあ、人間の感覚だとそうだけど、私たちは当たり前だからね。逆に、人界の単位が細かすぎて、最初は大変だったよ」

 アルテミスが笑った。

「そっか……。大変だねとしかいえないよ」

 私は苦笑した。

「まあ、いいんだけどね。休みが欲しくなるのは事実だよ。だからいったでしょ。この星の人界に降りた神は、ほとんどがバカンスだって。ただの休憩なんだよ。数千年単位だけど」

 アルテミスが笑った。

 飛行機は降下を続け、まだデコボコの滑走路に着陸した。


 飛行機が駐機場に着くと、ステップの場所でスラーダが出迎えてくれた。

「スコーンさん、お疲れ様です。まだ、ほとんど作業が進んでいません。家は綺麗に使っていますので、安心して下さいね」

「うん、そうだと思ったよ。今日は、遊びにきたようなものだから」

 私が笑みを浮かべ、みんながゾロゾロ降りてくると、なんだか身を固くしたマルシルが小さく息を吐いた。

「あら、同族とは珍しいですね。私たちは、なんの偏見もありません。ようこそというのもおかしいですが、普通に接して下さい」

 スラーダが笑みを浮かべ、マルシルに右手を差し出した。

「そ、そうですか。良かったです」

 マルシルは小さく笑みを浮かべ、スラーダの握手に応じた。

「カロンゾ族の方ですね。おおよそ察しが付きます。もし、エルフの里が恋しければ、私の里一同を挙げて大歓迎です。どうですか?」

「えっ?」

 マルシルが目を丸くした。

「固いことはいいません。家に空きもありますし、嫌でなければ第二の故郷にして下さい」

 スラーダが小さく笑うと、マルシルの目に涙が浮かんだ。

「あ、ありがとうございます。正直、辛かったので……」

「はい、私もエルフとして分かります。では、勝手に家を割り振っておきますので、いつでもお出で下さい。スコーンさんなら場所が分かりますので、連れてきて貰って下さい」

「は、はい、ありがとうございます……」

 マルシルは涙を流しながら、笑みを浮かべた。

「そっか、大変だったね。あたしも迂闊だったよ!!」

 リズがマルシルの肩を抱き、小さく笑った。

「ありがとう。嬉しい……」

 マルシルが頷いた。

「こりゃ、次はスラーダの里だね。あのさ、アルテミスって神が同行してるから、お手伝いにちょうどいいと思うよ。あまり、根を詰めないでね」

 私が笑うと、スラーダが驚きの表情を浮かべた。

「そ、そうなんですか。これは、大変な騒ぎになるかもしれませんね」

「うん、お手伝いだけだよ。スコーンが思いついた必要なものなら、これだけで出来るよ」

 アルテミスが指を鳴らした瞬間、一瞬だけ先行が走り、家の近くに立派なシューティング・レンジが出来た。

「も、もう、終わりですか!?」

「うん、この程度なら。なにを作ったかは、この地図をみてね」

 アルテミスが地図をスラーダに渡した。

「なるほど、最低限という感じですね……」

 スラーダが首を横に振った。

「うん、最低限に抑えたよ。スコーン、ごめんね。もうやっちゃった」

 アルテミスが笑った。

「……しゅごい」

 私は思わず目を丸くした。

「まあ、あんまり力を使っちゃマズいんだけど、この程度なら……。まだ日があるし、スコーンと少し歩こうかな。嫌じゃなければだけど、大丈夫?」

「う、うん、大丈夫だよ。ビックリしただけ」

 私は苦笑した。

「それじゃ行こうか。森に細道を作ったから、歩きやすくはなったと思うよ」

「分かった」

 アルテミスが笑みを浮かべて歩き出し、私はそのあとをついていった。


 暗くなった森の中を通る細道に従って、私とアルテミスはゆっくり歩いていった。

「あっ、ログハウス!!」

「うん、ちゃんと灯りもあるでしょ。狭いけど、このくらいがいいかなって思ったんだよ」

 アルテミスが笑った。

「うん、可愛くていいね!!」

 森の中にこぢんまりと建つログハウスをみて、私は笑った。

「そういってもらえると、やる気が出るよ。もうすぐ暗くなるし、手を繋ごうか。離さないでね。夜目は利くから大丈夫」

 私はアルテミスが差し出した右手を握った。

「暗くなると、森の中って怖いね……」

「そうだね。私も狩猟をやるけど、夜は怖いって思うよ。森は邪気を集めるって、神の間っでもいわれていてね」

 アルテミスが、小さく笑い声を漏らした。

「そうなんだ。どこに行くの?」

「うん、せっかく湖を作ったから、そこまで行こうかなってね。その前の分岐を曲がると小さなビーチだけど、どっちがいいか悩んでるんだよね……」

 アルテミスが小首を傾げるのが見えた。

「もう暗いし、近い方でいいんじゃない」

 私がいうと、アルテミスが頷いた。

「そうだね、近い方がいいか。湖は明るい時の方がいいね」

 アルテミスが笑う声が聞こえ、私たちは細道を歩いていった。

 しばらくして、見落としそうな道の分岐がみえ、アルテミスが私の手を引いて曲がると、小さなビーチはすぐそこだった。

「うん、いい感じだね」

 月明かりの下、アルテミスが小さく笑みを浮かべた。

「そうだね、潮の音がいい感じだよ」

 私は笑みを浮かべ、アルテミスの手を離してビーチに腰を下ろした。

「あっ、手を離したね。お仕置きするよ」

 アルテミスが笑って、腰の袋から縄を取り出した。

「ええっ!?」

 慌てて立ち上がろうとした私の頭を、アルテミスが軽く押さえた。

「動かない。いい?」

「わ、分かった……」

 私が小さく息を吐くと、アルテミスは縄で私を後ろ手に縛り、そのまま体を砂浜に横倒しにした。

 それから、私の足をグルグル巻きにして、アルテミスは満足そうな笑みを浮かべた。

「どう、怖くない?」

「う、うん、大丈夫だけど、なにするの?」

 私はモゾモゾ体を動かしながら、アルテミスをみた。

「別に酷い事はしないよ。可愛い子だもん、大事にしないと」

 アルテミスは私の顔の前にしゃがみ込み、笑みを浮かべながら私の顔の前に布きれを取り出した。

「私のいうこと聞けるかな。ちょっと口を開けて、舌を出して、私のサンダルを舐めてくれる?」

 アルテミスは、器用に私の口の前に右足を差し出した。

「う、うん、出来るけど……」

「じゃあ、やって。止めるまでずっとね。どう、獲物の気分は?」

 アルテミスが笑った。

「い、いいけど……なんか怖いな」

 私は小さくため息を吐き、アルテミスのサンダルをそっと舐めた。

「うん、ちゃんということ聞いてくれたね。しばらくそうしていて……」

 アルテミスは、ときどき私の頭を撫でながら、小さく笑った。

 しばらくそうしていると、ふいにアルテミスが私の口に布きれをねじ込み、そっとテープで留めた。

「ありがとう。頑張ってくれたね」

 アルテミスは笑みを浮かべ、私の体に座った。

「怖いよね。声も出せないってこういう事だよ。昔はリズ相手によくやったんだよ。まあ、全敗だったどね。あれで、噛みつくと怖いから、私も必死だったんだよ。精神的に強い神を恐怖させる程だよ。スコーンも気をつけてね。ブチ切れると大変だから」

 アルテミスが笑った。

「一応、体重制限はしてるから重くはないでしょ。さて、徐々に重くしてみようかな」

 アルテミスが笑い、私の体に掛かる重量が増えた。

「しばらく海でも眺めてて、私もそうするから……」

 アルテミスが小さく笑い、さらに重みが増えた。

「調整して体重は六十五キロなんだ。潰れる事はないから安心してね。手を離したスコーンが悪いんだよ」

 アルテミスが小さく笑い、私の頭を撫でた。

 しばらくそのまま無言が続き、アルテミスが軽く私のお尻を叩いた。

「どう、少しは怖くなくなったかな。虐めてるつもりはないから、誤解しないでね」

 アルテミスの言葉に、私は小さく頷いた。

「うん、分かってくれてればいいや。このまま放置して帰るなんて、アホの骨頂な事はしないから、そのままね」

 アルテミスがそっと立ち上がり、私を縛っている縄をさらに追加した。

「どこでこんな癖を覚えたんだか……人界は面白いね」

 アルテミスは軽くサンダルの先で私のお腹を突き、小さく笑った。

「何度もいうけど、私はスコーンが可愛いんだよ。そうなると、ついこうしちゃうんだ。だからって、付き合えなんていわないよ。それは、さすがに横暴だから」

 アルテミスは小さく笑みを浮かべ、私の口に貼ってあったテープをそっと剥がし、布を引き抜いた。

「繰り返しだけど、またサンダルを舐めてくれるかな?」

 アルテミスの声に私は頷き、そっと目の前のサンダルに舌を這わせた。

「うん、ごめんね。どうもこう……嫌でしょ。でも、いいっていうまでやってね」

 アルテミスが笑った。

 しばらくそうしていると、アルテミスがそっと足を引いて、また私の口に布きれを押し込んでテープで留めた。

「どうするかな、このまま朝まで繰り返すかな。まあ、私の気分次第だね」

 アルテミスが笑い、また私の体に腰を下ろした。

「狩猟用にいつも縄くらいは持ち歩いているんだよ。たまにリズやパトラを縛って遊ぶけど、これは新鮮だね。まあ、安心して任せてねとしかいえないな。怖くはないでしょ?」

 アルテミスの問いに、私は小さく頷いた。

「よかった。変な接近の仕方だよね。でも、嫌わないで欲しいな」

 小さく笑ったアルテミスに、私はまた小さく頷いた。

「よし、ならいいや。よし、縄を追加しよう。全身グルグルだね。もう、逃げられない……なんてね」

 アルテミスは再び私の体を足まで縛り、口のテープを剥がして布きれを取り出した。

「今度はいわなくてもいいね?」

 私は頷き目の前に差し出されたアルテミスのサンダルを舐めた。

「うん、覚えたね。それでいいよ」

 アルテミスは満足そうに頷き、腰の袋からベルト状のものを取り出し、私の首に巻いて留めた。

 それに縄を結びつけると、アルテミスは軽く数回縄を引いた。

「今だけは、私の獲物に変更だね。お仕置きはとっくに終わってるから」

 アルテミスは笑い、足を引いて布きれを私の口に入れてまたテープで留めた。

「よし、これでいいや。よっと……」

 アルテミスが私の上に座り、お尻を軽く数回叩いた。

「どう、嫌な感じでしょ。私だったら、暴れるよ」

 アルテミスが小さく笑った。

 しばらくそうしたあと、アルテミスは私の体から降りて、口のテープを剥がして布を引き抜いた。

「どう、小腹が空いたでしょ。晩ご飯あげないとね」

 アルテミスがポケットからスティック状の携帯食を取り出し、私の口そっと差し込んだ。「ゆっくりでいいよ。今日は、これだけかな。それが終わったら、またサンダルを舐めてね」

 私の食べる速度に合わせてスティックを口に入れながら、アルテミスが小さく笑みを浮かべた。

「よし、食べたね。はい、デザート」

 私の顔の前にアルテミスがサンダルを差し出し、私はそれを舐めた。

「今度は長いよ。ちゃんと、時計で計ってるからね。これで、晩ご飯は終わりの意味は分かるよね。結局、ここで夜明けまでやる事にした。今は私の物だしね」

 首輪に付いた縄を軽く引っ張ると、アルテミスは小さく笑った。


 水平線の上に太陽が昇ってくると、アルテミスは小さく笑って私の頭を撫でた。

「よし、長い時間お疲れさま。こんな事に付き合ってもらって、ありがとう」

 アルテミスは口のテープを剥がし布きれを取り出すと、スティック状の携帯食を私の口に差し込んだ。

「お腹空いたでしょ。まあ、ご褒美になるのかな」

 私はゆっくり差し込まれるそれを食べ、アルテミスが笑みを浮かべた。

「さて、解くかな。解いても、まだ動かないでね」

 アルテミスは私の体に巻かれた縄を、ゆっくり外し始めた。

「これ付けてる間は、動いちゃだめだよ。もう一度いったからね」

 アルテミスは笑みを浮かべ、私の首輪の縄を少し強く引いた。

 私が頷くと、アルテミスは小さく笑って、私の縄を解く作業に没頭している様子だった。「久々に、こんなに縄を使ったよ。こりゃ、大変だね」

 アルテミスは時間を掛けて私の縄を解き、全て畳んで腰の袋に収めた。

「よし、動かないね。さて、わざと後ろ手の縄をそのままにしたんだけど、もうしばらく私の物をやってね」

 アルテミスが小さく笑みを浮かべ、首輪の縄を軽く二回引いた。

「まさかと思ったでしょ。私も色々覚えちゃったからね……」

 アルテミスが苦笑した。

「さてと、ずっとこればかりだけど、またサンダル舐めて欲しいかな……」

 アルテミスは私の顔の前に座って足を伸ばし、サンダルを脱いで私の前に足を差し出した。

「なんてね、たまにはこっちがいいでしょ」

 私は黙って、アルテミスの足の裏や甲をそっと舐めた。

「はい、しっかりね。そうじゃないと、終わらないよ」

 アルテミスは笑みを浮かべ、首輪の縄を強く引いた。

 しばらくそうしたあと、アルテミスが足を引っ込め、素早く私の口の中に指を差し込んだ。

「どう、参った? なんてね」

 すぐに指を抜き、アルテミスが笑った。

「さて、すっかり喋らない事に慣れちゃったね。本音聞かせてよ」

 アルテミスが笑った。

「……そ、そりゃ怖かったけど、なにか意味があるって思っていたんだよ。結局、分からなかったけど」

 私は小さく息を吐いた。

「怖いのは当然だね。意味は分からなくていいよ。さて、ついでに這ってみようか。手の縄を解くから、四つん這いになってみて」

 アルテミスが私に残った最後の縄を解き、体を支えて私を四つん這いにした。

「ずっと動けなかったから、かなりしんどいでしょ。解す意味も込めて、私の後をそのまま這ってきて」

 アルテミスが笑い、私の首輪の縄を引いた。

 私は這ってそのまま砂浜を進み、砂浜の中央付近でアルテミスが止まった。

「よし、犬みたいに座ってみるか」

 アルテミスが私の腰を押して、そっと座らせた。

 私の前に立ったアルテミスが笑みを浮かべ、そっと頭を撫でた。

「うん、細かい事は気にしないでいいよ。こういうダメ神だからね!!」

 アルテミスが笑った。

「さてと、人間に戻してあげないとね。よし、これでおしまい。ありがとう」

 アルテミスが私の首輪を外し、私は小さく息を吐いた。

「立てるなら立ってね。違和感があるなら、マッサージするから」

「うん、大丈夫だけど……新鮮だな」

 私は苦笑した。

「でしょ。こればっかリズとパトラにやってたら、すっかり癖になっちゃって困ったもんだよ。はい、水ね」

 アルテミスが水筒を私に寄越し、その中に入っていた水を飲んだ。

「さて、帰ろうか。もう明るいから、大丈夫だと思うよ」

 アルテミスが笑みを浮かべた。

「分かった。あー、疲れた!!」

 私は大きく伸びをして、アルテミスと一緒に森の中の小道に入った。


 ビーチから家に戻ると、エルフの皆さんはもう作業を始めているようで、あちこちから声や機械の音が聞こえていた。

「あれ、どこ行っていたんですか。イートンメスさんとビクトリアスさんが、スコーンを探しにいっていますよ」

 たまたま出会ったルリが、キョトンとして声を掛けてきた。

「まあ、親睦を深めるというか……そんな感じ」

 私は笑った。

「そうですか、朝ごはんが出来ていますよ」

 ルリは笑みを浮かべた。

「分かった」

 私は笑みを浮かべ、アルテミスと家に入った。

 中にはテーブルでモサモサご飯を食べている、マルシルとリズ、パトラがいた。

「なに、アルテミス。ついに、スコーンにもやっちゃったの?」

 リズが爆笑した。

「うん、やっちゃった。可愛かったよ」

 アルテミスが笑った。

「私はなんだか分からなかったよ。あれ、なんなの?」

「うん、分からないならその方がいいよ」

 パトラが吹き出した。

「ったく……。ああ、スコーン。アルテミスに悪気はないからね。どうもこう、不器用っていうか。あたしやパトラは慣れっこだけど!!」

 リズが笑った。

「そうなんだ。さて、ご飯食べようかな」

 私はテーブルに付き、出来たてのエルフ料理を食べはじめた。

「そういえば、リズとパトラ。この前話した時、鼻輪を付けていいっていってたよね。持ってきたから、今やろう」

 上機嫌のアルテミスが、いきなりポケットから大きな輪を取り出し、リズとパトラに鼻輪を付けた。

「ぎゃあ、痛いって。なんで、ここでやるの!?」

「あ、あのさ……」

 叫ぶリズとため息を吐くパトラが、なんか好対照だった。

「……うん、確かに不器用でハードだね」

 私は苦笑した。

「よし、今日はいい日だな。私も食べよう」

 アルテミスが大皿に盛られた料理を食べはじめ、私もせっせと小皿に取って食べはじめた。

「ったく、いい出したのパトラだよ。なんで、あたしまで……」

 鼻を擦りながら、リズがブツブツいい始めた。

「そりゃ、二人でセットだもん。可愛いじゃん!!」

 アルテミスが笑った。

「なにも、ここでやる事ないのに……」

 パトラが苦笑した。

「あ、あの、痛くないですか?」

 マルシルが恐る恐るという感じで聞いた。

「痛いよ、メチャクチャ痛いよ。これで、二回目だったような……覚えてない!!」

 リズが笑った。

「それいわない約束だよ。面白そうだから、私がリズに付けたんだよ」

 パトラが笑った。

「な、なんか、面白いね」

 私は苦笑した。

「ったく、パトラもアルテミスも好き者なんだから。ああ、マルシル。これ、いつもの事だし、絶対に巻き込まないから!!」

 リズが笑った。

「は、はい、面白いといえば面白いですね」

 マルシルが苦笑した。

「それにしても、スコーンにまでやったって事は、気に入っちゃったんだ!!」

 リズが笑った。

「うん、こんな綺麗な魂の持ち主は滅多にいないもん。変な事しちゃってごめんね」

 アルテミスが苦笑した。

「まあ、いいよ。そんなに珍しいんだ」

「うん、綺麗な魂の持ち主って事は、有り体にいっていい人なんだよ。当然、興味を持つよ」

 アルテミスが笑った。

「それは知らなかったよ。まぁ、いつでもどうぞ」

 私は笑った。

「うん、また遊ぼう。さてと、リズとパトラ。お散歩にいこう」

 アルテミスはリズとパトラの鼻輪に鎖をつけ引っ張った。

「イテテ!!」

「わ、分かったよ!!」

 アルテミスが、リズとパトラを引いて外に出ていった。

「痛そうだね、あれは……」

 私は苦笑した。

 残ったマルシルが、小さく笑って私をみた。

「面白いですね。あのリズ先生とパトラ先生が……」

「まあ、色々あるみたいだね。さて、イートンメスとビクトリアスを逆に探さないとね。どこ行ったんだか……」

 私は苦笑して、ポケットの無線機を手に取った。

「おーい、どこいったの?」

『師匠、どこですか?』

「うん、家にいるよ。アルテミスと遊んでたら、朝になっちゃったんだよ」

『そうですか。分かりました、今すぐ家に戻ります』

 イートンメスの声が聞こえ、私は無線機をポケットにしまった。

「マルシル、ここどう思う?」

 私は朝ごはんが終わって、なんだか暇そうにしているマルシルに声を掛けた。

「はい、いいところですね。温かで快適です」

 マルシルが笑みを浮かべた。

「そうだよね、いい場所をもらったよ。なにか、欲しい施設や場所があったら遠慮なくいって」

 私は笑みを浮かべた。

「はい、湖はあるそうなので、ボートなど欲しいですね。魚がいれば、釣りもやりたいです」

「そっか、あとでアルテミスに聞いてみよう。はぁ、なんか眠いかも」

 私は苦笑した。


 家にイートンメスとビクトリアスが帰ってくるのと、アルテミスがリズとパトラを連れて帰ってきたのは、ほぼ同時だった。

「イテテ、いいから外してよ!!」

「うん、面白かった。ありがとう」

 アルテミスがリズとパトラの鼻輪を外し、腰の袋にしまった。

「ったく、なんだって……。パトラのせいだからね!!」

「分かってるよ。どうも、鼻輪が絡むと上手くいかないな……」

 パトラが苦笑した。

「師匠、どこにいたんですか?」

「うん、そこのビーチで遊んでた。それより、心配かけちゃったね。ごめんなさい」

 私はイートンメスとビクトリアスに謝った。

「まあ、いつもの事ですが、せめて行き先くらいは教えて下さいね。朝ごはんがまだなので、とりあえず食べます」

 イートンメスが苦笑して、ビクトリアスと一緒に冷めた朝ごはんを食べはじめた。

「さてと、今度はスコーンだね。一緒に散歩しようか」

 アルテミスが笑った。

「どこいくの?」

 私は苦笑した。

「明るくなったから、湖でもいこうかなって思っているんだけど」

「あっ、湖で思い出したけど、マルシルがボートが欲しいって。魚がいれば、釣りしたいらしいけど……」

 私がいうと、アルテミスが頷いた。

「そのくらい、最初から用意してあるよ。魚も住んでるし、ちゃんとした湖だよ」

「だって、マルシル。よかったね」

 私が笑うと、マルシルが笑みを浮かべた。

「よし、いこうか」

「どんな湖かねぇ。イートンメス、いってくるよ!!」

 アルテミスが先頭に立ち、私は家の外に出た。

「よし、また私の物にしなきゃね」

 アルテミスが私に首輪をした。

「今回は鍵を付けていいかな。ほら、ちゃんと開くから」

 アルテミスが笑みを浮かべ、私の目の前で錠前を鍵で開け閉めしてみせた。

「うん、いいよ」

 私がいうと、アルテミスは首の後ろで首輪に鍵をした。

「うん、これで勝手に逃げられないからね。さて、いこうか」

 私の首輪に縄を付け、アルテミスがそっと引いた。

 森の小道に入ると、これが好きなのか、アルテミスが私の口に布を詰めて、テープで念入りに塞いだ。

「ほら、勝手に鳴けなくなったよ。嫌っていってごらん。なんてね。これで、完全かな」

 アルテミスはさらに私の手を軽く後ろ手で縛り、満足そうに頷いた。

「さて、ゆっくりいこうか。いい陽気だし、気持ちいいでしょ」

 アルテミスが笑い、私たちは森の小道を奥深く進んでいった。

 そこら中で森の開拓作業をやっているようで、派手な機械音が響く中、アルテミスが笑った。

「私が力で退けているから、誰かにバッタリって事はないよ。逆にいえば、誰も助けにこないからね。安全は保証するから、安心してね」

 アルテミスが立ち止まって、笑みを浮かべた。

 私が頷くとアルテミスが軽く首輪の縄を二回引いて、また歩き始めた。

 アルテミスが満足そうに大きく呼吸をしながら歩き、私がそのあとを続くと、視界の先に段々大きな湖が見えてきた。

「うん、我ながらよく出来てるね。スコーンも驚いたかな」

 チョンと縄を引き、アルテミスは笑みを浮かべた。

 そのまま湖畔の木陰に到着すると、アルテミスは縄を木に巻いて留めた。

「そろそろ疲れたでしょ、休憩だよ。そのままでいいから、とにかく座ろう」

 アルテミスが私の体を支え、私は後ろ手に縛られたまま地面に腰を下ろした。

「どう、そろそろなにか喋りたいでしょ。でも、まだだよ。虐めてるつもりはないからね」

 隣に座ったアルテミスが、小さく笑って私の頭を撫でた。

「いいでしょ、この景色。私は好きだな」

 アルテミスが満足そうに景色を見渡した。

「リズはリズで綺麗な魂だし、パトラはパトラで綺麗な魂なんだよ。だから、なんとか近づきたいって思って、結局こういう方法しか思いつかなかったんだよね。変なのは承知なんだけど……」

 アルテミスが苦笑した。

「そうなんだって感じでしょ。スコーンだって、負けてないからね。宝石みたいで綺麗なんだよ。みせられるものなら、みせてあげたいくらいだよ。これからも、なんかやっちゃうかもしれないけど、許してくれる?」

 アルテミスが笑みを浮かべ、私は小さく頷いた。

「じゃあ、これやっちゃおうかな。神語で名前を彫ってあるから、間違える事はないよ。頷いたからには、嫌って言わせないよ。今はいえないけどね」

 アルテミスが小さく笑い、黒光りする鼻輪を取り出した。

 そのまま私の鼻に取り付け、少し強い痛みが走った。

「ごめん、痛かったね。意味があるか分からないけど……」

 その鼻輪に細い紐を通し、アルテミスは縄に結びつけた。

「うん、ますます良くなったよ。さて、少し休んだら立ち上がろう」

 アルテミスはそのまま私に寄りかかり、小さく笑った。

「どうもこう、可愛いとね……自制にも限界があってさ。仲良くなりたいだけなんだよね……」

 アルテミスはしばらくそうしてから、そっと私から離れた。

 木に結びつけた縄を解いて手に持ち、私をそっと立たせると、小さく笑みを浮かべてから歩き始めた。

「一周すると大変だから、適当にね」

 アルテミスと私は湖畔を歩き続け、ほぼ半周したところでまた折り返して歩き始めた。

「結構歩いたけど大丈夫かな。水でも飲もうか」

 アルテミスが足を止め、私の口のテープを剥がして布きれを取り出し、髪の毛を引っ張って私の顔を上に向け、水筒の中身を静かに口に注いだ。

「これでいいかな。おまけ!!」

 アルテミスは、私の口に唾液を垂らして、笑みを浮かべた。

 そのまままた布きれを口に押し込み、テープで留めて満足そうに笑みを浮かべた。

「どう、美味しかった。私が喉が渇いたら、勝手にやるからね」

 同じ水筒の水を飲み、アルテミスが笑った。

「さてと、いこうか。もうすぐお昼だし、戻らないと心配されるからね」

 アルテミスが再び歩き始め、縄を二回引いた。

 私が付いていくと、アルテミスがしばらくして止まった。

「あれ、珍しい果物が自生してるよ。ちょっと待ってて」

 アルテミスが適当な木に縄を結びつけ、森の中に入っていった。

 しばらくして戻ってくると、見たことのない甘い匂いがする果物を片手に、アルテミスが笑顔で戻ってきた。

「お待たせ。名前は忘れたけど、すっごく美味しいんだよ。今、食べさせてあげるから待って」

 アルテミスがボール状の果実を器用に手で割ってから、私の口の布を取った。

「はい、甘いから美味しいよ」

 アルテミスが私の口に果実を入れると、もの凄い甘みが広がって美味しかった。

「はい、たまに喋って!!」

「うん、これ美味しいね。名前がなんだか分からないのが、残念だよ」

 私は苦笑した。

「そうなんだよね。ほら、どんどん食べて」

 アルテミスは私の口に果実を放り込み、自分も食べながら笑みを浮かべた。

「これは、お約束かな」

 全て食べ終わると、アルテミスは私の髪を引いて顔を上に向け、しばらく唾液を口に垂らした。

「うん、これでいいや。はい、またね」

 アルテミスは再び布きれを私の口に入れ、テープで留めた。

「このまま帰るのもったいないけど、また探されちゃうから控えめにしておこうかな。よし、真っ直ぐ帰ろう」

 アルテミスは再び歩き始め、きたときと同じ森の小道に入った。

 そのまま家の近くにくると、アルテミスは足を止めた。

「はい、犬みたいに座ってね。これも、お約束にしよう。終わりのね」

 アルテミスは私の体を支えて座らせ、私の目の前に立った。

 口の布を引き抜き、手の縄を解いたアルテミスは、強めに私の頭をサンダルの隙間から足の甲に押し当て小さく笑った。

「ここだけじゃなくて、サンダルから綺麗に舐めてね。私が満足したら、終わりにするから」

 私がそっと足の甲を舐め始めると、アルテミスは手をそっと退けて、私が舐めるままにして小さく笑った。

 しばらくそうしたあと、アルテミスは首輪の縄を引いた。

「はい、ありがとう。もう満足だよ。ここで終わりにしようか」

 アルテミスは私の首輪の鍵を外し、そっと立たせた。

「これ、痛かったでしょ。ごめんね」

 アルテミスがかるく鼻輪を引いてから、笑みを浮かべて外した。

「はい、お疲れさま」

「うん、新しいことよく考えるね!!」

 私は笑った。

「まあ、これが好きだし、これしか知らないからね……」

 アルテミスが苦笑した。

「よし、帰ろう」

 私がいうとアルテミスが頷き、家に向かって歩いていった。


 家に入ると、パステルとキキがせっせとキッチンで働いていた。

「お帰りなさい。お昼はうどんですよ」

 台に粉をまき散らした上で、生地をガンガン麺棒で伸ばしながら、パステルが笑った。

「また珍しい料理だね。しかも、手打ちなんだ」

 私は笑った。

「はい、うどんはコシが命です!!」

 パステルが笑い、ドガンドガン音を立てながら、豪快に生地を台に叩き付け始めた。

「やっぱり、ワイルドだねぇ」

 私は苦笑して、椅子に腰を下ろした。

「いいね、こういうのも。うどんなんて、久々だよ」

 私の隣に座ったアルテミスが、小さく笑った。

「そうなんだ。私も久々だよ。しかも、好物のカレー味だよ。いいねぇ」

 私は笑った。

「よう、お散歩ご苦労さん!!」

 外からリズが帰ってきて、私の肩を叩いた。

「アルテミス、あたしじゃないんだから、あまりハードな事をしないでよ!!」

「うん、ヤークトティガーだもんね。リズは!!」

 アルテミスが笑い、パトラが窓から部屋に入ってきた蝶を必死になって追いかけていた。「これ、新種かもしれないよ。捕まえなきゃ!!」

 パトラがどったんばったん暴れ回り、私は苦笑した。

「あれ、他のみんなは?」

「はい、ログハウスの具合をみてくると遠征中です。聞いた話だと、もう帰ってくるはずですが……」

 キキが笑みを浮かべた。

「そっか、みんな楽しそうだね」

 私は笑った。

「うん、楽しいよ。新しい仲間が出来たみたいでね」

 アルテミスが私の頭を撫でた。

「仲間か……。リズとパトラになにしてるの?」

「うん、最近はただの睨み合いかな。リズとパトラを縛って並べておいて、私とリズが本気で睨み合うんだよ。リズって仲間を守る時は本気だから、パトラが耐えられなくて泣こうものなら、噛みつく勢いで睨み返してくるんだよね。神だからって、偉ぶるつもりはないけど、あれなら神になれるか掛かっているゼウスの審判でも楽勝だよ。とても、私じゃ勝てないな」

 アルテミスが笑った。

「そうなんだ。また、変わった事やってるね」

「うん、スコーンにはやらないから安心して。平気なのは、リズくらいだって分かってるから。私だって、本気出せば怖いんだぞ」

 アルテミスが笑った。

「そっか、ならやめておくよ。こんな事しなくても、十分だと思うけどな……」

「それが、簡単じゃないんだよ。どうも疑り深くてね、ついこんな事しちゃうんだよ。絶対、嫌われたくないから。だから、スコーンにやったのは賭けだったんだよね。拒絶されるかと思っていたけど、やってよかったよ。不思議な事いってるけど、本心なんだよ」

 アルテミスが苦笑した。

「そっか。まあ、私も不器用だしね。あんまり派手じゃなきゃ、暇な時にいつでもいいよ」

「ありがとう。感謝するよ」

 アルテミスが笑みを浮かべた。

「さて、茹でますよ。もうすぐですからね」

 室内にパステルの声が響き、うどんを茹でる匂いが漂ってきた。


 みんなでお昼ご飯を食べると、眠さに負けてハンモックを組み立て、私は部屋の片隅で午睡を楽しんだ。

 軽く寝るつもりだったが、昨日はビーチで眠れない夜を過ごしたせいか、予想よりしっかり眠ってしまい、起きたらもう夕方だった。

「あれ……」

「師匠、よく寝ていましたよ」

 テーブルでノートパソコンを弄りながら、イートンメスが笑った。

「うん、寝た……はぁ、一日終わっちゃったよ。帰りはいつだっけ?」

「はい、外出期限は明日までです。時間が掛かるので、朝か昼には発たないといけません。大丈夫ですか?」

「分かった、大丈夫だよ……」

 私は眠い目を擦りながらハンモックから下り、テーブルに移動した。

「スコーン、起きましたか」

 ルリが笑みを浮かべながら、近寄ってきた。

「うん、やっと眠気がぶっ飛んだよ。はぁ、寝ちゃったな……」

「そうですね。アルテミスさんに魂を直して貰ったせいか、凄く調子がいいです」

 ルリが笑った。

「そっか、ならいいね。他は誰もいないか……」

 私は苦笑した。

「はい、師匠。どこかにお散歩のようです。特にアルテミスがリズとパトラを連れて、なにやら張り切っていましたが……」

 イートンメスが苦笑した。

「……また、なんかやってるのね。よく飽きないよ」

 私は苦笑した。

 椅子から立ち上がり、私はルリを連れて外に出た。

 夕焼けに染まった空は、どこまでも赤く綺麗だった。

「どっかいく?」

「はい、噂の湖が見たいです」

 笑みを浮かべたルリに頷き、私たちは森の小道に入った。

「どこにあるんですか?」

「うん、この道を真っ直ぐ行った先だよ。そんなに、遠くないよ」

 私は笑みを浮かべた。

「そうですか。楽しみです」

 ルリが小さく笑みを浮かべた。

「まあ、なにもないっていえば、なにもないんだけどね」

 私は苦笑した。

 しばらく歩いていくと、夕焼けから夜闇に変わりつつある空の下に、大きな湖が現れた。

「これはいいですね。風が涼しいです」

 ルリが小さく笑った。

 適当な地面に腰を下ろし、私とルリは並んで座って、夕焼けを眺めていた。

「さて、他になに作ろうかな……」

「はい、釣り堀では退屈ですし、どうしましょうね……」

 なんとなくぼへぇっとルリと会話していると、森の茂みがガサガサ動いてアルテミスがやってきた。

「あっ、いた。探していたんだよ。植生が面白いから、一緒に探索しようと思って」

 アルテミスが笑った。

「それで、森の中から出てきたんだね。誰かと思ったよ」

 私が苦笑すると、アルテミスが私の背後にきて首輪をして鍵をかけ、ルリにも首輪をして鍵を掛けてから、お互いを縄で繋いだ。

「あ、あの……」

 ルリが戸惑った声を上げた。

「ああ、大丈夫だよ。こういうのが好きなんだって!!」

 私は笑った。

「うん、あまりにもお似合いだったから、くっつけてみたよ。ルリは嫌かな?」

 アルテミスが笑った。

「いえ、嫌な気持ちにはなりませんが、いきなりだったもので……」

 ルリが苦笑した。

「よしよし、ならいいや。さてと、ルリの魂が濁りすぎて、気になっていたんだよ。恐らく、無理やり魂を入れられたね。そんなことしたら、もう真っ黒になっちゃうんだ。浄化しないと、肉体によくないよ」

 アルテミスが笑みを浮かべ、フィンガースナップをした。

 ルリの体が光に包まれ、すぐに消えた。

「これでいいね。元はいい魂を持ってるよ。しっかり肉体に定着したから、どこか調子が悪かった箇所も治っているはずだよ」

 アルテミスが笑みを浮かべた。

「そういえば、急に体が軽くなりました。そういう事だったのですね。ありがとうございます」

 ルリが笑みを浮かべた。

「うん、これでいいね。さてと、二人とも捕まえたよ。こうしておこう」

 アルテミスが縄を取り出し、私とルリの腕と片足をくっつけるように、きつめに縛った。

「あの、どうしました?」

 ルリが不思議そうに聞いた。

「うん、ただのお遊びだって。どうかな?」

 アルテミスが笑って、私とルリの頭を撫でた。

「ちょうど話し相手がいなくてさ。これで逃げられないし、私が満足するまで二人には付き合ってもらうよ。もう暗くなるけど、夜道は案内するから安心して」

 アルテミスが私の隣に座り、小さく笑った。


 アルテミスと話しているうちに夜になり、湖畔を渡る風は涼しくなった。

「よし、もういいかな。二人ともありがとう」

 アルテミスは私とルリの首輪を外し、腕と足の縄を解いた。

「うん、この程度ならいつでも」

「はい、色々勉強になりました」

 私とルリは小さく笑みを浮かべた。

「さて、私が先導するよ。暗いから気をつけて」

 アルテミスが小さく笑い、私たちは森の小道に入った。

 真っ暗な森を抜けると程なく家に到着し、私たちは中に入った。

「おっ、帰ってきた!!」

 椅子に座っていたリズが、声を掛けてきた。

「うん、森林浴っぽい事してた」

「嘘コケ、アルテミスがいてそれはない!!」

 リズが笑った。

「私だって、いつでもやってるわけじゃないよ。二人と雑談していただけだよ」

 アルテミスが笑った。

「どうだか……。さてと、そろそろ晩メシ作るかな。もっとも、当番はパトラだけど!!」

 リズが笑った時、虫かごに入れた蝶をつぶさに観察していたパトラが立ち上がった。

「そっか、もうそんな時間か。この蝶はやっぱり新種だったよ。研究しよう」

 パトラが笑い、キッチンに向かっていった。

「まあ、あたしもアルテミスも料理がダメでさ。スコーンとルリは?」

「……私はダメ」

 私は苦笑した。

「私は出来ます。手伝ってきますね」

 ルリが笑みを浮かべ、キッチンにパトラと並んだ。

「そういえば、みんなどこにいったんだろ……」

 私が呟いた時、家の扉が開いて、エルフの皆様と同時にみんなが帰ってきた。

「師匠、お酒飲みましょう!!」

 イートンメスが元気に叫んだ。

「やれやれ、お酒ね……」

 私は苦笑して、イートンメスの晩酌に付き合う事にした。

「師匠、これビンテージものですよ。どこにあったのやら」

 イートンメスがキッチンからワインクーラを取り出し、氷を一杯に詰めてボトルを置いて、冷やし始めた。

「うーん、ビンテージものは苦手なんだよね。なんか、渋くて……」

 私は苦笑した。

「それがいいんですよ。あとは、チーズとか……」

 イートンメスが冷蔵庫を開け、せっせとテーブルにおつまみを並べ始めた。

「あっ、スモークチーズなんてあったの?」

「はい、エルフの皆さんが燻製にしたものです。美味しいですよ」

 イートンメスが笑った。

「へぇ、そんな事やってたんだ。美味しそうだね」

 私は笑った。

「はい、師匠。試食してみましたが、いい感じでしたよ」

 イートンメスが笑った。

「さて、ワインが冷えるまで他のお酒を飲みましょう。缶ビールがあったような……」

 イートンメスが冷蔵庫から、大量の缶ビールを取り出してきた。

「相変わらず、豪快に飲むねぇ。一本ちょうだい」

 私はイートンメスが持ってきた缶ビールを一本取り、プルトップを開けた。

「では、乾杯!!」

 イートンメスが上機嫌でプルトップを開け、私の缶にぶつけた。

「はぁ、よく冷えてるねぇ」

 私はタバコケースを取り出し、一本咥えて火を付けた。

「はい、いい感じです。これがないと、生きている気がしません」

 イートンメスが笑った。

「おう、やってるね!!」

 リズがパトラとやってきて、煙草を吸いながら小さく笑った。

「うん、一本どう?」

 私はリズとパトラに缶ビールを渡した。

「よし、飲もうか。冷えてていいねぇ。カリーナの寮には、冷蔵庫がないからなぁ」

「うん、なぜか電子レンジはあるけどね!!」

 リズとパトラが笑った。

「あのさ、部屋の電子レンジがぶっ壊れてるんだけど、誰にいったら直してくれるの?」

「ん、あたしでいいよ。修理交換の手続きしておくから!!」

 リズが笑った。

「そっか、ありがとう」

「うん、なにか困った事があったらいって。それほど遠い部屋じゃないし、内線もあるしね」

 リズが缶ビールを煽った。

「うん、頼りにするよ。ビクトリアスに頼もうかと思ったけど、なんか悪いしね」

 私は笑った。

「そっか、どのみちビクトリアスに依頼を出すんだけどね。アイツ、万調達屋だから普通に買うより安いって、カリーナ御用達なんだよ。知らなかった?」

 リズが笑った。

「へぇ、そうなんだ。私の助手以外にも、仕事があったんだね」

「うん、イートンメスだって、よく護衛の仕事を任されているよ。そうだ、イートンメス。今度一緒に仕事しない?」

 リズが笑った。

「え、えっと、現役プロと仕事ですか。それはちょっと……」

「ん、ちょっとスポッターをやって欲しいんだよ。一人じゃ大変なんだ。いいかな?」

 リズが笑みを浮かべた。

「は、はい、いいですけど……役にたてるかな。スポッター経験があまりなくて」

 イートンメスが苦笑した。

「大丈夫でしょ、プロ時代の成績は知ってる。問題ないって判断したよ。パトラじゃ役に立たなくてね。近接戦闘専門だから!!」

 リズが笑った。

「そ、そうですか……師匠、いいですか?」

「うん、仕事があるならやりなよ。その代わり、死なないでね!!」

 私は笑った。

「よし決まった。報酬は山分けでこれ」

 リズが小切手をイートンメスに差し出し、それを受け取ったイートンメスの顔色が悪くなった。

「こ、こんなに……。よほどの大物ですか?」

「うん、それなりにね。王都で邪魔なヤツなんだけど、ついに先生がブチ切れてね。まあ、そんな感じで。経験者が欲しかったんだよ」

 リズが笑った。

「それ、こんな場所で大っぴらに話して大丈夫なんですか。必要な装備を教えて下さい。ビクトリアスに調達させますので」

「うん、さっきメモをイートンメスの鞄に差し込んでおいたよ。まあ、せいぜい車くらいなんだけどね!!」

 リズが笑った。

「分かりました。師匠、これは大事ですよ。でも、今は飲みます!!」

 イートンメスが笑って、二本目のビールを開けた。

「まあ、怪我しないようにね。それにしても、予想外の事だね。イートンメスの過去は少し知ってるけど、リズは分からないよ」

「そりゃそうだよ。こうみえても現役だもん。せっせと情報を隠してるよ。実はパトラもやり手なんだぞ!!」

 リズが笑って、パトラの肩を叩いた。

「へぇ、教わりたいな……」

「うん、いいけど大変だよ。護身程度なら、パトラに聞くといいよ」

 リズが笑った。

「そっか、パトラに聞けばいいんだね。今度、教えて!!」

「うん、いいよ。まあ、軽く身を守る程度ならね。イートンメスに聞けばいいのに!!」

 パトラが笑った。

「だって、イートンメスってすぐにぶん殴るし怖いもん。パトラなら、なんか優しそうだし……」

 私がいうと、パトラが笑った。

「それはどうかな。後悔しても知らないよ!!」

 パトラが笑った。

「師匠、いつぶん殴りましたか。私はそんなこと……したかも」

 イートンメスが小さく息を吐いた。

「うん、私が覚えないと、すぐブチ切れてぶん投げるしぶん殴るし……。酷いよ!!」

 私は笑った。

「アハハ、イートンメスらしいね。狙撃手がブチ切れたらダメだよ!!」

 リズが二本目を開け、大きく笑った。

「あの、混ざっていいですか……」

 スラーダと話していたマルシルが、そっと私たちの輪に加わった。

「うん、いいよ!!」

 リズが缶ビールをマルシルに手渡した。

「お酒は苦手な方ですが、これなら大丈夫です。スラーダさんの里に正式に家を頂きました。これも、皆さんのお陰です」

 マルシルが笑みを浮かべた。

「そっか、よかったじゃん。エルフの事は知ってるようで知らないけど、なにやっちゃったの?」

 私が聞くと、マルシルが苦笑した。

「はい、こう見えて冒険好きでして、里から無断で出てはいけないという掟を度重なって破った咎で、ついに追い出されてしまったのです。あとは大変でしたが、なんとか今の状態になったのです。自分でいったら世話ないですが、それなりに苦労したんですよ」

 マルシルが笑った。

「へぇ、冒険好きならパステルと話が合うかもね。中等科でしょ、これからが大変だよ」

 私は笑みを浮かべた。

「うん、そうだね。やっと、座学が一段落して実習だもんね。間違っても、魔法を暴走させないように!!」

 リズが笑った。

「はい、気をつけます。それにしても、賑やかですね。エルフは人が集まると、すぐに宴を開くんですよ。意外と、明るい面もあるのです」

 マルシルが笑った。

「うん、そうみたいだね。聞いてた話と違うよ!!」

 私は笑った。

「スコーン、エルフは怖いからね。あたしなんて、初等科だったか中等科だった頃に、とっ捕まってエラい目に遭ったんだから。油断しちゃダメだし、里には近づかない方がいいよ。地図に書いてあるし、街道を移動するなら問題ないけど」

 リズが苦笑した。

「そうなんだ。みんなスラーダの里みたいなところじゃないんだね」

「あれは例外だよ。ほとんどがダメだからね!!」

 リズが子リズ縫い包みを、私の頭に乗せた。

「そっか、気をつけよう……」

「師匠、間違っても踏み込まないで下さいね。エルフの里となると、私やビクトリアスだけでは救出できません。カリーナ中が大騒ぎになってしまいますので」

 イートンメスが笑った。

「うん、覚えておく。それにしても、このスモークチーズ美味しいね!!」

 私はチーズを食べ、小さく笑った。


 晩ご飯を食べてエルフの皆さんが宴もたけなわという頃、どこにいっていたのか、アルテミスが家に入ってきた。

「おや、楽しんでるみたいだね。いいことだよ」

 私の元にきたアルテミスが、小さく笑った。

「うん、なんか飲む?」

「私はいいよ、人界のお酒は口に合わなくてね。それより、夜も更けちゃったね。寝なくて大丈夫なの?」

 アルテミスが、心配そうに聞いてきた。

「うん、まだ平気だよ。変な時間に寝ちゃったしね」

 私は笑った。

「よし、それじゃ少し歩こうよ。ここは、人が多すぎてちょっと辛いから」

 アルテミスが笑みを浮かべた。

「うん、いいよ」

 私は飲みかけの缶ビールを一気に飲み干し、アルテミスが差し出した手を握った。

「うん、みんなが寝るまでね。スコーンはお酒飲んじゃってるし、ほとんどなにもしないよ」

 私は頷き、アルテミスと一緒に家を出た。

「まあ、これは付けておこうか」

 アルテミスが私に首輪を付けて鍵で留め、繋いだ縄を握って笑みを浮かべた。

「よし、いこうか」

 アルテミスが歩き出し、私はそのあとを付いていった。

「この島を気に入ったよ。自然が豊富だし、散歩するにはちょうどいいな」

 アルテミスが足を止め、空に昇っている月を指さした。

「私はアレの管理者みたいなもんだよ。ここにいると嘘くさいけど、たまにあっちに戻って調整しているんだ。結構、大変なんだよ。あんな大きいのに、ミクロン単位の調整だよ。もう、ヘトヘトになっちゃってね」

 アルテミスが笑い、私を後ろ手に縛った。

「吐いちゃうとマズいから、口にはなにも詰めないよ。気分悪かったら、すぐに解くからいってね」

 私が頷くと、アルテミスは私の頭を撫でた。

「うん、正直にいうよ。今狙ってる獲物はリズなんだけど、これが難しくてね。パトラとセットだと、もっと可愛くなるんだよ。みせたいけど、内緒だって約束だからダメなんだ」

 アルテミスが笑った。

「そうなんだ」

 私の口から思わず言葉が出た。

「うん、でもどうにも距離が縮まらなくてね。悩みの一つなんだけど、こんな変な手段だからかなって思うよ。でも、手紙一つ書けないし、どうしたもんだか」

「そっか。でも、今のリズはマルシルの直球勝負を受け止めたよ。だから、邪魔しないようにしないと……」

 私は苦笑した。

「うん、分かってる。だから、むしろ応援してるんだよ。今はスコーンに遊んでもらうだけで、十分満足だよ。本当にありがとう」

 アルテミスが小さく笑った。

「そっか、役に立てるなら付き合うよ。できる限りだけど」

 私は笑みを浮かべた。

「うん、感謝してるよ。これ付けよう、せっかくだから」

 アルテミスは笑みを浮かべ、私に鼻輪を付けた。

「うん、いいね。これはこれで可愛いんだけどな。狙いはずらさない主義だからね」

「それはそれでいいと思うけど……」

 私は苦笑した。

「うん、ちょっと考えたんだけど、ずっと頑張ってもらってるリズやパトラに申し訳ないし、スコーンはスコーンで可愛がりたくなってね。あくまでも、お遊びだけどこれで真面目だからね」

 アルテミスが笑った。

「それならそれでいいよ。最初はなんだってビックリしたけど、ちょっと慣れたかな」

 私は笑った。

「ならよかった。さてと、少し歩こう」

 縄を引っ張って、アルテミスが森の小道を歩き始めた。

 そのまましばらく進み、小道を抜けるとそこは一面の草原だった。

「昼間見つけたんだよ。私も気が付かなかったけど、ここは夜くると涼しくていいんだよ。さっきまで、ここでぼんやりしていたんだ」

 アルテミスが笑い、私の体をそっと支えて地面に座らせた。

 その隣に座ったアルテミスが、私の鼻輪を突いて笑みを浮かべた。

「そっか、落ち着いていいところだね」

「うん、気に入ったよ」

 アルテミスがチョンと縄を引き、私の髪の毛を引っ張って顔を上に向けた。

「はい、こうやったら、できる限り口を開けてね」

 私が口を開けると、アルテミスが唾液を数滴垂らした。

「これが、私の味だよ。覚えておいてね、寂しくなるから」

 アルテミスが笑った。

「さてと、こうなったらやっておくか……」

 アルテミスが立ち上がり、スカートをたくし上げるようにして下着を脱いだ。

「味といえばこっちも。もうどれだけ換えてないか分からないよ。私たち神は、そんなに汚さないから」

 アルテミスが下着をそっと私の口に押し込み、手で顎を押して噛ませた。

「ちょっとは滲んでるかな。まあ、なにかのおやつだと思って、そのまま噛んでいてね。様子はみてるから、明らかに気持ち悪そうだったら、急いで抜くから留めないよ」

 アルテミスが私の髪の毛から手を離し、そっと整えて笑った。

「それにしても、いい夜だな。月の神だから、月光が好きなんだよ。人間の体にもいいらしいよ。たっぷり浴びて帰ろう」

 アルテミスは小さく笑った。

 しばらくして、アルテミスは私の口から下着を抜き取り、それを自分の服のポケットに放り込んだ。

「どう、美味しかったらいいな。リズやパトラと違った可愛さがあるんだよね。誰が一番なんて無粋な事はいわないけど、泣いちゃったパトラも可愛いんだよ。想像できないだろうけど、結構臆病でさ。私が真面目に睨むと、体が固まっちゃうんだよ。そのまま泣いたら、リズが殺気だって怖いのなんの。まあ、それが楽しいんだけど」

 アルテミスが笑った。

「そ、そうなんだ……」

 私は苦笑した。

「うん、リズとパトラは間違いなくベスト・パートナーだよ。なんだって出来るかもしれないね。もっと仲良くなりたいし、スコーンも仲良くなっておいて損はないよ。もちろん、これはスコーンにも当てはまるんだよ。私はもっと仲良くなりたいし、スコーンはどうかな?」

「うん、面白いし優しいから、私も仲良しになりたいね。まだ、なにも知らないに等しいから」

 私は苦笑した。

「私は優しいだけじゃないぞ。神は時に冷酷で厳しいってね。まあ、スコーンにはやらないから安心して任せて。意地の張り合いは、リズで事足りてるから」

 アルテミスが笑った。

「それは怖いね。そっか、ベスト・パートナーか。私とイートンメスみたいなものかな。向こうはどう思ってるか分からないけど、私は助手に迎えてから頼り切りだよ。一人じゃ、なにも出来ないから」

 私は苦笑した。

「そういう関係もいいかもね。もし、なにか困ったら私にも相談してよ。人界では神の力は派手に使えないし、なにも出来ないかもしれないけど、ないよりはマシでしょ?」

 アルテミスは笑みを浮かべ、私の口に指差し込んで掻き回した。

「うん、いいね。大体、暇な時はリズの研究室で暇つぶししてるから、なんかあったら呼んでね。遊びたくなったら、私の方からいくよ。暇だったら、相手してね」

「うん、分かった」

 私が頷くと、アルテミスが立ち上がって私の体を横倒しにして、縄を出して足首で一つに縛った。

「こればっかりだけど、ここの味もちゃんと教えて覚えてもらいたいんだ。やる事は分かるよね」

 アルテミスは私の顔の前に履いたままのサンダルを差し出した。

 私がそれを舐め始めると、アルテミスは小さく笑った。

「ちゃんと丁寧にやってね。泥臭いかもしれないけど、ちゃんとね」

 アルテミスが満足そうな声をだし、私はひたすら舐め続けた。

 しばらくすると、アルテミスはサンダルを脱いで素足を私の前に差し出した。

「味を変えるよ。私はこっちの方がいいんだけど、ついでだから全部覚えて貰おうって思ったんだよ。美味しかったらいいな」

 アルテミスが笑い、私はアルテミスの足を舐めた。

「段々迷いがなくなってきたね。慣れてきたかな。こればっかりでごめんね。あまりキツい事は、やりたくないんだよ」

 私がしばらく足を舐めていると、アルテミスはそっと足を引いて頭を優しく撫でた。

「さてと、ここではこれでいいかな。もう遅いし、帰ろうか。起こすよ」

 アルテミスが私の足の縄を解き、ゆっくり座らせた。

「もう慣れたみたいだし、首輪にも鍵を掛けてあるし、勝手に逃げちゃう事もないか……」

 アルテミスは呟き、私の手の縄を解いた。

「あとは帰るだけね。おいで」

 アルテミスが笑って縄を引き、私たちはきた道を引き返した。

 そのまま小道を進み、家が見えてくると、アルテミスは立ち止まって私の方を振り向いた。

「さて、終わりの挨拶をしようか。今は手の縄もないし、四つん這いになってね」

 私がいわれた通りにすると、アルテミスはサンダルを脱いで、素足を私の口の下に置いた。

「うん、もう分かるよね?」

 私が黙って足を舐め始めると、アルテミスが小さく笑った。

「さて、これでいいや。ありがとう、疲れたかな」

 アルテミスがサンダルを履き、四つん這いの私をそっと起こして首輪の縄を軽く引いた。

「よし、自由の身だよ」

 アルテミスが首輪の鍵を外し、私の首輪を取ると笑みを浮かべた。

 私は立ち上がり、小さく笑った。

「なに、私はアルテミスの犬なの?」

「とんでもないよ、ちゃんとスコーンは人間だって見てるから安心して。最後にこれだね」

 アルテミスは私の髪の毛を引っ張って顔を上向きにして、開けた口の中に唾液をしばらく垂らし続けた。

「うん、満足。いいね」

 アルテミスは笑い、私の肩を叩いた。

「よしよし、帰ろう。明日は早いんでしょ。ちゃんと寝ないとね」

 私とアルテミスは、そのまま静かに家に帰った。


 家に帰ると、エルフの皆さんもほとんどハンモックで就寝し、アルテミスはパトラを抱き枕にして、器用に寝ているリズの元に行った。

 そして、小さく笑みを浮かべると、いきなりリズに鼻輪を付けて引っ張った。

「い、イデデ!?」

 抱いていたパトラを放り出し、リズがガバッと身を起こした。

「ん……」

 寝ぼけたパトラが私に抱きつき、器用に立ったまま寝てしまった。

「こ、困るよ!?」

「あれ、大変だね。パトラは寝起きが悪いから。これはこれで、仲良しだね」

 アルテミスが笑った。

「こら、アルテミス。なにすんの!!」

 リズの怒号が響いた。

「うん、不意打ちは今に始まった事じゃないでしょ。パトラがスコーンにへばりついちゃったよ」

「そりゃ、あんたのせいでしょ。痛いって!!」

 ジタバタするリズの鼻輪を引っ張り、アルテミスは無理やり家の外に出ていった。

「……こ、こんな夜中に、げ、元気だね。さすが、月の神だよ」

 私は小さくため息を吐き、抱きついたまま寝息を立てているパトラを倒さないように、そっと抱きしめた。

「これは、どうしたものか……」

 困り果てた私だったが、相談しようにも誰も起きていなかったので、私は開いているハンモックに向かった。

 パトラを丁寧に寝かせようとしたが、どうやっても私にしがみついて離そうとしなかった。

「こ、困ったな……一緒に寝るのは、なんか恥ずかしいし」

 私はため息を吐き、しょうがないのでパトラと一緒にハンモックに横になった。

「はぁ、これどうしようかな。パトラって、起きないタイプなんだね」

 私が苦笑すると、パトラは寝息を立てながら笑みを浮かべ、私を強く抱きしめた。

「……リズ、どっかいっちゃ嫌だよ」

 パトラがちょっと涙を流した。

「……うわ、厳しいよ。これ、過去に相当な修羅場を潜ってるね。起こすにも起きないし、無理やりも可哀想だな」

 私は頭を掻き、小さく息を吐いた。

 パトラはそのままスヤスヤ寝てしまい、私はひたすら困っていたが、程なく睡魔がやってきた。

「パトラ、起きてよ……」

 最後に起こしてみたが、パトラはより強く抱きしめるだけで、全然起きる気配がなかった。

「そういえば、パトラとリズって学生の頃から一緒の部屋だって聞いたな。いつも、こうだったのかな。可愛いっていえば可愛いけど、私は困ったよ」

 思わず苦笑して、そっと目を閉じた。


 狭い中無理やり寝ていると、私の体の上に乗っかっていたパトラがモソモソ動いた。

「あ、あれ……リズはどこ行った?」

「あのね、アルテミスにどっか連れていかれたよ。私にしがみついても、潰れちゃうよ」

 私は目を開けて、思わず苦笑した。

 頭をガリガリ掻いたパトラが眠そうに目を開け、また私に抱きついた。

「それなら、今日はこっち!!」

「ぬわ!?」

 パトラが小さく笑い、私の体に顔を擦り付けた。

「なに、一人で寝るの怖いの?」

「うん、昔酷い目に遭って、リズに助けられたんだよ。あのリズが私の作った毒薬まで容赦なく使って、お母さんも一緒に救ってくれたんだ。それ以来、独り寝が怖くなっちゃって、大体リズのベッドに潜り込んでいるんだよ。こんな大きくなって、なんか恥ずかしい話なんだけどね」

 パトラが笑った。

「そ、そうなの。あのリズが!?」

「うん、リズはやる時はちゃんとやってくれるんだよ。こんな心強い味方はないかな。すっかり甘えてるけど、怖いものは怖いんだよ」

 パトラが苦笑した。

「そ、そんな過去が……大変だったの?」

「うん、その件から数日はリズがあまり喋らなくなっちゃってね。まあ、切り替えてくれたからいいけどさ。今はプロやってるけど、あの当時は虫も殺せないような感じだったんだよね。悪い事したなって、私も落ち込んでいたよ」

 パトラが苦笑した。

「そっか、色々あったんだね。私には分からないけど、そんなに強くないよ」

 私は苦笑した。

「そんな事ないよ。私はこれでも、人見る目があるつもりだからね。もし、同室のルリや大事なイートンメスなんかの助手が窮地に陥ったら、例えB-52爆撃機を無理やり敵陣に突っ込ませてでも、絶対に助けにいくはずだよ。違う?」

 パトラが心地よさそうに、私のお腹に顔を埋めた。

「そ、そうかな……まあ、やるとは思うけどね。爆撃機はさすがにないとは思うけど」

 私は苦笑した。

「うん、絶対にやるよ。だから、みんなに頼られると思うよ。頼ったりもするだろうけど、そこはそれだよ」

 パトラが私のお腹に顔を埋めたまま、そっと目を閉じた。

「な、なんか、エラい高評価だね。そうかなぁ……」

 私はちょうどいい位置にあった、パトラの頭を撫でた。

「うん、いい感じ。おやすみ、私はビビりで甘ったれなんだよ」

 パトラは私のお腹に顔を埋めたまま、そっと目を閉じた。

「び、イートンメス、ヘルプ!!」

 ……しかし、私の声は虚しく、全く返事はなかった。

「ちょっと、参ったね。これは、どうしていいか……」

 とりあえず、なんか満足している様子のパトラの長い髪の毛を撫でながら、私は小さくため息を吐いた。

「イテテ……。あれ、パトラがそっちいっちゃったの?」

 しばらくして、鼻をスリスリさすりながら、リズが戻ってきて苦笑した。

「うん、困ってるんだよ。なんか、寝ながら泣いちゃったし、どうしていいか……」

「ああ、いつもの事だよ。いつの間にかあたしのベッドに潜り込んで、勝手にへばりついて甘ったれるのは。スコーンにまで懐いちゃったか」

 リズが苦笑して、パトラの肩に手を置いた。

「これ起こすの大変なんだよね。起きるかな……」

 リズはパトラを激しく揺さぶったが、パトラは全く起きる気配がなかった。

「ほら、起きない。困ったね、いっそ攻撃魔法でもぶち込んでみる?」

 リズが笑った。

「こんな人だったんだね。いつもちゃんとしてるから、全く想像も出来なかったよ」

 私は苦笑した。

「うん、意外と脆いというかなんというか……。ちょっと気合いが抜けると、すぐこれだもん。あたしも困っているんだけど、なかなか邪険にできなくてさ」

 リズがまた肩を揺さぶったが、やはりパトラは起きなかった。

「こりゃ、無理に引っぺがすのは難しいね。まあ、嫌かもしれないけど、一晩面倒みてよ。なんか奢るから!!」

 リズが笑い、自分のハンモックに戻っていった。

「嫌じゃないけどね。困ったな……」

 私はため息を吐き、そっと目を閉じた。


 朝になると、私はパトラにそっと起こされた。

「ごめんね、ありがとう!!」

 私の上に乗っかっていたパトラが笑みを浮かべ、そのままハンモックから下りていった。

「うーん、寝不足だよ。リズはよく平気だねぇ」

 私は大あくびをして、ハンモックから下りた。

「師匠、なかなか面白い光景を目にしました」

 イートンメスが笑って近寄ってきた。

「みてたら助けてよ。いきなり甘えられても困る!!」

 私は苦笑して、伸びをした。

「あまりにも仲がいい感じだったので。では、朝食の支度をしましょう。パステルとキキが準備しています」

 イートンメスが笑った。

「それで、今日帰るんだって?」

「はい。夕方にかけてカリーナ周辺の天気が荒れるようなので、朝早い出発の方がいいでしょう。朝食を終えたら、すぐに撤収しましょう」

 イートンメスが頷いた。

「分かった。まあ、この調子なら島も早く完成するかな……」

 私は笑った。

「はい、もうなんとなく形になっていますしね。しばらく、待って下さい」

 イートンメスがテーブルを拭き始め、私はそのまま家から出た。

「さて、たまには一人で歩くかな……」

 私は朝靄のかかる中を歩き、森の小道に入った。

「こうしてみると、凄いね……」

 靄の間から見える大木を眺めながら、私は湖方面に向けて歩いていった。

 しばらくすると、背後から抱きしめられて、私は足を止めた。

 すかさず、首輪が付けられ、カチッと鍵が掛かる音がした。

「よし、捕まえたぞ。神の睡眠って短いんだよ。じゃないと、星なんか守れないからね。暇していたら、ようやく獲物を発見したよ」

 アルテミスが首輪の縄を引き、小さく笑みを浮かべた。

「さてと……」

 アルテミスがポケットから昨日の下着を出して、私の口に押し込みさらに布きれで一杯にして、頑丈にテープで留めた。

 そして、いつも通り私を後ろ手に縛ると、そっと頭を撫でた。

「その下着はスコーンにあげるよ。いつでも食べさせてあげるから、一度綺麗に洗濯してずっと履いてまた食べさせてあげるよ。ずっと、その繰り返し。うん、これだけ布を詰めたら、ロクに声なんか出ないでしょ」

 アルテミスが笑った。

「朝の散歩なんていい気分だね。いこうか」

 首輪の縄を引いて、アルテミスが歩き始めた。

「これだけやったら、もう少しは慣れたかもね。私の事も少しは信用してくれているみたいだし、やっぱり可愛いね」

 アルテミスが首輪の縄を強く引いて私を自分に引き寄せると、そのまま優しく抱き留めた。

「よしよし、いい子だね」

 アルテミスが私の頭を撫で、小さく笑った。

「時間もないし、近場のビーチまで行こうか。この朝靄だと、私でも迷いそうだよ」

 アルテミスは私を少し離し、まるで背中にくっつくようなギリギリの長さで縄を持つと、そのまま歩いていった。

 森の小道を抜けビーチに辿り着くと、アルテミスは砂浜に転がっていた流木に縄を結びつけ、いきなり脱ぎ始めた。

「まあ、神でも洗浄は必要なんだ。たまにだけど、ちゃんと汚れを落とさないといけない

から待ってて」

 アルテミスは、海に飛び込んで泳ぎ始めた。

 しばらくその姿をみていると、アルテミスが笑って海から出てきた。

「まだ海が冷たい時間だね。でも、スッキリしたよ」

 アルテミスが笑みを浮かべ、脱いだ服の傍らにあった袋からタオルを取り出し、体を拭き始めた。

「いきなり脱いじゃってビックリしたかな。まあ、別にみられてもいいんだけど、私も一応女の子だからさ」

 アルテミスが笑みを浮かべ、すぐに服を着込んだ。

「これでいいか。スコーン、お待たせ」

 アルテミスが流木に繋いであった縄を解き、小さく笑った。

「どうにもスコーンには似合わないって思ったんだけど、一応あるから付けておこう」

 アルテミスが、私に鼻輪を付けた。

「よしよし、おいで」

 アルテミスが縄を引き、私が付いていくと、アルテミスは砂浜の真ん中辺りで止まった。

「さすがに貸し切りだね。ちょっと座ろうか」

 アルテミスが私の体を支えて砂浜に横倒しにして、足首を一つにしてきっちり縛った。 その体の上に座り、アルテミスは小さく笑みを浮かべた。

「これも慣れてね。砂浜限定でやるから、そんなに汚れないでしょ」

 アルテミスが笑い、しばらく海を眺めた。

「気分はどうかな。嫌じゃなきゃいいけど……」

 アルテミスがお尻をグリグリ動かして笑った。

 しばらくそうしていると、足音が聞こえた。

「あれ、アルテミス。朝から元気だね!!」

「あっ、やっぱりやってた」

 リズとパトラの笑い声が聞こえた。

「あれ、きちゃったの。困ったなぁ」

 アルテミスが小さく笑った。

「よし、スコーン。悪いけど、ちょっと待ってて。まず、この二人と戦わないといけないから。リズが怖いんだよねぇ」

 アルテミスが苦笑して、慣れた様子で二人並んだリズとパトラを縛って砂浜に正座させた。

「今日こそは、リズが泣くかな」

 アルテミスが笑った。

「まだ甘いね!!」

 リズが堂々と答えた。

 瞬間、アルテミスが放つ空気が鋭くなった。

 その表情は見えなかったが、正直いってもの凄く怖かった。

「や、やっぱり怖い……」

 しばらくして、パトラが俯いて涙を流し始めた。

 瞬間、リズが真顔になって、鋭い眼光を飛ばした。

「おっ、やっぱきた。この援護射撃視線が怖いんだよ。ちょっと待って、そんなに殺気を放たないでよ!!」

 堪らない様子でアルテミスの体が震えた。

「なに、まだやる?」

 リズが勝ち誇ったような表情を浮かべ、もの凄い殺気を放ってぶっちゃけどっちも怖かった。

 しばらく睨み合った結果、アルテミスが小さくため息を吐いた。

「やっぱり勝てないよ。リズ、私は一応だけど神だよ。今まで、一体どんな戦いしてきたの……」

 アルテミスがもう一度ため息を吐き、リズとパトラの縄を解き、涙を流しているパトラを抱きしめて介抱を始めた。

「ほら、怖いのもう終わりだから……」

「うん……」

 アルテミスが優しく抱きしめたパトラが、頷いて涙を拭いた。

「この通り、リズは敵に回しちゃダメだよ」

 アルテミスが、私をみて笑みを浮かべた。

「うん、敵がきたら容赦しないよ。あたしたちがやってるのは、いつもこれなんだよね。面白くないでしょ!!」

 リズが笑って、パトラの手を引いてビーチから出ていった。

「ごめんね、見てるだけで怖かったでしょ。スコーンには、絶対やらないから安心して」

 再び私の上に座ったアルテミスが、頭をそっと撫でた。

「リズたちには、他にも色々やったんだけどね。特にリズは気にしない性格だから、ヤケクソになって裸に剥いて縛り上げて、全身涎だらけにして、三日くらい寮の部屋に閉じ込めた事があるんだけど、大いびきかいて床で寝ちゃうんだもん。一緒にいたパトラは、耐えきれなくて泣いたのに、本当に頑丈なんだよ」

 アルテミスが笑った。

 しばらくそのままで、また足音が聞こえた。

「師匠……あれ?」

 今度はイートンメスの声が聞こえた。

「ああ、ごめん。ちょっと、スコーンを借りてるよ。悪かった?」

「いえ、師匠が嫌でなければ構いませんが……なにしてるんですか?」

 イートンメスが近づいてきたようで、砂を踏む音が聞こえて私の前で止まった。

「うん、ちょっとした親睦会だよ。変わってるけど、大丈夫だから安心して」

「はい、師匠。大丈夫ですか?」

 私が頷くと、イートンメスが砂浜に座った。

「イートンメスもやる?」

 アルテミスが笑った。

「いえ、私は拷問のイメージがあるのでいいです。色々思い出してしまうので」

「そんな事じゃ悲しいから、試しにやってみない。スコーン、いいかな?」

 私が頷くと、アルテミスが私の体から下りた。

「移動が多くてごめんね。なぜか、一杯きちゃうから」

 アルテミスが私の頭を撫で、小さく笑った。

「い、いや、いいですよ」

「そういわずに、拷問のイメージを消してあげるから……」

 少し躊躇ったイートンメスをアルテミスが私の横に座らせて、後ろ手に縛った。

「全然キツくはしていないから、痛くないでしょ?」

「はい。ですが、師匠の前で恥ずかしいです」

 イートンメスが苦笑した。

「うん、気にしないでいいよ。私がみてるからね。嫌な感じする?」

「いえ、しませんよ。なんだか、妙に優しさを感じますね」

 イートンメスが笑った。

「ならいいね。スコーンはちょっとしか喋れなくしたけど、予想外で布がもうないんだよ。だから、テープだけね」

 アルテミスが、イートンメスの口を厳重にテープで塞いだ。

「よし、今日は朝から大漁だね。師匠って呼ぶくらいだから、スコーンと仲がいいんでしょ。いいね」

 アルテミスが笑みを浮かべ、イートンメスと私の頭を撫でた。・

「うん、仲良しなら、こうしておかないとね」

 アルテミスが私の首輪の縄を持って、直接イートンメスの首に巻き付けて留めた。

「うん、イートンメスには首輪より直に巻いた方がいいね。これで、お互い重しになって逃げられないよ」

 アルテミスが笑った。

「緩く巻いたから苦しくないでしょ。ちょっと眺めて楽しもうかな。仲良しコンビだね」

 アルテミスが私たちよりやや距離空けて立ち、満足そうに頷いた。

「うん、いいね。絶対離れないって感じで。喧嘩したらダメだよ、お仕置きしちゃうからね」

 アルテミスが笑った。

 私の方に歩いてくると、アルテミスが体の上に座った。

「うん、満足だよ。あとはルリとキキなんだけどねぇ。ちょっと縛っただけで、なんか泣いちゃいそうだからねぇ。こういう時は、遊びの感じでみんな仲良くがいいんだけど、難しいかな」

 アルテミスが笑った。

 しばらくそうしていると、また足音が聞こえた。

「あれ、虐めですか。ダメですよ!!」

 ルリの声と同時にバタバタと足音が聞こえ、パステルとルリ、キキが慌てた様子でやってきた。

「全然虐めじゃないよ。二人とも嫌がってないでしょ?」

「あっ、そうですね。では、なにを……」

 ルリの声が聞こえた。

「うん、試しにやってみようかな。嫌だったらいって、軽く縛るから砂浜に座って」

 私の前に三人が座り、アルテミスが手早く後ろ手に縛った。

「嫌じゃなければ、ちょっと口を塞ぐけどいいかな?」

 私の前で三人が頷き、アルテミスが手早くテープで口を塞いで回った。

「こっちも直だね。上司と助手の関係ならこれだよ」

 アルテミスが私の首輪に次々と縄を留め、反対側の 縄を三人の首に巻いて笑った。

「嫌じゃなさそうだね。これなら、機会があったら遊べるよ。変な事しないから、安心してよ」

 アルテミスが、再び私の体の上に座った。

「まさに、チーム・スコーンだね。これでビクトリアスがいれば完璧なんだけど、どうも朝ごはんをせっせと作っているみたいでね。エルフのみなさんと仲良くしてるから、誘えないね。喧嘩したらダメ。お仕置きでしばらくこうしちゃうよ」

 アルテミスが笑った。

 しばらくそうしたあと、アルテミスはイートンメスの口に貼ったテープを剥がし、全ての縄を解いた。

「どう、怖かった?」

「いえ、それはないですが、普段から師匠を叱り倒しているので、ちょっと恥ずかしいです」

 イートンメスが苦笑した。

「うん、それがいいと思わない?」

 アルテミスが笑った。

「うーん、微妙ですね。ところで、いつまで師匠と遊ぶんですか?」

「うん、朝ごはんが出来た頃かな。時間いっぱいまで遊びたいよ」

 イートンメスの問いに、アルテミスが笑って頭を撫でた。

「分かりました。私は家に戻っています」

 イートンメスが笑い、足音と共に視界から消えていった。

「さて、三人はどうかな。痛い場所はないと思うけど……」

 アルテミスが、ルリ、パステル、キキの様子を確認しながら、一人ずつ頭を撫でていった。

「よし、怖くなかったかな」

 アルテミスが三人の口を塞いでいたテープを剥がし、笑みを浮かべた。

「はい、怖くはなかったです」

 キキが笑みを浮かべ、ルリが笑い、パステルが小さく笑みを浮かべた。

「ならよかったよ。もうちょっとそうしておいて」

 私の上に座ったまま、アルテミスが笑った。

 しばらく潮風に吹かれてから、アルテミスは三人の縄を解いた。

「どうだったか分からないけど、私は変な事しないし全然怖くないからね。分かったら、家に帰って待っていて。スコーンが待ちぼうけだから」

「あっ、はい。スコーン、またあとでね」

 ルリが立ち上がるとパステルとキキも立ち上がり、バタバタと砂浜を出ていった。

「うん、みんな楽しそうでよかったよ。これが、結構勇気がいるんだよ。嫌われたら、もうおしまいだからね」

 アルテミスが笑い、私の上から立ち上がった。

「座り心地もいいね。ますます気に入ったよ。さて、そろそろいいかな。スコーンにはこれだね」

 立ち上がったアルテミスが、私を見下ろした。

「よしよし、いいね。じゃあ、これかな。しばらくは、これだと思うよ」

 アルテミスがかがんで、私の口を塞いでいたものを取り出し、サンダルを顔の前に置いた。

 なにもいわず、私がそれを舐めはじめると、アルテミスが小さく笑った。

「うん、分かってるね。少しずつ色々覚えてもらいたいんだけど、これは嫌かな……」

 アルテミスが袋から、大きな注射器のようなものを取り出した。

「うん、家で少し熱めのお湯を入れてきたんだけど、ちょうどよく冷めてる。なんだかわかるかな。便秘の時なんかに使うんだけどっていえば分かるかな。薬は入れていないから、問題ないよ。よかったら頷いて」

 笑顔のアルテミスに、私は頷いた。

「そっか、じゃあ体勢がキツいけど、ちょっと試してみようか。スカートと下着を脱がすよ」

 アルテミスが私の足首の縄を解き、スカートと下着をそっと脱がせた。

「これで、服は汚れないとは思うけど……」

 アルテミスがそっとしゃがみ、私のお尻に注射器を当てた。

「痛かったらごめんね。動くと危ないからじっとしてね。あと、できるだけ我慢して。意味がなくなっちゃうから」

 アルテミスの声と共にお尻に違和感があり、お腹の中になにか液体が入っていくのを感じた。

 しばらくして、腹痛が走りお腹がゴロゴロいいはじめた。

「まだダメだよ。いいっていったら、思い切り出しちゃっていいから」

 アルテミスが笑った。

 徐々にお腹のゴロゴロ音が強くなり、私の我慢も限界が近くなってきた。

「よし、いいよ。私は汚いなんて思わないから、思い切りね」

 アルテミスが笑い、私はお尻から液体を勢いよく液体を噴射した。

「よしよし、まだ痛くなるはずだから、しばらくこのままね。その間舐めてて」

 私の顔の前にサンダルを脱いだ素足を出し、アルテミスが笑みを浮かべた。

 それを舐め始めると、しばらくしてまたお腹が痛くなった。

「今度は我慢しないで、出しちゃっていいよ」

 私は頷きもうそのまま、波のたびにお尻から液体を出し続けた。

「よし、砂浜が吸ってくれたね。上着は大丈夫だったよ。まだ痛いかな?」

 アルテミスの問いに、私は首を横に振った。

「じゃあ、可哀想だから縄を解くから立って。その前にお尻を拭かないとね」

 アルテミスが首輪以外の縄を解いて私を立たせると、濡れたタオルでお尻全体を拭いてくれた。

「うん、もう綺麗だよ。恥ずかしいだろうから、下着とスカート履いて」

 アルテミスが差し出した私の下着を受け取って履き、スカートを履くとアルテミスが頭を撫でた。

「うん、よく頑張ったね。これで、もう恥ずかしいのないでしょ。楽しく遊びたいけど、これは危ないから時々ね」

 私が頷くとアルテミスが小さく笑った。

「さて、縄はもういいね。朝ごはんも出来ているだろうし、家に帰ろうか」

 アルテミスは小さく笑い、私の首輪の縄を引いて森の小道に入った。

 しばらく歩いていくと、いつかみたログハウスがあり、アルテミスが鼻を鳴らした。

「ん、これは……。スコーン、ちょっと寄り道だよ」

 アルテミスがいって、私たちはそのログハウスに入った。

 一部屋しかないログハウスの中は独特の臭気に満ちていて、床にキキが呆然とした表情で座っていた。

「なに、どうしたの?」

 アルテミスが慌ててキキに声をかけた。

「は、はい、ちょっとお腹の調子が悪いので、カリーナの購買で買ったお薬を使ったのですが、家には部屋がなくて出来なかったのです。まさか、これほどとは……間に合いませんでした」

 キキが顔を真っ赤にして、汚液にまみれたスカートを脱ぎっぱなしの状態で、小さくため息を吐いた。

 床に何個も転がった白い小さな容器をみて、アルテミスが慌てた。

「だ、ダメだよ、こんなに使ったら。とにかく、トイレに籠もっていて。私が掃除と洗濯するから!!」

「は、はい、ごめんなさい……」

 キキがため息吐き、ログハウスの奥にあるトイレに入っていった。

「さて、これどうしようかな。一応、モップとか完備なんだけどね。スコーン、ちょっと待ってて」

 アルテミスは縄を近くにあった椅子の背に結びつけ、掃除用具を取り出して手早く掃除を始めた。

「スコーンも気をつけてね。もし使うなら、私がやるからいって。その方が安全だから。窓開けないと……」

 バタバタとアルテミスがログハウス内を走り回り、せっせと掃除と洗濯を始めた。

「もう、さっき聞いておけばよかったよ。こんなに使ったら、もう食べたら直行だよ。可哀想だね」

 アルテミスが洗濯をしながら、小さくため息を吐いた。

「そうだ、カリーナの制服でよかったよ。自動洗浄と乾燥の魔法が掛かってるから、ニオイは取れるか。確か、完了まで一時間だったかな……」

 ログハウス内に縄を張り、それにキキのスカートと下着を干しながら、アルテミスが額を拭った。

「うん、これでいいや。本来はお説教ものだけど、キキもショックだったろうから止めておこうか。スコーンもみなかった事にして」

 アルテミスの言葉に、私は頷いた。

「それでいいよ。さて、予定が変わっちゃったな。キキが落ち着くまで、ここでやっちゃうか。お座り、なんてね」

 アルテミスが小さく笑みを浮かび、私は掃除が終わったばかりの床に、犬のように座った。

「まずはサンダルからね。ちょっと汚れちゃったけど、我慢してね」

 私はアルテミスのサンダルを舐めた。

 しばらくすると、アルテミスがサンダルを脱いだ。

 その足を舐めていると、アルテミスが小さく笑みを浮かべ、私の頭を軽く撫でてから鍵を外し、首輪をそっと外した」

「うん、もういいよ。ありがとう、これ取らなきゃね」

 アルテミスは私を立たせ、鼻輪を取るついでという感じで私の髪を引っ張って、顔を上に向けた。

「さてと、まずはこれを取ろうかな」

 アルテミスは私の口を塞いでいたテープを剥がし、布と下着を取り出して袋にしまった。

「はい、ありがとう。キキは大丈夫かな」

 アルテミスが心配そうな顔をした。

「うん、心配だね。大丈夫かな……」

 ログハウスの空気を入れ換えていると、キキがため息を吐きながらトイレから出てきた。

「大丈夫?」

 アルテミスが問いかけると、キキが頷いて小さく息を吐いた。

「あのさ、私はなにもみてないからね。大丈夫だよ」

 私はキキを抱きしめた。

「あ、ありがとうございます。ちょっとショックでした」

 キキが小さく笑みを浮かべた。

「こら、ダメだぞ。ちゃんと説明読まないとね。まあ、乾くまで待とう」

 アルテミスが笑みを浮かべた。

「はい、適量が分からなくてつい……」

「だから、説明書読んでよ。かなりキツいから、そっちの方も心配だよ」

 アルテミスが小さく息を吐いた。

「はい、まだお腹が痛いですが、もう大丈夫です。ご迷惑をおかけしました」

「無理しないでね」

 私は苦笑した。

「うん、結構大変だと思うから大事にしてね。まだ乾かないね。下着はなんとなく乾いたから履いておいて」

 アルテミスが、縄に掛けたキキの下着を取って渡した。

「はい、すいません」

 キキが下着を履き、椅子に座った。

「もう、ダメだよ。そういう時は、私に相談してよ。パトラでもいいからさ」

 アルテミスが小さく笑みを浮かべた。

「はい、迂闊でした。これ、乾きますか?」

「うん、リズから聞いたけど、勝手に乾くらしいよ。一時間だから、もうすぐだね」

 私は縄にぶら下げてあるキキのスカートを触った。

「よし、もうほとんど乾いてるね。ちょっと冷たいけど、履いてみる?」

「はい、これ以上ご迷惑をおかけできないので……」

 私がスカートを下げると、キキがそれを履いた。

「よし、これでいいね。帰ろうか」

 アルテミスが笑みを浮かべ、部屋に張った縄を解いて腰の袋にしまった。

「はい」

「キキ、元気だして。私だって、たまに……うげっ!?」

 うっかり口が滑りそうになり、私は慌てて口を閉じた。

「なに、スコーンもたまに漏らしちゃうんだ。いいこと聞いた、洗濯してあげるよ」

 アルテミスが笑った。

「そりゃ、一応人間だからね……。まあ、いいや。いこう!!」

 私は笑った。


 家に帰ると、すでに朝ごはんが出来ていて、エルフの皆さんは作業に出た後だった。

「はい、姉さん。これ……」

 ちょうど、キッチンで食器をガチャガチャやっていた様子のビクトリアスが、大きな黄色い封筒をイートンメスに差し出していた。

「なにこれ?」

「リズからですね。仕事の資料だそうです」

 ビクトリアスが再びキッチンに戻り、イートンメスが封筒を開けた。

「あっ、師匠。おかえりなさい」

 封筒の中身を取り出してから、イートンメスが私に笑みを向けてきた。

「うん、ただいま。朝ごはん食べちゃうね」

 私はまだ落ち込んでいる様子のキキを押して、椅子に座った。

「キキ、大丈夫だから安心して。誰にもいわないから」

 アルテミスが笑った。

「はい、ありがとうございます」

 小さく息を吐き、キキが朝ごはんを食べはじめた。

「まあ、誰にも失敗はあるよ。それにしても、急がないとね。もうお昼になっちゃうよ」

 私は家の時計をみて、笑みを浮かべた。

「はい、恥ずかしくてどうしていいやら……」

 キキが小さくため息を吐き、モソモソとご飯を食べた。

「そういう時は、開き直る。これに限るよ」

 アルテミスが笑った。

「開き直るですか……難しいですね」

 キキが苦笑した。

「うん、それがいいよ。失敗したら勉強して忘れる。研究もそうだよ」

 私は笑った。

「そうですか……分かりました」

 キキが笑みを浮かべた。

「うん、いいね。その調子だよ。さて、私はリズとパトラに挨拶してくるかな。今度こそ勝つよ」

「まだやるの。もう時間ないよ!!」

 私は笑った。

 アルテミスが笑みを浮かべ、家を出ていった。

「あの、本当に内緒ですよ。恥ずかしいので……」

「もちろんだよ。ほら、食べられるなら食べて!!」

 私は笑みを浮かべた。

「はい、美味しいです。でも、まだお腹が痛くて……」

 キキが苦笑した。

「そりゃそうだと思うよ。無理しないでね」

 私は笑みを浮かべた。


 ちょうど昼くらいに私たちは荷物を纏めて、帰りの飛行機に乗った。

「スコーン、楽しかった?」

 隣に座ったルリが、笑みを浮かべていった。

「うん、色々あったな……」

 私は苦笑した。

「そうだね。ここは面白いから、遠いけど頻繁にこようかな……」

 私は笑った。

 エンジンが掛かり、飛行機は一度滑走路に出て、端にある転回場で向きを変えて、再び正面を向いた。

『師匠、新しい気象データを受信しました。どうも、カリーナ一帯は季節外れの嵐に見舞われているそうです。もし、着陸できない様子でしたら、王都のファン国際空港に一度降りますので、そのつもりでいて下さいね』

 操縦席のイートンメスの声が聞こえ、私はベルトを強く締めた。

「さて、嵐ね。降りられるかな……」

 私は小さく息を吐き、飛行機がエンジン音を上げてガタガタの滑走路を走り始めた。

 程なく離陸した飛行機は、大きく旋回して一路カリーナに向けて、高度を上げていった。

 時々風に煽られて揺れる機体に身を任せ、私は背もたれを下げて目を閉じた。

「スコーン、また約六時間の旅ですね。私も寝ます」

 ルリが笑って、背もたれを大きく倒した。

「はぁ、なんか疲れたな……」

 私は呟き、そっと目を閉じた。


 飛行機の大揺れで目を覚ますと、空はもう夕闇が迫っていた。

 窓を叩く強風と雨の中、飛行機はゆっくり降下体勢に入っていた。

「うわ、揺れるね……」

「はい、先ほどはかなり危険でしたが、気象レーダーで雲を避けているようで、これでもいい方だそうです」

 すでに背もたれを立てていたルリに倣って、私も背もたれを元に戻した。

「これでも降りる気なんだ。イートンメスも気合い入ったな」

 私は笑みを浮かべた。

 飛行機は大揺れしながらも降下を続け。やがて窓の外にカリーナの巨大校舎が見えてきた。

「やる気だね。これは揺れるよ」

 私が呟いた時、飛行機が轟音と共に大きく揺れて、機内の灯りが明滅した。

「な、なに!?」

「恐らくですが、飛行機に落雷したのでしょう。大丈夫なように設計されているはずなので」

「そ、そっか、こりゃ酷い天候だね……」

 私は肘掛けをちょっと握った。

 大揺れする飛行機は、カリーナの上空を一回りするようにして飛び、多分滑走路に向かっているのだろうと察しが付いた。

 そのまま降下を続けていくと、機体がいきなり大きく斜めに傾き、エンジン音が上がって急上昇した。

『危険なので着陸復行します。ちょっと待って下さい』

 機内にイートンメスの声が響き、再び同じルートを使って滑走路に向かった。

「だ、大丈夫かな……」

 私は大荒れの窓の外をみて、小さく息を吐いた。

 再び滑走路に向かった、飛行機は揺れながらトンという衝撃と共に着陸した。

 まるで急ぐかのように滑走路上で急停止し、そのまま駐機場に向けて誘導路に入っていった。

「ふぅ、無事に着いたね」

 私は小さく息を吐いた。

「そうですね。強風下の着陸はハードだと聞いています。よかったですよ」

 ルリが笑った。

『はい、皆さん着きましたよ。忘れ物をしないように、確認して下さいね』

 ビクトリアスの機内放送が聞こえ、飛行機は駐機場に入って駐まった。

『今の天候では、外に出るとずぶ濡れになってしまいます。あと二時間くらいで嵐が抜けそうだと管制がいっていますので、このまま待機をお勧めします。ちょっと待ちましょう』

 再びビクトリアスの声が聞こえ、私はゆっくりベルトを外した。

「二時間だって、夜になっちゃうよ!!」

 私は笑った。


 窓の外の嵐が収まった頃には、すっかり夜になっていた。

「さて、帰ろうか」

 私が立ち上がると、ルリも席を立った。

 吹き返しの強風の中、私たちは駐機場に止めたままだったミニバンに分乗し、校舎に向かって移動を開始した。

 無事に校舎に着くと、私とルリは真っ直ぐ寮の部屋に向かった。

「ふぅ、疲れたね」

 私は自分のベッドに座り、小さ息を吐いた。

「はい、疲れましたね。でも、楽しかったです」

 ルリが笑った。

「さて、反省文の続き書かないとね。あと、何枚だったかな」

 私は苦笑し、机の椅子に移動したのだった。

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